動く首
『酒呑童子』(御伽草子) 源頼光・渡辺綱ら6人の武将が、眠る酒呑童子の首を斬る。首は天に舞い上がり、頼光を噛もうとねらったが、頼光が神から得た星兜を恐れて近づけず、頼光の身は無事であった。
『神道集』巻4-17「信濃国鎮守諏訪大明神秋山祭事」 悪事の高丸の首は切られて地に落ちてからも声をたて、雷のごとくわめくので、鉾剣で地面に突き刺した。
『捜神記』巻11-4(通巻266話) 眉間尺の首は切られてから釜で3日3晩煮られたが、首は湯の中からはねあがり、すさまじい怒りの形相を示した。
『俵藤太物語』(御伽草子) 俵藤太に討たれた平将門と部下たちの首は都大路を引き回され、獄門にかけられたが、将門1人の首は眼も枯れず、色も変わらず、時々は歯噛みをして怒る気色であった。
『はかりごと』(小泉八雲『怪談』) 打ち首になる罪人が、死後の復讐を誓う。恨みの念力の強さを示すために、彼の首は、転がった後に飛び上がって、庭石に噛みついて見せる。しかし死の瞬間、彼は庭石に噛みつくことだけを一心に念じていたので、復讐の思いを忘れて死んでいった。
『平治物語』上「信西の首実検の事」 信西の首が京大路を渡され、大勢が見る。藤原信頼・源義朝の車の前を、信西の首はうなずいて通った。
『ろくろ首』(小泉八雲『怪談』) 行脚の僧回龍が殺した木樵の首(*→〔ろくろ首〕3)が、回龍の僧衣の袖に噛みついたまま、離れない。追剥が、首つきの僧衣を回龍から5両で買い取り、それを着て、街道を通る人をおどかそうと考える。しかし追剥は、首が化け物のものであることを知って恐れ、首を埋葬し、供養した。
*→〔言霊〕1の『西鶴諸国ばなし』巻5-6「身を捨てて油壺」・〔日食〕2の『マハーバーラタ』第1巻「序章の巻」。
*ギロチンで処刑された首が瞬(まばた)く→〔処刑〕5aの『断頭台の秘密』(リラダン)。
*動物の首が切られて宙を飛ぶ→〔犬〕3の『忠義な犬』(昔話)・〔誤解による殺害〕1の『椿説弓張月』。
『今昔物語集』巻22-1 大極殿で節会の行なわれる日、大織冠(藤原鎌足)たちが蘇我入鹿を暗殺した。入鹿の首は、斬られて皇極女帝の御座まで飛び、「私に罪はない。なにゆえに殺されるのか」と言った。
『三浦右衛門の最後』(菊池寛) 臆病者の三浦右衛門が刑場へ引き出される。彼は「命が惜しい」と繰り返し訴え、「手足をなくし不具となっても、助かりたい」と請う。結局彼は首を討たれるが、首は砂上を転がり、止まった所で口をモグモグさせた。「命が惜しゅうござる」と言いたかったのであろう。
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