魚
『源五郎の天昇り』(昔話) 源五郎が天に昇り、雷の手伝いをして水をまき、下界に大雨を降らせる。ところが足を踏み外して、源五郎は琵琶湖に落ち、もがいているうちに鮒になった。それが「源五郎鮒」である(長崎県南高来郡。*実際は、漁夫源五郎が安土城主に鮒を献上したことが、「源五郎鮒」の名の由来だという)。
『魚の李太白』(谷崎潤一郎) 詩人李太白は、揚子江に沈んで海に流され、真っ赤な鯛と化した。その鯛は、やがて縮緬細工の飾り物に変り、結婚祝いの品として桃子に贈られた。桃子は、縮緬の鯛が「私は李太白だ」と名乗るので驚く。鯛は、「私はいまだに酔っ払って赤い顔をしているのだ」と言う。
『水中都市』(安部公房) 「おれ」の父と称する男がアパートの部屋に上がりこみ、やがて身体が膨張し、皮膚が裂けて、魚になった。魚は窓から外に出て野良魚となり、人間を食い殺して逮捕された。父はこれから訓練をうけて警察魚となるか、死刑になって調理されるか、どちらかの運命だ。
*雷神が魚に化す→〔落雷〕3bの『日本書紀』巻22推古天皇26年8月。
『雨月物語』巻之2「夢応の鯉魚」 三井寺の僧・興義(こうぎ)は絵の名手で、特に鯉魚の絵が得意だった。ある年、彼は病にかかり息絶え、3日後に蘇生したが、その間に彼の魂は身体から抜け出て、琵琶湖の鯉魚の中に入り、心のままに遊泳した。鯉魚は漁夫によって釣り上げられ、あやうく膾にされそうになった時、魂は再び興義の身体に戻った(*興義の病気は治り、彼はその後長く生きて寿命を全うした→〔絵〕1a)。
*鰯に生まれ変わりたい→〔転生(動物への)〕3の『ライムライト』(チャップリン)。
『古今著聞集』巻1「神祇」第1・通巻27話 日高川(=和歌山県日高郡)の魚が、「南無大悲(熊野)三所権現」と唱える声を聞いたおかげで、人間の身に生まれ変わった。しかし彼は盲目だったので、熊野本宮の柴燈(さいとう)を焚く仕事を一心に勤め、やがて開眼した。
★4.物言う魚。
『今昔物語集』巻4-37 仏法を知らぬ孤島の渚に、数千の大魚が寄って来て、口々に「阿弥陀仏」と唱えた。島の人々はこの大魚を「阿弥陀魚」と名づけ、「阿弥陀仏」と言って大魚を食べた。数多く言って大魚を食べると美味だったので、人々はさかんに阿弥陀仏の名号を唱えた〔*阿弥陀仏が人々に念仏を勧めるために、大魚に化身して食われたのだった。大魚を食べた後に棄てた骨は、蓮華になった〕→〔極楽〕9。
★5.笑う魚。
『鸚鵡七十話』第5話・第17話 魚を食べぬ妃に王がその理由を問うと、妃は「夫以外の男(「魚」は男性名詞)には、一切目も触れません」と答える。その時、皿の中の魚が笑う。王は臣下たちに理由を問い、大臣の娘バーラサラスヴァティーが魚の笑いのわけを明らかにする。妃は男に目も触れぬどころか、馬丁と不義の関係を続けていたのだった。
『カター・サリット・サーガラ』「『ブリハット・カター』因縁譚」 贋ナンダ王(*→〔火葬〕3)は、露台の妃と下の婆羅門が見つめ合っていたことを怒り、婆羅門の処刑を命ずる。その時、市場に並ぶ1尾の魚が笑うので、贋ナンダ王は宰相ヴァラルチに理由を問う。宰相は、夜、羅刹女の言葉を立ち聞きして、王に報告する。後宮には女装の男たちが忍び入り、妃たちと通じているのに、それを見逃して無実の婆羅門を処刑するのがおかしくて、魚は笑ったのだった。
★6.魚女房。
『魚女房』(昔話) 男が、子供から鱒を買い取って川に放す。何日か後、美女が男の家に来て「女房にしてくれ」と言う。男は、女を女房にする。毎日、女房が作るお汁(つけ)が美味なので、男が台所をのぞくと、女房は着物をぬいで鱒の姿になり、鍋に入って出汁(だし)を出していた。女房は見られたことを悟り、鱒に戻って水舟(=流し)から川へ逃げ去った(山形県西置賜郡。*女房が鍋に小便をしていた、という形もある)。
『鯉の報恩』(昔話) 村に、老母と2人暮らしの男があった。ある日、男は鯉を買って池へ放生してやる。その夜、美しい娘が「一晩泊めてほしい」と訪れ、そのまま下女となり、やがて男の嫁になる。殿さまが、男の嫁を横取りしようと3つの難題を出し(*→〔灰〕4・〔太鼓〕1・〔瓢箪〕2c)、「これができなければ嫁をよこせ」と要求する。嫁が3つの難題を解決したので、殿さまは「かしこい嫁だ」と感心して、男にどっさりお金をくれた。男と嫁と老母は、一生楽に暮らした。嫁は鯉の化身で、恩返しをしたのだ(新潟県南魚沼郡)。
『西鶴諸国ばなし』巻4-7「鯉の散らし紋」 漁師の内助が生簀に雌鯉を飼うこと18年、鯉は14~15歳の娘ほどの大きさになった。内助が妻をめとると、留守の間に美女が訪れ、妻に「私の腹には内助の子がいる。お前は実家へ戻れ」と抗議した。内助の漕ぐ舟には大鯉が飛び乗り、口から子の形をしたものを吐き出して、消え失せた。
『太平広記』巻469所引『三峡記』 男が白い魚を釣る。家に持って帰ると美女に変じ、「私は高堂(高唐)の女で、魚となって遊んでいたところを捕らえられた」と言う。男と女は夫婦になるが、3年後に女は高唐へ帰る。その後、女は年に3~4度来た。
★7.魚が船に飛び入る。
『史記』「周本紀」第4 周の武王が出征の軍を起こし、黄河を渡った。中流まで進んだ時、白魚が王の船に躍りこんだ。武王は伏してこれを捕らえ、祭った。
『平家物語』巻1「鱸」 平清盛がまだ安芸守であった時、伊勢の海から船で熊野へ参詣する途次、大きな鱸が船中に踊り入った。案内の山伏が「これは熊野権現の利生。早速お召し下さい」とすすめ、清盛も「吉事なり」と言い鱸を食した。
*不思議な魚→〔恩返し〕1の『西遊記』百回本第9回・〔洪水〕1aの『シャタパタ・ブラーフマナ』・〔成長〕1cの『酉陽雑俎』続集巻1-875。
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