太陽系のものさし
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/08 18:54 UTC 版)
紀元前3世紀にアリスタルコスは、たくみな推論と観測により太陽は月の 18 – 20 倍遠くにあると結論した。観測精度が悪くその値は実際とは大きく異なったものであったが、その幾何学的な推論は正しいものであった。こうした比だけからは天体までの具体的な距離を知ることはできない。しかし、太陽までの距離を天体の「ものさし」、天文単位、として長さの単位とみなすなら、アリスタルコスは地上のものさしに頼ることなく月までの距離を天文単位で初めて科学的に求めたことになる。 17世紀のケプラーもまた観測データと幾何的関係を用い、試行錯誤と複雑な計算を繰り返しながら地球の軌道に対する火星の軌道をほぼ正しく再構成して見せた。ケプラーの努力によって惑星の間の運動の相対的関係がよく記述できるようになり、ほどなくニュートン力学によってその背後の力学的仕組みも明らかとなった。仕組みが知られることによってケプラー的な運動との細かな食い違いを知ることもできるようになり、その後数世紀かけて天体力学は驚くほどの成功を収めることになった。 こうして惑星の動きは精密に予測できるようになったものの、一体それらの天体が地球からどの程度離れているかや、太陽や地球がどの程度の質量をもつのかをメートルやキログラムのような我々が地上で使っている馴染み深い単位を使って精度よく知るのにはやはり困難が伴った。しかし、その具体的な値を精度よく知る必要もなかった。アリスタルコスと同様に、地上のものさしに頼らなくても、太陽系そのものを基準とすれば、すなわち、メートルの代わりに天文単位を、キログラムの代わりに太陽質量を用いさえすれば惑星の動きは非常に正確に測定でき予測も可能であった。例えば、19世紀前半に天文学者たちが角度の1分(1度の 1/60)に満たない天王星の位置の予測とのずれに頭を悩ませていたときも、それは惑星の質量やそこまでの距離が日常の単位でどれだけであるかということとは無関係の問題であり、天文学者はそのずれの原因として海王星を発見することができた。よって、天文学にとって長さの単位として天文単位のような地上とは違う単位を用いるのは自然なことでもあり必然でもあった。ここに天文単位が天文学で用いられてきた第一の意義がある。
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