ISILの支配下
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/01/16 17:37 UTC 版)
「ラッカの戦い (シリア内戦)」の記事における「ISILの支配下」の解説
ラッカを支配したISILは、市民に対する抑圧を行った。市内のキリスト教徒を保護すると称して、ジズヤ(人頭税)復活など12項目の規則を制定した(ただし、大部分のキリスト教徒はすでに街を出ていると推測された)。 2014年6月にISILがカリフ制の樹立を宣言すると、ラッカは「首都」と目されるようになった ラッカでは、市民の服装が黒に統一された。女性は全身を黒いブルカで覆い、親族の付き添いがなければ家から出られないとされた。さらに男女別の戦闘員が路上でシャリーアを施行していた。また、ラッカにはISILの行政機構が集積し、教育・保健・水道・電気・宗教・防衛などの省庁がおかれた。嗜好品や娯楽はISIL戦闘員に独占され、一般人はコーヒーショップから締め出された。タバコの売買・使用も禁じられた。ムアッジンが祈りの時刻を告げると、モスクで祈らなければ身柄を拘束された。戦闘員だけは高い報酬を得ることができるため、貧しい生活を強いられる市民たちはISILに参加しなければならない状況に追い込まれた。ラッカには若者向けの軍事訓練キャンプも設置された。 ラッカの環状交差点の内側はかつて「天国の広場」と呼ばれていた。しかしISILがここで残虐な公開処刑を行うようになると「地獄の広場」と呼ばれるようになった。住民を恐怖に陥れるため、「地獄の広場」では斬首刑、手足の切断、磔刑が行われ、槍に突き刺された人間の頭部や磔られた遺体が何日間も晒された。処刑対象となったのは、シリア政府への協力者、窃盗犯、魔術を行った者、同性愛者などで、処刑は日常的に行われた。ただし、ISILのルールに従えば、比較的平穏な生活を送り、行政サービスも受けることができたという。頭にかぶるベールで目を覆っていない女性には金1グラムの、あごひげを剃った男性には100ドル相当の罰金が科せられた。 ラッカでは外国人戦闘員に特権を与えられていた。そのため地元のラッカ市民との間に緊張関係が生じることもあった。 ISILは、民政のあらゆる側面を管理し、イスラム法廷を設置した。教育を重視し、学校を1年間閉鎖して、カリキュラムを作り直した。その結果、数学・英語を除いて従来の科目はほぼなくなり、イスラム法学・ジハード・コーランに関するコースが新しく加えられた。このような実態に対してISILは良いイメージを作るために車が走る道路や、客でいっぱいの店を撮影した動画を世界に向けて発信していた。一方、ラッカの反ISIL住民によってISILの残虐行為を記録する地下組織「ラッカは静かに虐殺されている Raqqa is Being Slaughtered Silently」が結成された。 日本人で2014年3月に中田考とともにISILの支配地を訪れた日本人写真家の横田徹は、インタビューで2013年3月当時のラッカの様子について答えている。2人は張り巡らされた有刺鉄線を超え、威嚇射撃の弾が当たらないようにジグザグに走りながらトルコ国境からシリアに入国したという。そしてISILのマークのついた紙(入国証明書の代わり)に署名をして、あちこちを回って何度も証明書を見せながら、ラッカに潜入した。当時はアメリカや日本への敵意はあまりなかった。所々で学校や体育館にバグダーディーが訪れたという噂を聞いた。行政機構が整いつつあり、スリや強盗などの犯罪はほとんどなかった。ラッカでは武器はあまり見かけず、兵士たちは市民から押収した民家に泊まっていた。兵士にはシリア人が少なく、アルジェリア・モロッコ・湾岸地域の20代前半が中心だった。オーストラリア人や日本語を話せる白人のロシア人もいた。このうち、オーストラリア人は、自国でテロリストだと疑われ、モスクでも監視され、自由がないため妻子を連れてラッカに来たという。彼の幼い息子は、斬首された男性の首を持つ写真が公開されており、オーストラリアの首相トニー・アボットはこの行為を非難している。 フランス2(フランス・テレビジョン)は、ラッカ潜入の様子を公開した。全身ブルカで覆う義務があることを逆手に取り、あるシリア人女性がブルカの下に隠しカメラを仕込んで、撮影したものであるという。それによると至る所にAK-47で武装した兵士が立ち、わずかなブルカの乱れでも注意されるほどの統制を行っていた。ラッカ中心部のインターネットカフェでは、完璧なフランス語を話す女性たちが、母国にいる家族と対話し、祖国に戻らない決意を伝えていた。彼女たちのように「戦士」と結婚するために、あるいは夫を追ってここへ来た女性たちは、ISILのプロパガンダに利用されている。 アメリカ主導の有志連合はラッカに対して空爆を繰り返した。
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