クランベリー
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/24 05:50 UTC 版)
名前の由来と歴史


鶴 (crane) のベリー (berry) の意味。アメリカの初期のヨーロッパ系移民が花が開く前の茎、萼、花弁が鶴の首、頭、くちばしに似ていることから名付けたとされる。クランベリーが鶴の好物であるということに由来するとする説もある。カナダ北東部では「モスベリー」と呼ばれる。フェンに原生していたことから英語圏では「フェンベリー」とも呼ばれる。17世紀、ニューイングランドでは熊が好むことから「ベアベリー」と呼ばれることもあった。
なお、ニシンの体積を測る単位クラン(cran、37.5ガロン)とは無関係である。
北アメリカではアメリカ州の先住民族が食用としたのが最初とされる。ペミカンなどの食材として使用されたほか、薬や染料としても使用された。アルゴンキン族は「ササマナシュ」と呼び、マサチューセッツの飢えたイギリス系移民に分け与えたとされ、感謝祭の伝統的料理に使用されている。1816年頃、アメリカ独立戦争で活躍したヘンリー・ホールがケープコッドにあるデニスで栽培したのがクランベリー農園の最初とされる。1820年代、ヨーロッパに輸出されていた[3]。北欧やロシアで野生の植物として人気となった。スコットランドでは当初野生の植物であったが、生育地の変化によりもう生息していない。
栽培
生産地および土壌

クランベリーはアメリカ合衆国のマサチューセッツ州、ニュージャージー州、オレゴン州、ワシントン州、ウィスコンシン州、カナダのブリティッシュコロンビア州、ニューブランズウィック州、オンタリオ州、ノバスコシア州、プリンスエドワードアイランド州、ニューファンドランド・ラブラドール州、ケベック州において主要な商業作物となっている。ブリティッシュコロンビア州のフレイザー・ヴァレイ地区では1,150ヘクターから国内生産量の95%を占める1,700万kgのクランベリーを生産する[4]。アメリカ合衆国では国内生産量の半分以上を生産するウィスコンシン州が最大の生産地となっており[5]、次にマサチューセッツ州が続く。また量は少ないが、アルゼンチン南部、チリ、オランダでも生産されている[6]。
歴史的にクランベリー畑は湿地帯にできている。近現代、クランベリー畑は高地の浅い地下水面にできている。地表面は畑の周囲に堤防を作るために削り取られる。砂が4インチから8インチの深さに敷かれる。排水を均等にするため表面をレーザーレベルで平面にする。タイル敷きの排水設備や側溝により頻繁に排水される。貯水もでき、堤防の上を重機が運行することもできる。生育や、秋から春の冷害から保護するための灌漑設備が設置されている。
年中水浸しとの誤解もあるが、生育期には水に浸かっていない。ただし土は常に湿った状態である。秋になると収穫しやすいように水がはられ、冬季の低気温から保護する。ウィスコンシン州、ニューイングランド、カナダ東部などの寒冷地において、冬季にこの水は凍る。3年から5年ごとに氷の上からトラックで薄く砂を撒き、害虫駆除や幹の再活性化を図る。
繁殖
クランベリーは移植することにより繁殖する。新しい畑の砂の上につるが広がり、砂の中に入り込む。最初の数週間こまめに水やりすると、根がはり新芽が育つ。初年度は窒素肥料を少量与える。新たなクランベリー畑の設置費用は1ヘクターにつき7万ドル(1エーカーにつき28,300ドル)と見積もられる。
成熟および収穫
秋、9月から11月上旬頃、実が真っ赤に色付くと収穫の時期となる。実は最初白または薄いピンクであるが、日光を充分に浴び完熟すると真っ赤に色付く。50年前より、6から8インチ(15から20cm)の高さまで水を張り、収穫機でつるから実を外す収穫方法が行なわれている。水に浮いた実は畑の角に集められてベルトコンベヤーまたはポンプでトラックに積まれ、倉庫に移動する。洗浄および選別され、梱包または加工まで保存される。
多くのクランベリーが上記のように水上で収穫されるが、アメリカの収穫高の5-10%は水を張らずに収穫される。この収穫方法は人件費がかかる上に収穫量も少ないが、傷みが少ないため冷凍や加工を施すことなく生で販売することができる。昔は櫛形の農具で収穫されていたが、近現代では機械化されて蔓を傷めず走行できるほどの小さい農機具で収穫する。
白いクランベリー・ジュースは熟した実から製造されるが、赤くなる前のものを使用する。早期の収穫は収穫高を下げ、早期の水張りは蔓に損傷を与えるが、それほど深刻ではない。
生のクランベリーは腐敗予防に通気性を良くするため底が網目状またはすのこ状の浅いビンまたは箱に入れられる。生で販売されるクランベリーは夏の終わりに収穫され、冷蔵庫ではなく壁の厚い倉庫で保存される。倉庫の排気口の開閉により室温が調節される。加工予定のクランベリーは収穫直後に大きなコンテナに入れられ冷凍されることが多い。
食用
栄養価
100 gあたりの栄養価 | |
---|---|
エネルギー | 46 kcal (190 kJ) |
12.2 g | |
糖類 | 4.04 g |
食物繊維 | 4.6 g |
0.13 g | |
0.39 g | |
ビタミン | |
ビタミンA相当量 |
(0%) 3 µg(0%) 36 µg91 µg |
チアミン (B1) |
(1%) 0.012 mg |
リボフラビン (B2) |
(2%) 0.02 mg |
ナイアシン (B3) |
(1%) 0.101 mg |
パントテン酸 (B5) |
(6%) 0.295 mg |
ビタミンB6 |
(4%) 0.057 mg |
葉酸 (B9) |
(0%) 1 µg |
ビタミンC |
(16%) 13.3 mg |
ビタミンE |
(8%) 1.2 mg |
ビタミンK |
(5%) 5.1 µg |
ミネラル | |
ナトリウム |
(0%) 2 mg |
カリウム |
(2%) 85 mg |
カルシウム |
(1%) 8 mg |
マグネシウム |
(2%) 6 mg |
リン |
(2%) 13 mg |
鉄分 |
(2%) 0.25 mg |
亜鉛 |
(1%) 0.1 mg |
マンガン |
(17%) 0.36 mg |
他の成分 | |
水分 | 87.13 g |
| |
| |
%はアメリカ合衆国における 成人栄養摂取目標 (RDI) の割合。 出典: USDA栄養データベース(英語) |
生のクランベリーにはミネラル、マンガンのほか、ビタミンC、食物繊維が含まれている。これらは100gにつき1日の摂取基準の1割以上を占め、微量ながらほかの栄養素も存在する[7]。
食用方法
果実は堅く非常に酸味が強く、95%がクランベリージュースやクランベリーソースの原料となる。またドライにしたり、甘味料を加えたりして販売される[8][9]。
通常、クランベリージュースは酸味を減らすため甘味料を加えたり、ほかの果汁を混ぜたりする。コスモポリタンなど多くのカクテルがクランベリージュースから作られる。1oz(30ml)につき小さじ1杯の砂糖が加えられており、クランベリージュースを使用したカクテルは、肥満に繋がる炭酸飲料よりはるかに甘い[10]。
クランベリーの果実はクランベリーソースとして知られるコンポートやゼリーとして調理される。クリスマスやアメリカ合衆国およびカナダの感謝祭では七面鳥の丸焼きにクランベリーソースが伝統的な定番となっている。マフィン、スコーン、ケーキ、パンなど小麦粉製品でも使用される。この場合、オレンジやゼストなどと併せることもある。まれにスープやシチューなどの酸味付けに使用されることもある[8]。
生のクランベリーは家庭で冷凍して約9ヶ月保存することができ、解凍せずに調理できる[9]。
- ^ a b c d e f g h i 伊藤・野口監修 誠文堂新光社編 2013, p. 54.
- ^ 伊藤・野口監修 誠文堂新光社編 2013, p. 84.
- ^ “History”. Cranberries.org. 2009年11月13日閲覧。
- ^ “Cranberries”. BC Ministry of Agriculture (2014年). 2014年8月11日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年8月4日閲覧。
- ^ United States Department of Agriculture (2010年8月18日). “Wisconsin -Cranberries”. 2011年10月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年7月31日閲覧。
- ^ “Cranberry Terschelling BV”. 2011年11月19日閲覧。
- ^ “Nutrition facts for raw cranberries”. Nutritiondata.com. Conde Nast (2013年). 2014年1月19日閲覧。
- ^ a b Zeldes, Leah A. (2009年11月25日). “Eat this! Cranberries more than a thanksgiving condiment”. Dining Chicago. Chicago's Restaurant & Entertainment Guide, Inc.. 2009年11月25日閲覧。
- ^ a b “The American Cranberry-Basic Information on Cranberries”. Library.wisc.edu. 2010年10月4日閲覧。
- ^ Calvan, Bobby Caina. "Cranberry industry seeks to avoid school ban." Boston Globe, 25 June 2012.
- ^ Rocha DMUP, Caldas APS, da Silva BP, Hermsdorff HHM, Alfenas RCG (January 2018). “Effects of blueberry and cranberry consumption on type 2 diabetes glycemic control: A systematic review”. Crit Rev Food Sci Nutr: 1–13. doi:10.1080/10408398.2018.1430019. PMID 29345498.
- ^ Pourmasoumi M, Hadi A, Najafgholizadeh A, Joukar F, Mansour-Ghanaei F (April 2019). “The effects of cranberry on cardiovascular metabolic risk factors: A systematic review and meta-analysis”. Clin Nutr. doi:10.1016/j.clnu.2019.04.003. PMID 31023488.
- ^ a b c クランベリー (ツルコケモモ) - 「健康食品」の安全性・有効性情報(国立健康・栄養研究所) 2018/06/01更新
- ^ Howell AB (October 2013). “Updated systematic review suggests that cranberry juice is not effective at preventing urinary tract infection”. Evid Based Nurs 16 (4): 113–4. doi:10.1136/eb-2012-101163. PMID 23604365 .
- ^ 市販品は、クランベリー果汁の含有率は低く大量のブドウ糖等が付加されているものが多いため:出典 ハーブ&サプリメント NATURAL STANDARDによる有効性評価 産調出版株式会社 渡邊昌日本語監修
- 1 クランベリーとは
- 2 クランベリーの概要
- 3 名前の由来と歴史
- 4 健康
- 5 参考文献
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