作品の特徴と執筆スタイル
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/09 21:12 UTC 版)
「久保帯人」の記事における「作品の特徴と執筆スタイル」の解説
執筆の速度 初代担当編集者の浅田貴典は、久保を「かなりの速筆」と評している。前述のとおり、初連載の『ZOMBIEPOWDER.』は「最後までペースがつかめないまま」半年あまりで終了したが、久保はのちに「この試行錯誤の経験があったから、絵を描くのが速くなったのかもしれません」と語っており、『BLEACH』の連載では人物のペン入れをほぼ1日という早いペースで完成させていた。また、睡眠時間を削ると執筆の速度が落ちるという理由から、同作の連載中には1回も徹夜をしなかったという。漫画を描く道具については「どこのメーカーか、とかそういうことにこだわりは全然ない。基本的に、使うものは、きれいかどうかだけで選んでいる」と語っている。 久保は連載デビューを期に広島から東京に移住したため、過去に他の漫画家のアシスタント業を務めた経験はない。 キャラクター作り 久保の作品には「多様性とバランス」を重視した非常に多くのキャラクターが登場する。キャラクターを作れば「水滴を落とすイメージ」で世界観が広がっていくと語っており、作品の執筆にあたってはまずキャラクター作りから入るという。「何かデザインするにしても、名前があったほうがイメージしやすい」という理由から、久保はこの作業をキャラクターに名前を付けるところから始める。「最初のインスピレーションで出てきたデザインを、そのまま描きたい」と語っており、デザインを描きやすく簡略化することはしない。また、キャラクターをイメージする際に音楽からインスピレーションを受けることが多く、作品内ではキャラクターごとにテーマミュージックが設定されている。 ネームを映像で考える デジタル作画への移行前は、原稿用紙サイズの紙に、コマ割り、構図、キャラクターの表情までが精緻に描き込まれた「ほぼ下描き」状態のネームを作成し、それを原稿用紙の下に敷いてトレースする手法でペン入れを行っていた。「(ネームを)見ながらもう1回原稿用紙に描くとなると、その時に何か感情が抜け落ちちゃう気がするんです」と語っており、「できるだけ、最初に描いた段階のものを逃さないようにしたい」のだという。久保にとってのネームは、「もう頭の中にはできている」映像を紙に描き写していく作業であり、この完璧な状態のネームを、いつもほぼ一発で仕上げていた。 漫画家・松井優征は、『BLEACH』の構図やカメラワークについて「本当に唯一無二ですよ。どこを探しても僕は似た漫画を読んだことがないです」と評している。前述のとおり、久保は頭の中で思い浮かべた映像を作品という形に落とし込む手法で執筆を行っており、「作り方としては映像作品の監督さんとすごく近いと思う」と語っている。 何を「描かないか」 『BLEACH』の主人公・黒崎一護のイメージカラーである「黒」をより画面上で映えさせるため、「白」を効果的に使うように工夫を始めて以降、コントラストを特に意識するようになったという。また、回を重ねるごとに「何を描くべきか、より何を描かないかが重要」だと考えるようになったと久保は語っている。 .mw-parser-output .templatequote{overflow:hidden;margin:1em 0;padding:0 40px}.mw-parser-output .templatequote .templatequotecite{line-height:1.5em;text-align:left;padding-left:1.6em;margin-top:0}たとえば背景だったらあえて描かずに白く見せることが大事だったりする。コマの中にキャラクターを描くことはもちろん大事なんだけど、じつは何も描かれていない、余白の部分こそが大事なんじゃないか、と最近思うようになってきた。今どこにいるとか、どういう状況かとかを説明するために背景は必要なんですけど、ここには背景があっちゃだめだ、というシーンがある。何もないことが「溜め」になって次のコマに生きたりするんです。 —久保帯人、『マンガ脳の鍛えかた-ジャンプ 人気作家37名、総計15万字激白インタビュー集』 セリフも「削る」ことを重視し、「ニュアンスを正確に伝えようと思ったら、言うべきことよりも、言わない方がいいことを見つけなくちゃいけない」と語っている。久保自身、行間で読ませてくれる作品が好きなこともあり、説明は最小限にする形で描いているのだという。 また、『BLEACH』の連載では、バラバラに点在する描きたいシーンの間を繋いでいくというスタイルで執筆を行っていた久保は漫画家・堀越耕平との対談の中で、「台詞を書きたくてシーンを描いていて、シーンを描きたいから漫画を描いている」と語っている。 セリフ・詩(巻頭歌) JUMP新世界漫画賞の審査員を務めた漫画家・芥見下々は、本誌紙面で「言葉選びで参考にしているもの」について質問を受けた際、「『BLEACH』を読んでください!!」と回答を寄せた。久保はセリフを作る上で工夫していることとして、「声に出した時にきれいな響きの音になるように意識しています。響きのきれいなセリフは、歌詞と同じようにより深く印象に残るものになると思います」と述べている。 『ZOMBIEPOWDER.』から『BLEACH』『BURN THE WITCH』に至るまで、それぞれの単行本の扉には、久保による表紙キャラクターの心情をイメージした詩が収録されている。芥見は久保との対談の中でこの詩のことを「巻頭歌」と呼んだが、この芥見による「巻頭歌」という呼称は、久保帯人公式ファンクラブサイト「Klub Outside」内で限定発売された「巻頭歌骨牌」のように、単行本の扉に収録された詩を指す公式的な名称の1つとなっている。 体調管理 久保は『BLEACH』の連載終盤に体調を崩し、肉体的にも精神的にも余裕がない状態が続いた。中でも左肩の痛みが強く、連載を終えたあとも一向に治らなかったため、MRIを撮影したところ左肩の腱が部分断裂していたことが判明する。久保は執筆の際、左肩に体重をかけて描く癖があり、長期に渡る連載で負荷がかかったためであった。連載中に体調を崩してからは体調管理に意識を向けており、『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の長寿連載で知られる秋本治への憧れと敬意について繰り返し語っている。 また、久保は学生時代に5年程空手をやっていた経験があり、それが連載を続ける上での基礎体力になったという。 デジタル作画への移行 2019年(令和元年)の後半、新型コロナウイルス感染症の影響により、仕事場にアシスタントを呼ぶことが困難な状況になる。これを機に、アナログからデジタルの作画へと段階的に移行した。
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