妬婦
『磯崎』(御伽草子) 磯崎殿という侍が、愛人を家へ住まわせて「新し殿」と名づけ置く。本妻がこれを妬み、ある夜、鬼の面をつけて新し殿を威し、打ち殺す→〔面〕3。
『高野物語』(御伽草子)第4話 佐々木のせい阿弥陀仏は、在俗時、2人の妻を持っていた。彼が上京中に、本妻が新しい妻を酒宴に招き、酔わせ眠らせてから人に命じてくびり殺させ、死体を地蔵堂のある墓原に埋めた。
『沙石集』巻9-6 ある公卿の北の方が、夫の愛人である女を捕え、懐妊した腹に火熨斗(ひのし)を押し当てた。女の身体は膨れ上がり、火ぶくれが裂けて死んでしまった〔*その後、北の方も病気になり、身体が膨れて死んだ〕。
『歴史』(ヘロドトス)巻9-108~112 クセルクセスは弟マシステスの妻に恋慕し、次いで彼女の娘アルタユンテに恋着した。クセルクセスの妻アメストリスは、自分が夫に贈った上衣がアルタユンテの手に渡ったことを知って、元凶はアルタユンテの母(=マシステスの妻)であると考える。アメストリスは、アルタユンテの母の両乳房・鼻・耳・唇を切って犬に投げ与え、舌までも切り落とした。
*呂后は戚夫人を厠に置いた→〔厠〕4dの『史記』「呂后本紀」第9。
★1b.妻が生霊・死霊となって、夫のもう一人の妻を取り殺す。
『源氏物語』「葵」 光源氏は葵の上を妻としつつ、六条御息所とも関係を続ける。賀茂祭の御禊の日、六条御息所の車と葵の上の車とが争い、六条御息所方が負けて屈辱を受ける。御息所は葵の上を恨んで生霊となり、産褥にある葵の上を苦しめる。車争いから4ヵ月余り後の8月下旬、夕霧を出産直後の葵の上を、ついに生霊は取り殺す。
*三島由紀夫の近代能『葵上』では、「六条御息所(みやすどころ)」ならぬ「六条康子(やすこ)」が、生霊となって現れる→〔生霊〕1b。
『破約』(小泉八雲『日本雑録』) 臨終の妻に、夫は「決して再婚せぬ」と誓う。しかし家の断絶を避けるため、彼は新しい妻を娶る。夫が城中に宿直し不在の夜、死んだ妻の幽霊が現れ、若妻の首をもぎ取って殺す。
★1c.妻が死霊となって、夫のもう一人の妻を取り殺し、ついで夫の命をも奪う。
『雨月物語』巻之3「吉備津の釜」 正太郎は貞淑な妻磯良がありながら、遊女袖を愛人にする。正太郎は磯良から金をだまし取って袖と駆け落ちし、磯良は恨み嘆きつつ病死する。正太郎と袖は親類宅に身を寄せるが、磯良の死霊のたたりで袖は病みつき、7日を経て死ぬ。磯良の死霊はさらに正太郎をも襲い、正太郎は42日間の物忌みをする。しかし最後の夜に殺される→〔時間〕8。
『東海道四谷怪談』(鶴屋南北)「浪宅」 民谷伊右衛門は妻お岩を捨て、隣家の伊藤喜兵衛の孫娘お梅と祝言をする。お岩は死霊となり、祝言の夜にお梅と伊藤喜兵衛を殺す。後、お岩の死霊は夫伊右衛門をさまざまに苦しめ、伊右衛門は錯乱状態になる。伊右衛門は、お岩の妹お袖の夫だった佐藤与茂七に討たれる。
『水妖記(ウンディーネ)』(フーケー) 騎士フルトブラントは、水の精ウンディーネを愛して妻とする。しかし彼女の伯父の水怪キューレボルンがいろいろな悪戯をするので、フルトブラントは水の精と結婚したことを悔やむようになる。ウンディーネは嘆きつつドナウ川に姿を消し、フルトブラントは漁師の娘ベルタルダを新たな妻とする。婚礼の晩にウンディーネが来て、フルトブラントに死を宣告し、抱きしめる→〔涙〕3。
『酉陽雑俎』巻14-546 劉伯玉の妻段氏は嫉妬深く、夫を恨んで河へ身を投げた。彼女は水神となり、美女が船で河を渡ろうとすると嫉妬して荒波をたて、不器量な女の時には無事に通した。その船着場を妬婦津(とふしん)という。
『ギリシア神話』(アポロドロス)第2巻第1章 ゼウスの正妃ヘラは、夫が愛した女たちを迫害する。ゼウスはイオを犯した後、彼女を白い牝牛に変えてヘラを欺こうとした。ヘラは牝牛に虻を送り苦しめた。
『ギリシア神話』(アポロドロス)第3巻第8章 ゼウスはカリストと床をともにし、ヘラに気づかれぬよう彼女を熊の姿に変えておいた。ヘラはそれを知り、カリストをそのまま猛獣として射殺しようとした。
『古事記』上巻 オホナムヂ(=大国主命)の后スセリビメは嫉妬深かった。稲羽のヤガミヒメは八十神(やそかみ)の求婚をしりぞけてオホナムヂと結婚したが、彼女はスセリビメの嫉妬を恐れ、産んだ子を木の股にさし挟んで、去った。
*女神(弁天様)の嫉妬→〔縁切り〕5の井の頭公園でボートに乗ると(日本の現代伝説『幸福のEメール』)。
★3.后の嫉妬。
『大鏡』「師輔伝」 村上帝の皇后安子が、壁に穴を開けて隣の局の女御芳子をのぞき見る。「この美貌ゆえに帝寵が厚いのか」と嫉妬した安子は、壁穴を通るくらいの小さな土器の破片を、女房に命じて投げつけさせた。
『古事記』下巻 仁徳帝の后・石之日賣(いはのひめ)は非常に嫉妬深かった。帝は吉備の黒日売を召し寄せたが、黒日賣は后の嫉妬を恐れて本国へ逃げ帰った。また、后が紀伊国に出かけている時に、帝は八田若郎女を愛した。これを知った后は難波の宮に戻らず、山城へ行ってしまった。
★4.妹への嫉妬。
『黄金のろば』(アプレイウス)第4~6巻 王女プシュケは、姿を見せぬ夫エロス(クピード)と立派な宮殿で幸せに暮らす。彼女の姉2人が嫉妬し、「お前の夫の正体は恐ろしい大蛇だ」と言って脅す→〔夫〕3・4。
『ペンタメローネ』(バジーレ)第2日第9話 貧しい3人姉妹の末子ルチエッラが、立派な宮殿で謎の夫と裕福に暮らす。姉2人が妹の幸福に嫉妬し、夜、明かりをつけて夫の姿を見るようにそそのかす。夫は美しい若者だったが、自分の姿を見られたことを怒り、ルチエッラにボロを着せて追い出す。
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