転生(動物への)
『日本霊異記』中-15 僧形の乞食が、高橋連東人の家の法事に講師として招かれる。夜、乞食の夢に赤い牛が現れ、「私は東人の母である。生前、子の物を盗み用いたため、死後この家の牛に転生し、罪の償いをしている」と告げる。翌朝、乞食は夢の告げを語り、法事が終わると牛は死んだ〔*『今昔物語集』巻12-25に類話〕。
『日本霊異記』中-32 薬王寺の檀家の男の夢に牛が現れ、「私は物部の麿という者だ。生前に寺の酒2斗を借用し、返さずに死んだ。そのため牛に生まれ変わり、寺で8年間の労役をせねばならない。今、5年が終わり、残りはあと3年だ」と告げた。実際、寺には、5年前から使役されている牛がいた。3年後、牛は労役を終えて、どこかへ行ってしまった〔*『今昔物語集』巻20-22に類話〕。
『今昔物語集』巻13-42 橘の木を愛した僧は、死後小蛇に生まれ変わって木の下に住んだ。
『今昔物語集』巻13-43 紅梅を愛した娘は、死後1尺ほどの蛇に転生し、紅梅の小木にまきついた。
『今昔物語集』巻14-4 聖武天皇に一夜の寵を受けた女が、賜った黄金千両を墓に埋めるように遺言して死ぬ。女は死後、蛇と化して墓所に住み黄金を守る。
*現世に残した物に執着する死者が、幽霊となって現れる→〔霊〕3a・3b。
★3.魚への転生。
『ギリシア哲学者列伝』(ラエルティオス)第8巻第2章「エンペドクレス」 エンペドクレスは、魂は動物や植物のありとあらゆる種類のものへ入って行く、と考えた。彼は言った。「私はこれまでにも、若者にも乙女にも、潅木にも鳥にも、さらには、波間におどるもの言わぬ魚にもなったのだ」。
『ライムライト』(チャップリン) 老芸人カルヴェロは彼の生涯最後の舞台で、生まれ変わりの歌を歌い、踊った。「3歳の時、生まれ変わりについて聞き、今も信じている。この世を去る時、期待で心躍るだろう。でも木に生まれ変って地面にへばりつくのはいやだ。花に生まれ変わって花粉を待ち続けるのもいやだ。鰯に生まれ変わり、青い海の底を泳ぎたい」〔*この直後に彼は背骨をいため、心臓発作を起こして死ぬ〕。
★4a.人間は死んだ後に、各氏族の祖先である動物に転生する。
『金枝篇』(初版)第3章第12節 ホピ族は、熊族・鹿族・狼族・野ウサギ族・・・などのトーテム集団に分かれており、彼らは、自分たちの氏族の祖先が、熊・鹿・狼・野ウサギといった動物だ、と考えている。そして、それぞれの氏族の者は、死ねば転生してその動物になる、と信じている。
『キリシタン伝説百話』(谷真介)73「三世鏡」 キリシタン伴天連の持つ「三世鏡」をのぞくと、そこに自分の未来の姿が映し出される。ある男が三世鏡を見せられ、牛や馬、鳥や獣になった自分の顔が次々と映し出されたので、びっくりして嘆き悲しんだ。伴天連が、それから逃れる手立てとしてデウスの教えを説き、男はただちにキリシタンになった。
★5.人間のまま転生し続けることは稀で、前世で動物だったり、来世で動物になったりするのが普通である。
『酉陽雑俎』巻2-75 裴という男が旅の途中、病み臥した鶴を見る。白衣の老人が「人の血を塗ってやれば、飛べるようになります」と言うので、裴は自分の臂を刺して血を取ろうとする。老人は、「三世、人間でなければ、その血は効果がない。あなたの前世は、人間ではありません」と告げ、「洛陽の胡蘆生という人物が、三世、人間です」と教える。裴は洛陽へ行き、胡蘆生の血をもらって、鶴の病気を治してやった。
*奴隷の前世は乞食、前々世は猫だった→〔猫〕4bの『広異記』35「三生」。
*汪可受の前世は人間だったが、前々世は騾馬だった→〔赤ん坊〕2cの『聊斎志異』巻11-439「汪可受」。
*生まれ変わるとしても、もう人間にはなりたくない→〔兵役〕7の『私は貝になりたい』(橋本忍)。
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