IPアドレスの枯渇期限の予測とこれまでの経緯
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/09 14:58 UTC 版)
「IPアドレス枯渇問題」の記事における「IPアドレスの枯渇期限の予測とこれまでの経緯」の解説
黎明期1981年9月にRFC 791として、現在のIPv4のもととなる仕様が公開される。基本的に、アメリカ合衆国国内の政府機関、軍関連施設、研究機関を中心にネットワークでつなぐことを前提としていたことと、当時のコンピュータの処理能力から、32bitのIPアドレスが採用される。この頃、IPアドレスの割り振りは、各組織にClass A (/8)、Class B (/16)、Class C (/24) などの単位で行っていた。 1991年7月に「IPアドレスが不足する」という研究を受けてIETFが調査を開始した。一部には、1990年代前半でClass B (/16) のIPアドレスが枯渇するとの予測もあった。 1992年11月にRFC 1380という形で調査結果をまとめ、次世代ネットワークの議論が始まる。この議論によるIPアドレスを拡張する長期的な対策がIPv6である。 1993年5月に、RFC 1466として、最後の「/8ブロック」(全IPv4アドレスの1/256)の5ブロックについては、世界に5つある地域インターネットレジストリ (AfriNIC、APNIC、ARIN、LACNIC、RIPE NCC) に各1ブロックを割り振るよう予約した。 1994年3月 RFC 1597 としてプライベートアドレスを導入した。 これによりIPアドレスの枯渇を気にせずにLANでTCP/IPが使えるようになり、LANにおけるIPv4の利用が加速することになる。これと前後して、プライベートアドレスを使用するLANとグローバルアドレスを使用するWANとを使い分けるとともに、両者を接続して運用するための技術開発が進む。その議論の過程で生まれてきたのが、CIDR (RFC 4632)、NAT (RFC 2663) 、Proxy(プロキシ)などである。 揺籃期1990年代後半に入り、Windows 95の発売をきっかけとしたパソコンによるインターネットの利用や、携帯電話などの通信機器によるインターネット利用が増えるにしたがって、IPv4アドレス枯渇が単なる技術問題ではなく社会問題として認知されるようになった。 2001年には、インターネットバブルといわれる急速なインターネット利用増加現象のため、2007年頃にIPアドレスが枯渇するとの予想が出された。しかし、2003年になると、インターネットバブルの崩壊とともにIPアドレスの需要が減少し、枯渇の見通しは2020年頃に修正された。この時期は経済状況によって、IPアドレスの枯渇時期予想が大きく変化していた。 エコノミストを中心に、一部でテスト運用が始まったIPv6の必要性や、IPアドレスの枯渇そのものを疑問視する声が盛んに出された時期でもある。 対策期2000年代後半になると、IANAの在庫が減少してきたことと、東アジア地域を中心とした安定した大規模な需要があることから、IPアドレスの枯渇時期の予想が行いやすくなってきた。 JPNICは、2004年から2008年にかけて、歴史的PI (Provider Independent) アドレスの割り振り先組織の明確化と、CIDRによる適切な規模でのIPアドレスの割り振りを目的に、割り当て済みのIPアドレスの整理と未使用IPアドレスの回収を実施した。 2006年4月に、JPNICはIPv4アドレス枯渇に向けた提言を公開した。ここに取り上げられている4つのレポートによれば、2009年 - 2022年でIPv4アドレスが枯渇することになる。また、2006年12月に開催されたInternet Week 2006における第11回JPNICオープンポリシーミーティングプログラムのパネル討論会「IPv4アドレス枯渇への対応」では、近藤邦昭により「2006年12月時点で1670万個のIPアドレスを含むブロックが、残り52個」「2006年は9ブロックが消費された」「このペースなら2012~2013年に枯渇する」との資料が提示されている。 2007年6月に、JPNICはIPv4アドレスの在庫枯渇状況とJPNICの取り組みについてを公開した。 この中で、地域インターネットレジストリの未分配IPv4アドレスの在庫が2010年には無くなると予測している。これを受けて、インターネットで利用するIPv4アドレスの枯渇期を乗り越えるために、対応策の検討を開始したと発表した。具体的には情報提供、利用ポリシーの見直しを行う。また、IPv6への移行を含む技術的方法論の検討、ビジネスへの影響を調査する検討会を開始する。 なお、日本国内では、IPアドレス枯渇対策のため、2008年9月5日にIPv4アドレス枯渇対応タスクフォースを設立している。 2009年8月時点で、未使用のIPv4アドレスが約5億、年間約2億減っているので、2011年頃に枯渇すると報道された。2010年1月時点IPv4アドレスIANA在庫が10%を切り、同年11月末時点IANAの未割り振りの/8のIPv4アドレスは残り7ブロック、総アドレス数に占める割合は約2.7%となった。 枯渇期2011年1月31日、APNICに「/8ブロック」が2つ割り当てられた。2011年2月3日、未割り振りの「/8ブロック」である最後の5ブロックが、世界に5つある地域インターネットレジストリにそれぞれ割り振られ、IANAが持つ在庫が枯渇した。 2011年3月1日、旧クラスB, RIR分配以前の旧クラスCアドレス領域で、RIR体制以降、分配を凍結していたVarious Registries領域といわれるIPアドレスの領域を各RIRに分配した。分配した量は、1つのRIRにつき、/8ブロック換算で約1.5ブロックである。 地域インターネットレジストリが持つ在庫の枯渇については、地域ごとに需要が異なるため、それぞれ在庫の枯渇時期が異なる。最も早く地域インターネットレジストリが持つ在庫の枯渇するのは、IPアドレスの消費動向から、APNICと予測されていた。 2011年4月15日、APNICのIPv4のIPアドレスの在庫は/8ブロック換算で、1.0ブロックになった。 RIRでは、在庫が1ブロック未満になると枯渇したとみなし、IPアドレスの割り振りを制限することになっている。APNICでは、他のRIRに先駆けて、この最後の1ブロックに達してしまった。今後、APNICにおいては、1会員あたり最大/22ブロック換算で1つのみ、IPv6への接続性の確保や既存のインターネット接続を維持する目的でIPv4のIPアドレスを割り振るのみになる。 日本を担当するJPNICは、独自にIPアドレスの在庫を持たず、必要に応じてAPNICの在庫から割り当てを行っているため、APNICが持つIPアドレスの在庫が枯渇すれば、IPアドレスの割り振りができなくなる。 地域インターネットレジストリが持つ在庫の枯渇と前後して発生するのが、ISPやデータセンターにおけるIPアドレスの枯渇である。実際には、IPアドレスの取得申請時に18か月先までの需要予測を根拠に申請しているため、すぐに問題になることはない。これまでは、ユーザ数の増加やサーバの増加に伴って、ISPやデータセンターは計画的にIPアドレスを地域インターネットレジストリから取得してきた。これからは、IPv4アドレスの供給元の在庫が枯渇するため、新規にIPv4のIPアドレスをユーザに提供できなくなる。 2012年4月、RFC 6598としてISP Shared AddressにARINから100.64.0.0/10が割り当てられる。今後、Carrier-Grade NAT (CGN) の導入が加速すると推測される。 2012年7月末頃、RIPE-NCC(ヨーロッパ、中東、中央アジア地域)のIPv4アドレス在庫が枯渇すると予想されていた。他の地域については、ARIN(北米、及びカリブ海地域と北大西洋地域)が2013年前半、LACNIC(ラテンアメリカ及びカリブ海地域)が2014年前半、AfriNIC(アフリカ地域)が2014年後半に、それぞれ在庫が枯渇すると予想される。 2012年9月14日、RIPE-NCCにおいて/8のIPアドレスが枯渇し、以降は/22や返却された予備のIPv4アドレスを割り振り。 2014年4月23日、ARINのIPv4アドレス在庫が/8ブロック換算で、1.0ブロックになった。 2014年5月20日、LACNICのIPv4アドレス在庫が/9ブロック換算で、1.0ブロックになったことを受け、 IANAに既に返却済みのIPv4アドレスを各RIRに再度割り振る見通しになった。 2017年2月15日 LACNICのIPv4アドレス在庫が/11ブロック以下となり、AFRINICを除く4つのRIRでIPv4アドレス在庫枯渇の最終段階になった。 2019年11月25日、RIPE-NCCにおいて全てのIPアドレスが枯渇。
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