益野線をめぐる動向
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「めぐりん (八晃運輸)」の記事における「益野線をめぐる動向」の解説
八晃運輸は2017年3月30日、「めぐりん」の新規路線として、岡山市中心部と岡山市東区西大寺地区を結ぶ路線「益野線」の新設を国土交通省中国運輸局に申請した。 益野線の申請ルートの多くが、両備バス岡山西大寺線および岡山電気軌道(岡電)東山線と重複するルートであり、運賃も両備バス(西大寺まで400円)や岡山電気軌道(東山まで140円)よりも格安に設定された。当初は2017年10月の運行開始を予定していた。 両備バス(両備ホールディングス)にとって、岡山市中心部と西大寺地区を結ぶバス路線は、前身の西大寺鉄道時代から「100年以上にわたって沿線開発をしてきた伝統的路線」として位置づけられており、繁忙期には5分間隔での運行が行われるなど、同社のドル箱路線ともなっている。 和歌山電鐵をはじめ、公共交通の再生にも取り組んできた両備ホールディングスは、3・4割ほどの黒字路線で残りの赤字路線の損失を補填し、路線の維持に努めてきたと説明しているが、ドル箱路線への「めぐりん」参入により年間3億円近い減収が見込まれ、赤字路線の維持が困難になるとして、2018年2月8日に両備グループ傘下の31路線(両備バス全36路線中の18路線と、岡電バス全42路線中の13路線)について、一斉に廃止届を中国運輸局に提出した。 両備ホールディングスの小嶋光信代表は、記者会見の席上で「地域の交通網を守らないと地方創生などあり得ないという信念でやっている」「廃止するために廃止届を出したわけではない」と強調し、新路線の認可がされなければ、廃止届を取り下げると説明した。 しかし中国運輸局は、両備ホールディングスの記者会見の行われた8日の午後、八晃運輸に対して益野線の新路線開設申請を認可。中国運輸局は認可について「あくまでも道路運送法の基準に照らして判断した」としているが、両備ホールディングス側は「なにゆえ認可を急がれたのかその真意がわからない」とこれに反発した。 一方の八晃運輸側は、公式サイト上で代表取締役の成石敏昭の署名入りコメントを発表し、益野線(岡山西大寺線)への参入について「健全な競争により市場を活性化させ、より充実したサービス提供を行わせていただくこと」と主張、両備グループの廃止方針については直接的な言及を避けつつも「黒字路線が赤字路線をカバーすることも、各路線によって利用客数も自ずと異なることから、一定程度はやむを得ない」としながらも、「黒字路線で赤字路線をカバーするという事態が行き過ぎれば、黒字路線の利用客は、自由な競争が行われていない条件下では、不当に高い運賃を負担するという事態に陥ってしまいます」と、道路運送法で定めた「(運賃は)能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないものである」とする制度設計とも矛盾が生じかねないと主張している。 今回の「めぐりん」新規参入に起因する、両備グループによる赤字路線の一斉廃止届提出という「強硬手段」については様々な議論を巻き起こしており、政策コンサルタントの室伏謙一は、日本において交通権が明確に確立しておらず、公共交通を独立採算制の民間サービスとして捉えていることが問題であるとして、公共交通を公共サービスとして位置付けて独立採算制を前提とする制度を全般的に見直すことが必要であり、そのために道路運送法や鉄道事業法等の大改正が必要と述べている。一方、鉄道関連の記事を多く執筆するフリーライターの杉山淳一は、今回の両備グループの手法について「顧客を不安がらせて、行政から納得できる答えを引き出す」というやり方であると指摘し、両備グループの戦術が間違っていると指摘している。 なお、両備グループの31路線の廃止届については、関係する自治体である岡山市・倉敷市・瀬戸内市・玉野市が廃止届の撤回を要請し、石井啓一国土交通大臣が2月13日に行われた閣議後の記者会見の席上で、地域協議会に参画して積極的に協力を行うことを明言したことなどを踏まえ、3月15日に廃止届の取り下げを中国運輸局に提出した。 これと並行して、両備バスはめぐりん運行開始に先立つ2018年4月9日に西大寺地区のダイヤ改正を行い、土曜・休日のみ運行だった「岡山駅 - 海吉線」を区間変更して毎日運転の「岡山駅前 - 益野西線」とした上で、岡山駅行きをイオンモール経由とする、さらに東山での路面電車乗り継ぎのための情報提供を行うなど、「めぐりん」を念頭に置いた新たな路線設定を行っている。 益野線は2018年4月27日に運行を開始することになったが、両備ホールディングスの主要労働組合である両備バス労働組合が「めぐりん(八晃運輸)の参入により両備バスの著しい業績悪化が見込まれ、組合員の賃金・雇用に影響を及ぼす」として、両備バス西大寺線をはじめとする両備バスの一般路線全線でのストライキ(運行休止)を通告。会社側と組合の交渉の結果、「運行休止ストライキ」ではなく、両備バス西大寺線と岡電東山線に限った「集改札ストライキ」に変更し、4月26日・27日に運賃の収受を行わないストライキが行われた。労使紛争ではなく他社の参入に反対するため、労働基本権(労働三権)の行使手段である「ストライキ」を行うというのは極めて異例のことである。 両備バス労働組合による一連の動きについては、沿線の岡山大学附属小学校が臨時休校を決め、その他の沿線住民にも混乱が生じるなどの波紋を残したほか、岡山県知事の伊原木隆太、岡山市長の大森雅夫が、定例記者会見の席上でストライキという手法への懸念を表明している。 さらに両備グループは2018年4月9日、益野線の認可取り消しを求めて中国運輸局岡山運輸支局に申し入れたものの「検討中である」との回答しか得られなかった。そのため両備は国に対し、八晃運輸への事業計画変更申請について「認可の前提となる『(八晃運輸による)停留所設置のための道路占用許可』に瑕疵があるため認可は違法である」として、4月17日付で認可処分の取消を求めて東京地方裁判所行政訴訟を起こし国を提訴した。しかし一審の東京地裁は、翌2019年8月30日の判決で「既存事業者の利益を保護する規定などは見当たらない」と指摘し、両備に対し「認可取り消しを求める原告適格を欠く」(原告不適格)として訴えを却下した。判決を受け、同年9月12日に両備グループは控訴した。
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