動物犯行
★1.人間が盗んだ、と思われたものが、実は動物の仕業だった。
『世間胸算用』(井原西鶴)巻1-4「芸鼠の文づかひ」 大晦日に隠居所の老母が1年を振り返り、「元旦に年玉銀1包みをもらって棚に置いたのを、盗まれたのが口惜しい」と言って家族を疑う。家族たちが濡れ衣をはらすべく家中を捜すと、母屋の屋根裏の棟木の間に、年玉包みが見つかる。鼠が引いて行ったのだった。
『輟耕録』(陶宗儀)「金の箆」 主人の食事中に来客があり、金製の箆(へら)を肉に刺したまま、主人は客間へ行った。あとで見ると箆がなくなっていたので、主人は給仕係の下女を疑い、折檻して殺してしまった。1年後、屋根の繕いをすると、瓦の間から箆と骨が落ちて来た。猫が箆と肉をくわえて行ったことが、これによって明らかになった。
『テレーズ・ラカン』(ゾラ)10 女中が主人の家の銀の食器を盗んだというので、監獄に送られた。それから2ヵ月して、木を切り倒したところ、その食器がカササギの巣から出て来た。カササギが泥棒なのだった〔*木曜の夜の会でグリヴェが語る物語〕。
*人間の泥棒ではなく、簾(すだれ)のしわざだった→〔泥棒〕4の『子不語』巻12-291。
『半七捕物帳』(岡本綺堂)「半鐘の怪」 夜、火事でもないのに町内の半鐘が鳴り、人々をあわてさせる。鍛冶屋の少年が悪戯の犯人と疑われて縛られるが、あいかわらず半鐘は鳴るので、「河童か妖怪の類かもしれぬ」と皆は思う。それは、芝居小屋から逃げ出した大猿の仕業であり、半七と鍛冶屋の少年が、大猿と格闘して捕らえた。
★3.人間の犯した殺人と思われていたものが、実は動物の仕業だった。
『シルヴァー・ブレイズ号事件』(ドイル) 調教師ストレイカーが何かの鈍器で頭を砕かれて死に、鋭い刃物による傷が腿に残っていた。彼は、競走馬シルヴァー・ブレイズ号の脚の腱に傷をつけ、走れないようにしようと近づき、馬に蹴られて死んだのであり、その時、自らの持つメスで腿を刺してしまったのだった。
*→〔密室〕1の『まだらの紐』(ドイル)・『モルグ街の殺人』(ポオ)。
*植物犯行。人間の犯した殺人と思われていたものが、植物の仕業だった→〔竹〕4の『懐硯』(井原西鶴)巻4-2「憂目を見する竹の世の中」。
★4.動物の仕業と思われていたものが、実は人間の犯行だった。
『半七捕物帳』(岡本綺堂)「雷獣と蛇」 落雷の時には雷獣が一緒に落ちて来て、襖障子や柱などを掻き破ってゆく、と信じられていた。ある夜の雷雨の後、男が顔や手先を掻きむしられて死んでいたので、雷獣に襲われた、と見なされた。しかしそれは、愛人だった女が、男の心変わりを恨んで絞殺し、雷獣の仕業に見せかけるために爪で引っ掻いたのだった。
『覆面の下宿人』(ドイル) 猛獣使いの男ロンダーが頭を砕かれ、脳天に深い爪あとを残して死んでおり、ライオンの仕業と見なされた。それは実は、ロンダーの妻が情夫と共謀し、棍棒に長い鉄釘を5本打ち込んだものでロンダーを殴り殺したのだった。しかしその直後に、妻はライオンに顔の肉を噛み取られ、情夫は逃げ去った。妻は一生、ベールで顔を隠して暮らした。
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