太陽系での推定値
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/02 06:57 UTC 版)
「ハビタブルゾーン」の記事における「太陽系での推定値」の解説
太陽系内におけるこれまでハビタブルゾーンの推定値は0.38–10.0 auの範囲に及ぶが、様々な原因によりこの推定値を導き出すのは困難であった。この範囲内もしくはそれに近い軌道を周回している多数の惑星クラスの質量を持つ天体は、温度が水の融点よりも高くなるほどの十分な太陽光を受けている。しかし、それらの天体の大気条件は大きく異なっている。例えば金星は遠日点がハビタブルゾーンの内縁付近に位置しており、表面の大気圧は液体の水を保持するのには十分だが、強い温室効果により表面温度は462 ℃(864 ℉)にまで上昇しており、水は水蒸気でしか存在することができないにもなるが、上空50 kmの1気圧の地点では75 ℃、55 kmの0.5気圧の地点では27 ℃で水が存在できる温度になっている。月や火星、そして多数の小惑星もまた推定されるハビタブルゾーンの範囲内に位置している。火星の表面上において最も低い高度(表面全体の30%未満)でのみ、水が存在する場合には短期間に渡って液体の状態で存在していられるのに十分な大気圧と温度がある。例えばヘラス盆地では、年間70火星日の間は大気圧が1,115 Paに達し、温度が0 ℃を超えることがある。暖かい火星の斜面において季節的な流体の流れ(Seasonal flows on warm Martian slopes)という形での間接的な証拠があるが、そこに液体の水が存在するという確認はなされていない。ハビタブルゾーン内を公転している彗星を含む、その他の天体の中で準惑星のケレスは唯一惑星クラスの質量を持つ。しかし、質量が小さい事と太陽風による大気の蒸発および喪失を軽減できない事の組み合わせにより、このような天体は表面上に液体の水を維持させることができない。しかし、それにも関わらず、金星や火星、ベスタ、ケレスの表面には過去に液体の水が存在していたことが、研究によって以前考えられていたより強く示唆されている。持続可能な液体の水は複雑な生命体の存在を支えるのに不可欠であると考えられているので、ハビタブルゾーンの推定値のほとんどは、数十億年に渡って表面に液体の水を維持することが可能なほどの表面重力を持っている金星と地球の居住性に及ぼす影響から推定される。 Extended habitable zoneの理論によれば、十分な放射強制力を誘発することができる大気を有する惑星クラスの質量を持つ天体は、太陽から遠く離れたところに液体の水を持つことができる。そのような天体には、大気中に大量の温室効果ガスが含まれている地球よりも質量が大きい岩石惑星(スーパー・アースクラスの質量)も含まれ、最大で100 kbarの表面圧力を持つことができるが、そのような天体は太陽系には存在していない。こうした種類の太陽系外惑星の大気に性質については十分には知られておらず、誘導アルベド(Induced albedo)や反温室効果、もしくは考えられる他の熱源も含んで考慮した大気の正確な温室効果の強さは、ハビタブルゾーン内における天体の位置だけで決定することはできない。 太陽系におけるハビタブルゾーンの境界の推定内縁距離(au)外縁距離(au)発表者(発表年)注釈0.725 1.24 Dole(1964) 光学的に薄い大気と固定アルベドを使用して計算された値。金星の遠日点付近に内縁が位置する。 1.385–1.398 Budyko(1969) 地球が経験するであろう全球規模の凍結の時代を決定するためのアイスアルベドフィードバックモデルの研究に基づいている。この推定は1969年のSellersの研究や1975年のNorthの研究でも支持されている。 0.88–0.912 RasoolとDe Bergh(1970) 金星の大気の研究に基づいて、RasoolとDe Berghはこの距離が地球上で安定した海が存在できるであろう最も太陽に近い距離であると結論付けている。 0.95 1.01 Hartら(1979) 地球の大気組成と地表温度のコンピューターモデリングとシミュレーションに基づいている。この推定は、その後にしばしば出版物で引用されてきた。 3.0 Fogg(1992) 炭素循環を用いてハビタブルゾーンの外縁距離を推定した。 0.95 1.37 Kastingら(1993) 今日使用されている最も一般的なハビタブルゾーンの実用的定義を確立した。二酸化炭素と水が地球にとって重要な温室効果ガスであると仮定し、炭酸塩-ケイ酸塩循環(Carbonate-silicate cycle)によりハビタブルゾーンは広いものになっていると主張している。雲のアルベドによる冷却効果にも注目している。左に記載しているのは控えめな制限を与えた推定で、楽観的な推定に基づくとその範囲は0.84–1.67 auとなる。 2.0 Spiegelら(2010) 大きい軌道傾斜と離心率を組み合わせると、この距離までなら周期的に液体の水が存在できることが提案された。 0.75 Abeら(2011) 地球のような水が多い惑星よりも主星に近く、極付近にのみ水が存在し大部分が陸地を占めている「砂漠惑星(Desert planet)」が存在する可能性を示した。 10 PierrehumbertとGaidos(2011) 原始惑星系円盤から気圧数十から数千 barの水素を蓄積することができる岩石惑星は、太陽から10 auも離れた領域でも居住可能になる可能性を示した。 0.77–0.87 1.02–1.18 Vladiloら(2013) 必要な大気圧の下限を15 mbarとした時、ハビタブルゾーンの内縁はさらに太陽に近く、外縁はさらに遠くなることを示した。 0.99 1.70 Kopparapuら(2013) Kastingら(1993)の推定値を修正したもの。更新された湿潤温室効果と水分損失のアルゴリズムを用いて公式化している。この測定によると、地球はハビタブルゾーンの内縁に位置しており、湿潤温室効果が起きる距離の限界に近いがわずかにその外側に位置する。Kastingら(1993)と同じように、 これは温度が60 ℃に達する「水損失(湿潤温室効果)」の限界であるハビタブルゾーンの内縁に位置し、十分高度が高い領域に対流圏があり、大気が完全に水蒸気で飽和している地球のような惑星に適用される。成層圏が湿ると水蒸気光分解により水素が宇宙空間に放出される。この時点では、雲のフィードバックによる冷却は、さらに強い温暖化の効果により著しくは強くならない。「最大温室効果(Maximum greenhouse)」の限界であるハビタブルゾーンの外縁では、二酸化炭素が支配的な気圧約8 barの大気が最も強い温室効果を生み出し、二酸化炭素がさらに増加しても大気圏外で凍結するのを防ぐために十分な温室効果は発生しないとされている。楽観的な推定では範囲は0.97–1.70 auとなっている。この楽観的な推定では、二酸化炭素の雲による放射温暖化の可能性は考慮されていない。 0.38 Zsomら(2013) 惑星の大気組成、圧力および相対湿度などの考えられる様々な組み合わせに基づいて推定されている。 0.95 Leconteら(2013) 3Dモデルを用いて、Leconteらは太陽系のハビタブルゾーンの内縁を0.95 auとした。 0.95 2.4 RamirezとKaltenegger(2017) 火山性水素の大気濃度を50%と仮定したときの古典的な二酸化炭素と水蒸気のハビタブルゾーンの拡大を示した。
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