パッシブステア
なんらかの外力を受けて、実舵角が変化すること、またはそれを利用した実舵角のコントロールをいう。4WS車における、走行中のリヤサスペンションに加わる横力やストローク、ロール角などを利用した後輪の実舵角コントロールなどの例がある。そのほか、コンプライアンスステアやロールステアの積極的な利用も、広義にはパッシブステアといえる。アクティブステアに対し、大がかりな機構を必要としない利点があるが、機能は制約される。
反対語 アクティブステア参照 アクスルステア、コンプライアンスステア
パッシブステア
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/27 13:37 UTC 版)
詳細は「en:Steering#Passive rear wheel steering」を参照 ナチュラル4WSとも呼ばれる。能動的に後輪を操舵する四輪操舵と異なり、リアサスペンションのストローク量や横方向にかかる力に応じて後輪のトー角をコントロールし、回頭性や安定性を向上させる方法にパッシブステアがある。狭義では「トーコントロールシステム」の範疇であり、四輪操舵には含めない。 通常の後輪独立懸架では、ホイールがストロークする際や横力を受けた際に、特に旋回外側の車輪においては車両が安定寄りとなるトーインを常に保つように設定されている。また、リジッドアクスルやリンク式サスペンション、トーションビームのような固定車軸の場合は、ストローク時や横力を受けた時に起こるアクスルステアをアーム長やゴムブッシュの弾性変形でコントロールし、リアアクスル全体を旋回中心向きに変位させ、安定を保っている。このような特性がサスペンション設計の中で理解されてくる1980年代以前は、ブッシュやサスペンションアームの弾性変形による旋回中のトー角度の変化(主にトーアウト側への継続的な変化)はコンプライアンスステアとも呼ばれ、旋回中の車体の挙動を乱してスピンを誘発する危険性のある要素として捉えられていた。 これに対しパッシブステアは、ブッシュの変形を利用するまでは変わらないが、旋回初期の極浅いロールの際、後輪を一瞬だけトーアウト(逆位相)にコントロールするものである。動作が受動的であるためアクチュエーターはなく、タイロッドを持たない点が四輪操舵とは異なる。挙動を乱しスピンに至らないよう、外輪のみをトーアウトとするものもある。主に前輪駆動車やスポーツカーの一部で、回頭性を向上させるための「きっかけ」として用いられる。簡単な構造で四輪操舵に近い効果を実現できる反面、高度な制御を行うことはまったく不可能である。また、ブッシュ硬度の温度依存特性や経年劣化、あるいは路面の凹凸によるストローク量の変化や路面の摩擦係数の変化などにより動作が変動する点も弱点となる。マツダのトーコントロールハブとSSサスペンション、いすゞのニシボリック・サスペンション、SAABの ReAxs(リアクシス)などがあり、日産・パルサー/パルサーエクサ/ラングレー/リベルタビラ (N12型系)[要出典]、マツダ・RX-8、RX-7 (FC、FD)、ユーノス・ロードスター (NA、NB、NC)、いすゞ・ジェミニ (3代目)とPAネロ(ジオ・ストーム、アスナ・サンファイア)、SAABではGM傘下となってからの各車(2代目サーブ・9-3など)に採用例がある。 自動車史上、パッシブステアの概念を本格的にリアサスペンションの設計に採り入れた最初の車輌は1966年式フォード・ゼファー(英語版)・マークIVであったが、当時の英国市場での評価は芳しくなかった。1978年にはポルシェ・928がヴァイザッハ・アクスル(英語版)を採用したが、これは原理的にはゼファー・マークIVの概念と同じ物であった。日本車では1980年にBD型マツダ・ファミリアがSSサスペンションの名称でパッシブステアの概念を導入、旋回時や制動時に後輪をトー・イン側に積極的に変化させる特性が持たせられ、それまでの前輪駆動車につきものであったタックインを大幅に抑え込むことに成功、商業的にも大きな成功を収め、日本市場で前輪駆動車が本格的に普及する嚆矢となった。 マツダでは現行車にも採用されているが、かつてほど大々的に宣伝されてはいない。トーコントロールハブの開発に携わった貴島孝雄によると、パッシブステアは機敏で優れた操縦特性を実現した一方で、ドライバーに操縦時の違和感を感じさせやすく、自動車工学としては正しいものではあるが、貴島自身が提唱するドライバーの「動的感性」を満足させるものにはなりにくいという反省点が得られたとされており、FD3S以降ではドライバーに明確に変化を感じさせる程のトー角度の制御は行わなくなったという。 モータースポーツでは、パッシブステアが操作性の低下を招く不確実要素となるため、たわみブッシュを硬質な材料で作られたものに交換することがある。実際にサーキット走行などにおいては、「トーコン(トロール)キャンセラー」、「ニシボリ殺し」などといったアフターマーケットパーツで動作をキャンセルすることが一般的であった。 その一方で国内ラリーシーンではパッシブステアは好評であった。ニシボリック・サスの場合、旋回中に通常の前輪駆動車では考えられないほどのオーバー・ステア傾向を示したことや、トーコントロールハブでは後輪駆動でありながらアクセルオフでタックインを誘発させて高速なコーナリングが可能という、通常の駆動方式の特性とは正反対の要素が備わっていたからである。
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