北朝鮮の人口統計の水増し操作疑惑
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/10 13:20 UTC 版)
「朝鮮民主主義人民共和国の人口統計」の記事における「北朝鮮の人口統計の水増し操作疑惑」の解説
2009年2月13日、UNFPAは「2018年10月に北朝鮮で国勢調査を2週間かけて実施し、暫定的な数字として人口を2405万1218人と集計した」「UNFPAは北朝鮮で調査要員3万5200人を動員、北朝鮮の全世帯である588万7767世帯を一軒一軒訪問し、調査を行った」「軍施設の居住者70万2373人を含む数値」と発表し、2008年の北朝鮮の人口を2405万人とした。北朝鮮に入国したUNFPAスタッフは約10人であり、調査は北朝鮮当局がおこない、UNFPAは「詳細な調査方法などは不明」としているが、UNFPAスタッフ約10人では、北朝鮮全域のモニターは不可能であり、それゆえにどこまで正確な数値なのかは不明であるが、世界各国はこのデータを北朝鮮の人口としている。FAOとWFPは、北朝鮮政府が1993年末におこなった唯一の人口センサス(1993年12月の人口を2121.3万人、人口増加率0.85%)をもとに、人口増加率を0.85%より低めの0.7%に設定して、2008年5月の人口を約2360万人と推計した。しかし、2009年2月に発表されたUNFPAの調査は、2008年10月の人口は2405.2万人であり、北朝鮮政府が1993年末におこなった唯一の人口センサスの人口増加率0.85%とほぼ同じであった。注目されるのは、1990年代の苦難の行軍期に発生した餓死者がほとんど存在しないかのように見積もられていることであり、1996年、1997年、1998年の苦難の行軍期に発生した餓死者は300万人といわれるが、この苦難の行軍期に、人口が増加したと報告しており、飢餓を脱出したとされるその後の年よりも人口増加率が高くなっている。1999年までは0.85%をはるかに超える人口増加率で、飢餓が収まったとされる1999年の人口は2275万人であり、人口増加率0.85%の場合の2232万人を43万人も上回る。さらにUNFPAの調査では、北朝鮮の人口は0.85%ずつ増加しているが、FAOとWFPは、今後人口増加率0.6%を使用すると報告した。その理由は、中央統計局 (北朝鮮)(英語版)が今後は0.6%を使用すると通知してきたからである。金正日政権時代には合計特殊出生率は1.93まで低下し、金正恩政権時代には1.90以上を保っていると公表しているが、その統計では2009年頃から北朝鮮の人口が減少していることと確実に矛盾する。 救う会事務局長の平田隆太郎は、2009年2月13日にUNFPAが報告した北朝鮮の人口統計について、「北朝鮮では1994年に飢餓が発生し、1996年、1997年、1998年の3年間で大量の餓死が発生し、1999年まで続き、その数は300万人と言われる。餓死者が大量に出たことは脱北者の証言で明らかであるが、北朝鮮は、この期間も人口が増加したと報告」しており、UNFPAが報告した北朝鮮の人口統計には、1996年から1999年までの餓死者300万人がカウントされていないとして、少なくとも300万人は水増しと推計しており、「北朝鮮の統計はもともと信頼できないものであるが、人口統計はその典型」と述べており、人口を多めに公表すれば、一人当たりの配給量が少なくみえるため、国際社会から支援を受ける際に有利に働き、危機をアピールしやすいことを指摘している。平田隆太郎は、北朝鮮の人口の水増しの根拠として以下をあげている。 2009年2月13日にUNFPAが発表した北朝鮮の2008年の人口2405万人は、2004年の朝鮮中央年鑑(朝鮮語版)の人口2361万人と比べると、年平均11万人増となる。北朝鮮は、1990年代後半に300万人の餓死者が発生したにも関わらず、1990年代後半の人口は、年平均15万人増えており、2004年から2008年は餓死者が発生していないにも関らず、年平均11万人増であり、300万人の餓死者が発生した1990年代後半よりも人口増が少ないため、UNFPAの調査結果は疑わしい。 北朝鮮は苦難の行軍が始まった1994年に徴兵検査基準を変更し、「身長150cm以上、体重48kg以上」を「身長148cm以上、体重43kg以上」に引き下げ、さらに、苦難の行軍期に年少期を過ごした子供が、徴兵年令である17歳に達した2008年からは、その徴兵検査基準も撤廃され、健康であればすべての若者を徴兵対象者にすると変更した。徴兵検査基準が変更されたのは若者の成長不足のためであり、大量の餓死者が発生した苦難の行軍により、著しく人口が減少し、兵士充足率が急減していることが分かり、北朝鮮の人口統計が虚偽であることを裏付ける傍証の一つである。 2008年の北朝鮮の人口について、韓国農村経済研究院(朝鮮語版)は2370万6000人、統一部は2267万人と推計しており、同じ韓国の推計でも約100万人もの差がある。 2009年2月13日にUNFPAが発表した北朝鮮の人口統計は、「行政・軍・治安関係者は70万2373人」と報告したが、韓国政府の推計では朝鮮人民軍だけで119万人であり、金正日を護衛し、住民を弾圧し、脱北者を捕らえて強制収容所に送る治安関係者も多数おり、このような公表できないデータを含む人口統計は信用性がない。 2009年2月に発表したUNFPAの人口調査と北朝鮮政府が1993年末におこなった唯一の人口センサスを比較して、韓国統計庁は、「北朝鮮の平均寿命が15年間で約7.6歳低下した。男性が67歳から59.5歳に、女性は74.1歳から66.4歳に下がった。これは韓国より約10歳低く、韓国の1980年代の水準」と報告したが、平均寿命これほど急減したことは、人口増加率に影響しており、人口増加がありえないことを示している。 大量の餓死者を出した1990年代後半を過ぎた後の平均寿命が、1970年代から1980年代にかけて経済が急成長し「中進国」と呼ばれた韓国の平均寿命と同じであるのは不自然であり、韓国統計庁は、「食糧難後に国際機関や外国の食糧支援を受け続け、作物状況も一部改善、2008年には期待寿命は男性が64.1歳、女性が71.0歳に増加する傾向を見せたが、1993年(男性67.0歳、女性74.1歳)の水準を完全に回復することは出来なかった」と報告しているが、平均寿命がこれほど急激に回復することは考えられない。 ジャスパー・ベッカー(英語版)(BBC記者)は、国連などのデータをもとに、金日成が死去した直後の1995年、国連が調査した北朝鮮の人口は2400万人だったが、2005年には1900万人に激減しており、わずか10年余りの間に500万人も餓死していると指摘している。 宮塚利雄は、2012年に「10年間で500万人以上の餓死者が出たと言われ、現在は(北朝鮮の人口は)2000万人を切っているとも言われる」と述べている。 趙甲濟は、脱北した北朝鮮政府高官から「2005年に労働党の核心部署が最高人民会議代議員選挙のための人口調査をしたところ、1800万人という数字が出た」という情報を得たとして、「平壌の高官だった脱北者が驚くべき証言をした。彼は、『自分が労働党の核心部署から聞いたことでは、労働党が最高人民会議代議員選挙(2003年8月)のため人口調査をしたら、なんと1800万人だったそうだ』『1994年から1998年の4年間で300万人以上が飢え死にした以降も人口の増加はなかった』」と述べている。
※この「北朝鮮の人口統計の水増し操作疑惑」の解説は、「朝鮮民主主義人民共和国の人口統計」の解説の一部です。
「北朝鮮の人口統計の水増し操作疑惑」を含む「朝鮮民主主義人民共和国の人口統計」の記事については、「朝鮮民主主義人民共和国の人口統計」の概要を参照ください。
- 北朝鮮の人口統計の水増し操作疑惑のページへのリンク