日本国外での受容の実態と不法ダウンロード
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「ヴィジュアル系」の記事における「日本国外での受容の実態と不法ダウンロード」の解説
2009年10月4日、ヴィジュアル系が日本国外で人気を博しているという報道がオリコンによりなされた。しかし、日本国外へ向けて日本の音楽を販売する音楽配信サイト「HearJapan」の代表であるネイサン・リーヴンは、特に日本国外のヴィジュアル系ファンへ向けて、自社のウェブサイトに書簡を掲載した。以下に抄訳して引用する。 日本国外において、日本の音楽のファン層は急速に拡大しており、バンドもようやく海外へ赴くようになり、現地のファンとのつながりを持とうと行動し始めました。この流れは特にヴィジュアル系で顕著であったため、私は(HearJapanの設立に当たり)ヴィジュアル系の充実を図りました。しかし、ヴィジュアル系以外の他のどのジャンルの売上も、ヴィジュアル系と比較して五倍の大差をつけたのです。この衝撃は筆舌に尽くせません。各ヴィジュアル系バンドについているファンは無数にいるのにもかかわらず、なぜヴィジュアル系のアルバムの売上はまるで振るわないのか、私は自問しました。(中略)結局、ヴィジュアル系の音楽を売る唯一の方法は、リリース日直前までのゴリ押し(と結果としての購入予約)以外にはないことが分かりました。リリース日以降は、すぐに売れなくなってしまうのです。その理由は明快で、バンド、レーベル、または楽曲制作に時間と金銭を投資した関係者らの許可なく、音楽ファイルがネットにアップロードされてしまうことに他なりません。ネット上の多くのユーザーが、他のヴィジュアル系ファンへ音楽を無料でダウンロードさせることに誇りと喜びを持っており、さらに重要なことには、それが権利者(アーティスト、音楽プロダクション、レコードレーベル、著作権管理団体、撮影者など)の許諾なく行われているということなのです。これが、ヴィジュアル系がリリース日以降に売れなくなる理由です。(中略)HearJapanでのダウンロード販売だけの問題ではありません。私はいくつかのヴィジュアル系バンドのCD輸出データを拝見したのですが、残念ながら、そこにはHearJapanのダウンロード販売と同様の悲しい相関関係が見られました。この手紙はHearJapanがこうむった損失についてお伝えするものではありません。ヴィジュアル系以外のジャンルの売上が、ヴィジュアル系の売上不振を補ってあまりあるものだからです。この手紙でお伝えしたいことは、ネットで音源を不法に頒布する行為が、アーティストに対してだけではなく、巡り巡って結果としてはファン自身へともたらされる問題であるということなのです。私は(HearJapanでは配信されていない)多くのヴィジュアル系バンドおよびレーベルと話をしてきたなかで、異口同音に同じ話を耳にしました。公式サイトやMySpaceに海外からのアクセスが殺到していることから、彼らは期待を膨らませて海外ファンへ音楽を販売しようと努力したところ、巨額の損失をこうむってしまったとのことです。(中略)バンドの情報を正確に翻訳し、音楽ファイルのエンコーディングにかかりっきりとなり、サイトのページにはタグをつけ、宣伝し、バンド側の要請に基づき万事これで問題ないかとバンド側へ確認の電話を何度もかけた私もまた、損失をこうむりました。しかしバンド側がこうむった損失に比べれば、私の損失など微々たるものです。果たしてあなたは、全精力を傾けて、時間もお金も使って制作した何かを世に発表し万人から称讃の嵐を浴びたとしても、最後には一銭ももらえずに馬鹿を見ただけだとしたら、そんなことをまた続けたいと思うでしょうか。私には、とてもそうは思えません。(中略) しかしながら、(権利者の許諾なく音楽ファイルをネット上で不法に頒布するユーザーらがうそぶく)もっとも大きな言い訳は、「私はバンドをさらに多くのファンへと紹介している。多くのファンを作ることで私がバンドを助けている」から問題ないとする主張です。これは確かに一片の真実を含んでもいます。しかし私が見た(不法)ダウンロードはどれも、JロックファンからJロックファンへと回されていました。JロックファンからJロックファンへと音楽ファイルを共有したところで、バンドの助けにはいささかもなりません。新しいファンが作り出されることにはならないからです。ネットへの不法アップロードでもたらされることといえば、バンドが(金銭面でも)苦心惨憺して制作したアルバムから得られるであろう利益のすべてを抹殺してしまうことくらいです。ファンは、無料で手に入る音楽にお金を払おうとはしません。すでに日本国外に一万人を超えるファンがいるというのに、楽曲を無料で頒布しなければならない理由はどこにもありません。私は、ヴィジュアル系のファン層が、これらの不法行為によって大きく拡張されてきたことをよく存じております。しかし、私はヴィジュアル系のアルバムの売上がまったく増加していないという事実にも気がついています。もしあなたが他の誰かに、まだ聴いたことがないであろう音楽を紹介したい場合は、その楽曲を(ネットで頒布せずに)ただ単に送るか、YouTubeのPVのリンクを送るだけに留めてくださいませんか。アーティストのわずかなチャンスを瞬時に抹殺するような行為は、どうか慎んでください。 — ネイサン・リーヴン、HearJapan リーヴンは、インターネットにて楽曲を不法に頒布する多くのヴィジュアル系ファンを痛烈に批判し、その不法行為はバンドの音楽活動を阻害するのみならず、バンドが今後飛躍する可能性を(とりわけ金銭面から)摘み取ってしまうとして警鐘を鳴らした。また、日本国外のヴィジュアル系ファンの間において音楽ファイルの不法な共有が常態化しているという実態に関しては、リーヴンの指摘のみならず、アニメの情報サイト「Japanator」もリーヴンの発言を受けて記事を発表した。以下に抄訳して引用する。 真の問題は、ファイル共有というその場限りの入手方法へと、浅はかなファンを結びつけてしまうことだ。ヴィジュアル系は略奪の格好の的だ。それというのも、ファンの圧倒的多数はヴィジュアル系バンドメンバーの外見にしか興味を示さず、たとえ熟達したミュージシャンが目の前で飛び跳ねようとも彼女について深く知ろうとはしないからだ。そういう人々にとって、音楽は一切意味がない。音楽はかわいい顔の単なるオマケ程度のものでしかない。それも、親たちが当惑して首を振るような顔の。こうした若者の多くにとって、ヴィジュアル系バンドは自分は特別な存在なのだという自意識を築くための小道具にすぎないし、単にバンドのアルバムを持っていることが反抗と世慣れした価値観のしるしとなる。(中略) ファイル共有が音楽産業を殺そうとしているのではない。浅はかなファンが殺すのだ。 — ザック・ベンツ、Japanator ベンツの指摘により、いわゆる「顔ファン」(バンドマンの外見のみでファンになり音楽には興味がないファンを指す俗語)が日本だけではなく日本国外においても存在し、むしろ「顔ファン」が日本国外では主流であることが明らかにされた。 日本国内では、ヴィジュアル系アーティストのCD売上はヴィジュアル系専門レコード店での限定購入特典や、専門レコード店で開催される「インストア・イベント」に支えられることが多い。これは「AKB商法」としてしばしば批判される売り方と共通してはいるものの、限定グッズや限定写真を入手したり、あるいは本人と会話や握手をするためにCDを(一人で何枚も)購入するという購買の動機づけには結びつく。しかし「顔ファン」にとっては音楽は「意味がない」ため、ライブやイベントなどで本人と接触する機会に乏しい海外在住者は、音楽そのものにお金を払う理由がなくなる。 リーヴンが書簡のなかで例示しているが(上記引用文では未訳のため原文 を参照されたい)、原盤制作には少なくとも一万米ドル以上の予算が必要とされる。メジャー・レーベルによるフルアルバムの原盤制作ともなれば、一千万円近くの費用が生ずる。しかし日本国外の音楽ファンは、アーティストやレーベル側から正規の購入方法を提示されても、音楽に対してあまりお金を払おうとしない。それはアーティストやレーベル側が費やした原盤制作費を回収できず、次の原盤を作る費用を捻出できないことを意味する。リーヴンらの指摘は、楽曲の違法アップロードが日本国外でのヴィジュアル系の人気を助けているものの、それがヴィジュアル系音楽業界に経済的利益を直接与えることはなく、ゆえにその衰退を助長しうることを明らかにした。
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