2008年の現地調査と『第32回世界遺産委員会』
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「知床 (世界遺産)」の記事における「2008年の現地調査と『第32回世界遺産委員会』」の解説
『第29回世界遺産委員会』決議では、知床の「世界自然遺産」登録決定と同時に次のような措置を実施することを勧告した。 遺産地域の海域部分の境界線を海岸線1kmから3kmに拡張するための手続が法的に確定した段階で、地図等を世界遺産センターに送付すること。 登録後2年以内に、海域管理計画の履行の進捗状況と遺産地域の海洋資源の保全効果について評価するための調査団を招くこと。 2008年までに完成させる海域管理計画の策定を急ぐこと。その中では海域保全の強化方策と海域部分の拡張の可能性を明らかにすること。 サケ科魚類へのダムによる影響とその対策に関する戦略を明らかにしたサケ科魚類管理計画を策定すること。 評価書に示されたその他の課題(観光客の管理や科学的調査などを含む)についても対応すること。 2008年(平成20年)2月19日から22日にかけて世界遺産センター次長と国際自然保護連合(IUCN)保護地域事業部長が来日して現地調査を実施。調査に際して、以下の進捗状況を報告した。 遺産地域の海域部分の拡張 多利用型統合的海域管理計画の策定 サケ科魚類への河川工作物による影響評価とその対策 エゾシカの適正管理 利用の適正化のための戦略の開発 調査研究・モニタリングの実施 1.に関しては、2005年(平成17年)12月22日に知床国立公園の区域を距岸1kmから3kmに拡張し、拡張後の遺産地域図面を同年12月26日に世界遺産センターに報告した。2.に関しては、2007年(平成19年)12月に「知床世界自然遺産地域多利用型統合的海域管理計画」(以下「海域管理計画」)策定。「海域管理計画」は遺産地域の海域における持続的な水産資源利用による安定的な漁業の営みと海洋生物や海洋生態系の保全の両立を目的としている。3.に関して、流域全体または流域の大部分が遺産地域に含まれる44河川について、サケ科魚類の遡上や産卵が見られる河川の範囲を把握するとともに、河川工作物が設置されている14河川個々の河川工作物についてサケ科魚類に及ぼす影響の評価を行い、評価結果に基づき地域住民の生活に深刻な危険を及ぼさない範囲で河川工作物の改良を行うことにした。2005年(平成17年)7月から2007年(平成19年)12月までに11回の会合を開催して100基の河川工作物についての影響評価を行った。「改良の検討を行うことが適当」と評価した河川工作物は、順次改良を進めるとともに、改良効果を検証するためのモニタリングを実施することにしている。4.に関しては、2006年(平成18年)11月に知床半島に生息するエゾシカを科学的に保護管理するための「知床半島エゾシカ保護管理計画」を策定。北海道が策定した特定鳥獣保護管理計画「エゾシカ保護管理計画」の地域計画として位置づけられており、北海道などと連携しながら、計画の実施に務めている。5.に関しては、エコツーリズムの推進や知床半島先端部地区及び知床半島中央部地区の「利用適正化基本計画」を策定。知床半島中央部地区においては、2007年(平成19年)から年度ごとの『利用適正化実施計画』を策定している。6.に関しては、関係する行政機関や地方公共団体、地域の関係団体や研究者などが連携して調査研究を実施し、科学的知見の集積に努めている。調査結果を選定して長期的なモニタリングを実施し、その成果は今後の各種計画に活用するとともに、環境省などのウェブサイトを通じて一般にも情報提供していく。 調査の結果、日本は勧告に対して良好な進捗を遂げていると確認。特に、すべての知床遺産関係者が遺産の顕著で普遍的な価値を確実に維持し、次の世代へそのままの形で引き継ごうとする強い責任感に感銘を受けたとしている。また、科学的知識を遺産管理に効果的に応用していることを賞賛し、他の世界自然遺産地域管理のモデルを提示していると評価した。同時に今後の保全管理に対する助言として、17の勧告を報告書に盛り込んでいる。2008年(平成20年)7月に開催された『第32回世界遺産委員会』では先の勧告のうち、以下の9項目について重点的に取り組むよう要請し、実施状況を2012年(平成24年)2月1日までに世界遺産センターへ報告するよう求めた。 さらなる保護の層を加える観点から、国際海事機関(IMO)と共に、遺産地域の海域について、特別敏感海域(PSSA)の指定について検討すること 海域管理計画を遺産地域全体の管理計画に統合し、活動内容や成果、客観的に検証できる指標を明確にし、役割と責任分担を明確にし、実施のためのスケジュールを詳細に示すこと 遺産地域全体の管理計画を見直し、海域やサケ科魚類、シカ、エコツーリズムと適正利用を含むすべての個別計画を統合した形で完成させること 漁業資源も含む海洋の生物多様性の持続的生産力を確保するための、海洋の生息地の範囲内での禁漁区を含めた地域に即した保全地域の特定や指定、取組を検討すること 資源利用の問題、特にスケトウダラの持続可能でない漁獲について、長期的な解決策を見つけるためと、科学的情報の定期的な交換のため、ロシア連邦との間で始められた協力を継続すること 遺産地域内におけるサケの自由な移動を推進する対策を継続・推進させるとともに、サケの遡上個体を増加させるための対策を、特にルシャ川の工作物の改良を優先して継続、推進し、サケの個体群への影響をモニターすること シカによる自然植生への食圧の影響の受容できる限界を定めるための指標を作成し、抑制措置が遺産地域のシカ個体群や生物多様性、生態系に与える影響をモニターすること 遺産地域に関する統合的なエコツーリズム戦略を策定し、その戦略と観光・経済的開発の地域戦略との間に密接な連携・統合を確保すること (ⅰ)モニタリングプログラムと、(ⅱ)知床世界遺産の価値に対する気候変動の影響を最小限にとどめるための順応的管理戦略とを含んだ「気候変動戦略」を開発すること
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