《できません》の敬語
「できません」の敬語表現
「できません」は、この言葉そのもので敬語表現として成り立っています。「できません」を否定の形から元の形に戻すと、「できます」になります。「できます」という言葉は、「できる」の文末に「ます」を付けた丁寧語です。これと同じく、「できません」という言葉は「できない」に「ません」を付けた否定の形の丁寧語で、敬語表現として間違っていません。ですが、この言葉をそのままビジネスシーンやかしこまった場面などで使用してしまうと、相手に対して失礼な印象を与えてしまいます。「できない」の敬語表現としてほかに認められている言葉は、「できかねます」、「いたしかねます」、「〇〇しかねます」(修理しかねます、など)がありますので、特にビジネスシーンなどではこれらの言葉を使用する方が良いでしょう。「できません」の敬語の最上級の表現
前述の通り、「できない」の敬語表現には、「できません」、「できかねます」、「いたしかねます」、「〇〇しかねます」がありますが、最上級の敬語表現は「いたしかねます」です。「いたしかねます」の「いたす」は、動詞「する」の謙譲語です。「できかねます」の「かねる」は、「できない」の「ない」を婉曲的に表現している動詞であって謙譲語などの敬語表現ではありません。「できます」、「〇〇しかねます」、「できかねます」いずれも文末に丁寧語の「ます」が付いていますが、丁寧語よりも謙譲語の方がより高い敬意を表しますので、最上級の敬語表現は「いたしかねます」となります。「できません」の敬語のビジネスメール・手紙での例文
取引先に断りのメールをする場合の例文をご紹介します。「株式会社〇〇
製造販売部〇〇様
いつもお世話になっております。
株式会社〇〇、技術部の〇〇(氏名)です。
日ごろ弊社製品をご愛顧いただき、誠にありがとうございます。
お問合せいただいた件につきまして、ご回答いたします。
大変心苦しくはありますが〇〇製品の修理はいたしかねます。
製造から30年以上が経っており、部品の調達が難しいことがわかりました。
〇月には〇〇製品の最新バージョンの発売を予定しております。
恐縮ですが、ご検討いただければと存じます。
今後ともお引き立てのほど何卒よろしくお願い申し上げます。
株式会社〇〇
〇〇(氏名)」
続いては、顧客への手紙の例文をご紹介します。
「〇〇様
拝啓
秋冷の候、貴殿におかれましてはますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
この度は弊社のサポートサービスにお申込みいただき、誠にありがとうございます。
早速ですが、登録番号を記載したカードをお送りいたします。
恐れ入りますが、登録番号の再発行はいたしかねます。
番号を失念されてしまった場合は新規発行となり、手数料が発生してしまいますので、
こちらのカードを紛失しないよう、お気をつけくださいませ。
今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。
敬具
株式会社〇〇
カスタマーサービス部〇〇(氏名)」
「できません」を上司に伝える際の敬語表現
できないことを上司に伝える際には、「いたしかねます」、「〇〇しかねます」、「できかねます」などの敬語表現が適切です。注意したいのは、いくら敬語で丁寧に伝えているからといっても、できないことをただ伝えるだけでは社会人の対応として良いとはいえません。上司から何らかの依頼を受けたことについてできない旨を伝えるのであれば、まずは「大変申し訳ございませんが…」などとお詫びの気持ちを最初に伝えましょう。そして、できない理由についても伝えた方が良いです。例えば「申し訳ございません。あいにく家族が体調不良ですので本日の時間外対応はいたしかねます。明日であれば妻が在宅しておりますので時間外対応も可能です。」など、代案の提案ができると尚良いです。ビジネスの場でできないことを伝える場合、伝え方ひとつで印象が悪くなってしまうこともありますので注意したいものです。「できません」の敬語での誤用表現・注意事項
前述の通り、できないことを伝える場合には伝え方に気をつける必要があります。例えば顧客の要望に応えられずに断る際、その断り方によって顧客が「失礼だ!」と感じた場合は今後の取引に影響が出てしまうことも考えられます。「できない」ことをより丁寧に伝えたい場合は、文章の始めにクッション言葉を使うのもひとつの方法です。「できません」と断るということは、いくら丁寧に表現しても、相手に対して少なからずネガティブな印象を与えてしまいます。そのような、相手に与える嫌な印象やきつい印象をやわらげてくれるのがクッション言葉です。クッション言葉の例としては「不本意ではございますが…」、「誠に残念ですが…」、「大変恐縮ですが…」、「ありがたいお申し出なのですが…」などがあります。「できません」の敬語での言い換え表現
「できません」の言い換えとして「難しく存じます」と表現することができます。「難しく存じます」とは、そのまま「難しいと思います」の意味です。「いたしかねます」や「できかねます」よりも直接的に断っている感じがしないので使いやすい表現です。「ご希望の納期での納品は難しく存じます」といった感じで表現することができます。また、「見送らせていただきます」と言い換えることもできます。例えば、取引先と価格交渉をしたが折り合いがつかなかった結果、ビジネスに結びつかなかった場合に「今回は見送らせていただきます」と伝えることができます。「その値段では取引いたしかねます」などとすると、露骨で失礼な印象を与えかねません。ストレートな表現を避けることができる上に、「今回は」とすることで次回以降の取引の可能性を感じることができる表現となっています。《できません》の敬語
「できません」の敬語表現
「できません」を尊敬語の意味合いで表現する場合、「できかねます」となります。尊敬語表現では、相手ができないことを表す形になりますが、該当する尊敬語がありません。そのため、「することは難しい」という意味の婉曲表現、「できかねる」を使用することが望ましいです。そして、それを丁寧な形にすると、「できかねます」となります。「できません」では、相手ができないということを、断定的に決めつける表現になってしまいます。「ます」という丁寧要素が入っていますが、敬語としては不十分です。そこで、「できかねます」という婉曲表現にして、できないことを遠回しに伝えます。そうすると、丁寧表現でありながらも、尊敬の意思が伝わりやすくなります。「できません」の敬語の最上級の表現
相手が主体となる「できません」は、尊敬語にすることが不可能です。そのため、最上級の敬語表現にする場合も、丁寧な表現である「できかねます」を使用することになります。もし、強い尊敬の意思を伝えたいのであれば、表現の内容を工夫することも可能です。自分が、「相手ができるようになる、資格や能力を与えられない」という形に置き換える方法です。そうすると、「いたしかねます」や「承りかねます」という謙譲語を使用して、自らをへりくだらせることが可能となります。例えば、「申し込みができません」という表現であれば、相手が主体となってできないという意味だと、「申し込みできかねます」という丁寧表現が限界です。しかし、「申し込みの対応ができません」という風に、自らを主体とする形に置き換えると、「申し込みの対応をいたしかねます」という謙譲表現になります。そうすると、自らをへりくだらせる形となって、実質的には尊敬語と同じように、相手を持ち上げる形となります。したがって、「できません」を最上級の尊敬表現にしたいのであれば、自らをへりくだらせる謙譲表現に作り変えると良いでしょう。
「できません」の敬語のビジネスメール・手紙での例文
「できません」の尊敬表現として使用できる「できかねます」を用いて、ビジネスメールや手紙での例文を作ると、「期限を超えた場合、お申し込みできかねますので、ご注意くださいませ」「残念ながら、イベント当日は、チケットをお持ちでないお客様はご入場できかねます」といった形になります。尊敬の意味合いであれば、目上の相手が主語です。より強い尊敬の意思を示したいのであれば、「期限を超えた場合、お申し込み受付の対応は致しかねますので、ご注意くださいませ」「残念ながら、イベント当日は、チケットをお持ちでないお客様のご入場は承りかねます」という風に、自らをへりくだらせる謙譲表現にする他ありません。その場合、主語は自分自身となります。
「できません」を上司に伝える際の敬語表現
身近な上司に対しては、尊敬の意思を伝える場合であっても、「できません」をそのまま使用した方が良い可能性が高いです。「できかねます」は、ビジネスのクライアントなど、外の人に対して使用されることが多い表現です。そのため、身内である上司に対して使用すると、よそよそしく、堅苦しい印象を与える恐れがあります。「できかねます」をよりかしこまった形にした、「いたしかねます」や「承りかねます」であればなおさらです。したがって、立場が近い上司が相手であれば、「できません」を使用して問題はないでしょう。ただ、「上司ができない」という表現だと、失礼になる恐れがあります。そのため、角が立たないように、「できません」の主語が、上司ではなく自分自身になる表現にした方が無難です。また、立場が離れている上司であれば、「できかねます」を使用しても問題はありません。
「できません」の敬語での誤用表現・注意事項
「できません」を尊敬の意味合いである「できかねます」にする場合、「できかねません」という表現を使用しないようにしましょう。「できかねます」は、「できません」を丁寧にした形です。そこに、さらに「ません」を付け足したのが「できかねません」です。その意味は、「することは難しいことはない」という内容になってしまいます。「できません」とは意味が異なる上に、非常に複雑な表現です。そのため、一般的に、「できかねません」を使用することはありません。「できかねます」は、最後が「ます」で終わっているため、「できる」が変化したものだと誤解されやすいです。しかし、あくまでも「できません」が変化した表現で、不可能の要素は含まれています。したがって、「ません」を追加する必要はないです。また、強い尊敬の意思を示すための謙譲語「いたしかねます」「承りかねます」も同様です。「いたしかねません」「承りかねません」という表現にはしないようにしましょう。
「できません」の敬語での言い換え表現
「できません」を言い換えると、「ご希望に沿うことができません」や、「ご要望にお応えできず、申し訳ございません」といった表現にすることができます。いずれも、丁寧な表現ですが、使用する本人が自らを下げる形となっています。そして、相手の希望や要望が実現できないということで、実質的には相手の不可能を示すことができます。自らがへりくだった表現であるため、相手を持ち上げる形で、尊敬の意思を伝えられます。- 《できません》の敬語のページへのリンク