英国のエルフ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/08 06:04 UTC 版)
エルフという単語は、古英語の単語ælf(複: ælfe, 地域や年代による変形として、ylfeやælfenがある)として英語に入り、アングロ・サクソン人とともに英国に上陸した。アングロ・サクソン人の学者は、ギリシア神話、ローマ神話に登場するニンフをælfやその変形の単語に翻訳した 初期の英語に関する証拠はわずかではあるが、アングロ・サクソン人のエルフ(ælf)が北欧神話の初期のエルフの同類であると考えられる理由がある。ælfは人間ほどの大きさであり、超自然的な力を持っていて、男性だけの種族というわけではなく、出会った人間を助けることも傷つけることもできた。特にエッダ詩におけるアース神族とエルフ(álfar)の組合せは、古英語の呪文『ウィズ・ファースティス』(Wið færstice)や、アングロサクソンの人名にあるosやælfのような同語族の言葉の特徴的な発生に反映している。(例えばオズワルド(Oswald)や、アルフリック(Ælfric)) 北欧神話のエルフの美しさに関するさらなる証拠は、ælfsciene(エルフの美)のような古英単語の中に見つけることができる。この語は、古英語詩の『ユディト記』と『創世記A』に登場する、魅力的で美しい女性に使われている。エルフは美しく潜在的に親切な存在であると、歴史を通して英語を話す社会のある階層には考えられてきたが、例えば『ベーオウルフ』の第112行にあるように、アングロサクソンの資料はエルフと悪霊の同盟についても証言している。一方では古英単語のælfの変形である、oafは、おそらく最初は「取替え子」またはエルフの魔法によって茫然としている人物について述べるのに使われていた。 「エルフの一撃(またはエルフの太矢、エルフの矢、エルフの矢傷)」 (elf-shot) という言葉は、スコットランドや北イングランドで見られる慣用句である。これは病気や傷害が妖精によって引き起こされるという信仰に由来する。16世紀の最後の四半世紀の頃の原稿に、「エルフが起こす激痛」という意味で初めてあらわれた。これは後の17世紀のスコットランドでは、新石器時代の燧石の矢じりを意味するものとされた。この矢じりは古代人が癒しの儀式の際に使ったものだが、17世紀の人々は、魔女やエルフが人や家畜を傷つけるために使ったと信じた。エルフの茶目っ気がもたらす髪のもつれは「エルフロック」(elflock)と呼ばれた。突然の麻痺は「エルフの一突き」(elf stroke)と呼ばれた。このような表現は、ウィリアム・コリンズ(英語版)が書いた1750年の頌歌にも現れる。 みじめな経験から群集はみな知っている、 いかに宿命とともに飛び、かれらの「エルフの一撃の矢」を放つかを、 病んだ雌羊が夏の糧をあきらめた時、 大地に引き伸ばされ、心臓を打たれた牝牛が横たわる時。 There every herd by sad experience knows, How winged with fate their elf-shot arrows fly; When the sick ewe her summer-food foregoes, Or stretched on earth, the heart-smit heifers lie. エルフはイングランドやスコットランド起源のバラッドに多く登場する。民話と同様に、その多くは「エルフェイム」(Elphame)や「エルフランド」(Elfland)(いずれも北欧神話でいうアルフヘイムのこと)への旅についての内容を含んでいる。エルフェイムやエルフランドは薄気味悪く不快な場所として描かれている。バラッド『詩人トマス』(Thomas the Rhymer)に登場する、エルフェイムの女王のように、エルフは時おり好ましい描かれる。しかし『チャイルド・ローランドの物語』(Tale of Childe Rowland)や、『イザベルと妖精の騎士』(Lady Isabel and the Elf-Knight)のエルフのように、エルフはしばしば強姦や殺人を好む腹黒い性格だとされる。『イザベルと妖精の騎士』のエルフは、イザベルを殺すためにさらう。ほとんどの場合バラッドに登場するエルフは男性である。一般的に知られているエルフの女性は、『詩人トマス』や『エルフランドの女王の乳母』(The Queen of Elfland's Nourice)に登場する、エルフランドの女王ただ一人である。『エルフランドの女王の乳母』では、女王の赤子に授乳させるために女性がさらわれるが、赤子が乳離れをすれば家に帰れるだろう、との約束を得る。どの事例においても英国のエルフはスプライトやピクシーのような特徴を持っていない。 近世のイングランドの民話では、エルフは小さく悪戯好きで、見つけにくい存在として描かれている。かれらは邪悪ではないが、人をいらだたせたり、邪魔したりする。透明であるとされることもある。このような伝承によって、エルフは事実上、イングランド先住民の神話に起源を持つ、フェアリーの同義語となった。 引き続き、「エルフ」の名は「フェアリー」と同様に、プーカやホブゴブリン、ロビン・グッドフェロウやスコットランドのブラウニーなどの、自然の精霊を表す総称になった。現在の一般的な民話では、これらの妖精やそのヨーロッパの親戚たちがはっきりと区別されることはない。 文学からの影響は、エルフの概念をその神話的起源から遠ざけるのに重要な役割を果たした。エリザベス朝の劇作家ウィリアム・シェイクスピアは、エルフを小柄であると想像した。かれは明らかにエルフとフェアリーを同族として考えていた。『ヘンリー四世』の第1部、第2幕、第4場で、老兵フォールスタッフはハル王子に、“痩せこけた、エルフのやから”、と呼びかけている。『夏の夜の夢』では、エルフたちは昆虫ほどの大きさとされている。一方エドマンド・スペンサーは『妖精の女王』 (The Faerie Queene) で、人間型のエルフを採用している。 シェイクスピアとマイケル・ドレイトンの影響は、とても小さな存在に対して、「エルフ」と「フェアリー」を使用するという基準を作った。ビクトリア朝期の文学では、エルフはとがった耳を持ち、ストッキングキャップをかぶった小さな男女として挿絵に描かれている。リチャード・ドイルが挿絵を描いた、1884年にアンドリュー・ラングが書いた妖精物語『いないいない王女』 (Princess Nobody) では、エルフが赤いストッキングキャップをかぶった小人である一方で、フェアリーは蝶の翅を持った小人として描かれている。ロード・ダンセイニの『エルフランドの王女』はこの時代の例外で、人間型のエルフが登場する。 「バックソーンの誓い」 (the Buckthorn vows) という伝説では、バックソーン(クロウメモドキ属の植物)を円形に撒いて、満月の夜に環の中で踊ると、エルフが現れるとされる。踊り手はエルフが逃げ出す前に挨拶して「とまれ、願いをかなえよ!」と言わなければならない。するとエルフが一つ望みをかなえてくれるという。
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