第三部 憎悪病 (The Hate Disease)
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「祖父たちの戦争」の記事における「第三部 憎悪病 (The Hate Disease)」の解説
惑星「タリエン3」に接近した医療船「エスクリプス20」は、着陸の許可を求めるための通信を送った。すると別々の応答が返ってきた。一つは、慌てた声で「すぐ送信をやめろ。呼びかけられても返事をするな」。もう一つは、落ち着いた声で着陸座標を指示するものだ。医療局員カルフーンは、後者のほうを信用してその指示どおりに船を進めた。だが、そのグリッド・オペレーターは、「先日、パラどもにロケットを盗まれた。地上からロケット攻撃を受けるかもしれないので注意しろ」と話す。ランディング・グリッドにまかせて降下するうちに、本当にロケットが飛んできた。カルフーンは非常用ロケットを操作してかわしたが、何者が攻撃してきたのか。宇宙港に着陸し、惑星の高官たちから歓迎を受けているところへ、ゲートを突破して1台の地上車が向かってきた。それに乗った男は、カルフーンめがけてブラスターを発射した。 カルフーンをブラスターがかすめ、上着を焦がし軽い火傷を負わされた。男は射殺され、宇宙港の人々は、その死体と乗ってきた地上車の周りを入念に消毒する。グリッド・オペレーターは、男がパラだから、と言う。カルフーンはマーガトロイドを連れて、タリエン3の厚生大臣とともに地上車に乗り、行政センターを目指す。前後に何台もの護衛車が連なり、ものものしい警戒態勢だ。大臣の口からパラのことが語られた。それは6ケ月ほど前から現れた病気で、怒りっぽく偏執狂になり、正常人なら吐き気をもよおすようなものを好んで食べたがる。これが原因で死ぬことは稀であるが、正常人をパラにしようとしている。いまや惑星人口の三分の一はパラになっている。治療法が分からなければ、この惑星を隔離してほしい…。人影のない市街に入ると、建物の上層階からさまざまな物が、地上車めがけて投げられた。それもパラの仕業で、カルフーンに自分たちの病気を治してほしくないらしい。行政センターに着いたカルフーンは、研究施設に案内された。 ガラス張りの無菌室に、一人の男が入れられている。彼は憎しみを込めた目でカルフーンをにらみ、盛んにあくびをしていた。レット博士と名乗る男が「こいつはパラだ」と言う。レット博士は、いま惑星上に残された医者の中では私が最高だ、と自分を紹介する。レット博士はスカンクのような匂いのする、ナメクジのような生物をカルフーンに見せた。カルフーンは吐き気を覚えた。その生物を無菌室に入れると、パラの男はうまそうに食べた。レット博士は、こんなものを食べたことがおぞましいので、パラのやつらは住民全員をパラにして、同じものを食わせようとしている、と説明した。また、発病を防ぐためではなく症状が出ないようにするワクチンを、住民に定期的に服用させているらしい。カルフーンがワクチンのサンプルを求めると、レット博士は拒否した。カルフーンは、レット博士の話の内容と態度から、一つの結論を導き出して言った。「レット博士、あなたもパラですね」。 飛びかかってきたレット博士を、低出力のブラスターで気絶させてから、カルフーンは研究施設を抜けだした。外には厚生大臣が待っていた。「おたくもパラでしょう」とカルフーンは言う。そのとき回復したレット博士の命令で、警備員がブラスターを持って現れた。カルフーンは彼らをブラスターで気絶させ、地上車を奪って逃げだした。行政センター内にいる連中は、レット博士のワクチンで正常人のように見えるパラに違いない。厚生大臣から聞いていた、パラ追放用ゲートを通って脱出しなければならない。途中で地上車を乗り捨てたカルフーンは、上着の中にマーガトロイドを隠し、何食わぬ顔でゲートをくぐった。このゲートは、パラに感染した者が出るときは自由で、入ることはできないようになっていて、出るときには消毒液をかけられた。消毒液には、正常人をパラにするものが入っているはず、とカルフーンは考えた。宇宙港までは遠いので、またカルフーンは地上車を手に入れて、エスクリプス20を目指した。ようやくグリッドが見えるようになり、管制室では例のオペレーターが消毒をしている。理由を聞けば、パラに感染したのでどこかに行って自殺するつもりだ、と答える。カルフーンは彼を説得して、グリッドを操作できないよう重要部品を外させ、パラの研究対象になってもらうためエスクリプス20の中に招き入れた。 やがて宇宙港には、地上車で兵士たちが到着した。彼らはエスクリプス20の周囲を取り囲む。管制室に入った連中は、内部が消毒されているのを見て慌てて出てきた。エスクリプス20のラジオからは、惑星大統領が、レット博士のワクチンでパラは撲滅できるので安心してほしい、と演説する声が流れている。その一方、警察無線では、各地でパラによる暴動が発生している、と叫んでいた。カルフーンはポケットから二つの容器を取り出した。レット博士の研究室から持ち出したもので、一つはワクチンと称するもの、あと一つには例のナメクジ様の生物が入っている。その生物を見たオペレーターは、歯を食いしばり耐えている。カルフーンはワクチンを分析装置に入れた。レット博士は最初の患者の一人で、その原因となる物質は分かったが治療法はつかめなかった。だが、症状を抑えナメクジを食べずにすむような物質を見つけた。正常人を自分と同じ状態にさせるため、パラになる物質とナメクジを食わずにすむ物質を、ワクチンと称して与えていたのだ。消毒薬にもそれらが含まれていた。時間が経過し、無線機からは暴動の拡大していくようすが伝えられていく。マーガトロイドが、ナメクジの入った容器に興味を示し始める。パラに感染したのだ。原因が病原体でないから、トーマルでも体内で抗体を作り出すことができない。オペレーターはカルフーンのブラスターを取り、自殺すると言った。カルフーンは彼を殴ってブラスターを取り戻した。 やがて分析が終わり、パラの原因となる物質を中和させる物質が判明した。それはオレフィンやアセトンなどの不飽和炭水化物で、すぐに大量生産はできない。マーガトロイドがナメクジをもらいたくなり、カルフーンの気を引こうとしてブラスターをいたずらする。誤ってブラスターが発射され、船の床を焦がした。下層にある木の焼ける匂いがして、船内に煙が充満する。カルフーンは突然、気づいた。煙には不飽和炭水化物が含まれていることに。煙は徐々に排気されていくが、カルフーンもオペレーターもマーガトロイドも、十分に吸い込んでいた。カルフーンが、ナメクジの容器にマーガトロイドを近づけると、おびえて尻込みした。オペレーターの目の前に容器を突き出す。「ひどい。とても耐えられない」とオペレーター。彼はパラから回復していた。この惑星では、電力で熱を得ているので、物を燃やすことがなかったのだ。 エスクリプス20を非常用ロケットで離陸させたカルフーンは、町のあちこちの屋根にロケット噴射で火を放った。煙が立ち上り、何事かと驚いた人々がパラも正常人も含めて屋外に出てきて、みんな煙を吸い込んだ。これから惑星の住民は、定期的に物を燃やすようになるだろう。宇宙港でオペレーターを降ろし、ランディング・グリットの重要部品を戻して、すばやく惑星から宇宙空間に送り出してもらう。カルフーンが、パラという病気を制圧したことは称賛されてしかるべきだが、彼は町の一割ほどを燃やし、忌まわしい記憶を持つパラたちを正常に戻してしまった。カルフーンはレット博士の行く末を考えていた。どんな罰が下されるのかは分からない。星間医療局の本部に向けて、超光速航行に入ったエスクリプス20の船内では、カルフーンとマーガトロイドがゆっくりコーヒーを味わっていた。
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