地衣類
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/01/13 02:36 UTC 版)
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特徴
地衣類は、陸上性で、肉眼で見えるが、ごく背の低い光合成生物である。その点でコケ植物に共通点があり、生育環境も共通している。それゆえ多くの言語において同一視され(日本語でも地衣類の和名の多くが「○○ゴケ」である)、生物学の分野においても、1868年にスイスの植物学者であるジーモン・シュヴェンデナーが菌類と藻類とが共生しているとする説を提唱するまでコケ植物とされていた(生物学の用語としての「共生」が生まれたのも地衣類の研究からとされる)[2]。
しかし地衣類の場合、その構造を作っているのは菌類である。大部分は子嚢菌に属するものであるが、それ以外の場合もある。菌類は光合成できないので独り立ちできないのだが、地衣類の場合、菌糸で作られた構造の内部に藻類が共生しており、藻類の光合成産物によって菌類が生活するものである。藻類と菌類は融合しているわけではなく、それぞれ独立に培養することも不可能ではない。したがって、2種の生物が一緒にいるだけと見ることもできる。ただし、菌類単独では形成しない特殊な構造や、菌・藻類単独では合成しない地衣成分がみられるなど共生が高度化している。
このようなことから、地衣類を単独の生物のように見ることも出来る。かつては独立した分類群として扱うこともあり、地衣植物門を認めたこともある。しかし、地衣の形態はあくまでも菌類のものであり、例えば重要な分類的特徴である子実体の構造は完全に菌類のものである。また同一の地衣類であっても藻類は別種である例もあり、地衣類は菌類に組み込まれる扱いがされるようになった。現在の判断では「特殊な栄養獲得形式を確立した菌類」[3]である。国際植物命名規約では1952年の改訂から、地衣類に与えられた学名はそれを構成する菌類に与えられたものとみなすと定めている。
菌類が藻類を確保することを地衣化という。地衣を構成する菌類は子嚢菌類のいくつかの分類群にまたがっており、さらに担子菌類にも存在する。したがって独立して何度かの地衣類化が起こったのだと考えられている。また、子嚢胞子など有性胞子の形成が見られないものもあり、そのようなものは不完全地衣類と呼ばれていたが、現在は分子系統解析により科以上の上位分類群を推定できるようになり、大多数の不完全地衣類は子嚢地衣類に属することが明らかになった[4]。
生殖
有性生殖は菌の所属する群に特有の胞子による。多くは子嚢菌なのでこれについて説明する。
子嚢胞子は小さなキノコ状の子実体を作り、そこに形成される。子実体の形は、大きくは3通りあり、皿状の裸子器(らしき)、壺状の被子器(ひしき)、溝状に細長いリレラである。胞子はその内部の子嚢の中に減数分裂によって形成され、上に放出される。胞子が好適な場で発芽すると、藻類を取り込んで成長する。従って地衣体を構成する菌糸は単相である。
また、無性生殖のための器官として、地衣体の一部を粒状や粉状の構造として、これを分離して散布するものがある。これを芽子という。このようなものは内部に藻類を持って分散するので、すぐに成長を始めることができる。
- ^ 柏谷博之 2009, p. 10.
- ^ 白水貴(日本語) 『奇妙な菌類 ミクロ世界の生存戦略』NHK出版、2016年4月9日。ISBN 9784140884843。
- ^ 杉山純多, 岩槻邦男 & 馬渡峻輔 2005, p. 308.
- ^ 柏谷博之 『地衣類のふしぎ コケでないコケとはどういうこと? 道ばたで見かけるあの“植物”の正体とは?』SBクリエイティブ、2009年10月24日。
- ^ a b c d e f g h i 【イチからオシえて】不思議な生き物「地衣類」大気汚染、ヒートアイランド現象の指標にも『毎日新聞』朝刊2017年12月20日くらしナビ面(2022年11月20日閲覧)
- ^ 嶋田英誠. “野草譜 サルオガセ”. 跡見群芳譜. 2021年1月29日閲覧。
- ^ 黒川逍 1996, pp. 12–13.
- ^ “「雪茶」との関連が疑われる肝障害の事例”. 「健康食品」の安全性・有効性情報. 国立健康・栄養研究所. 2021年1月29日閲覧。
- ^ “地衣類とは”. 日本地衣学会. 2022年8月18日閲覧。
- ^ “地衣類とは”. 地衣類研究会. 2022年8月18日閲覧。
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