職業の家系
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/13 06:15 UTC 版)
家系の概念の代表的な用法として挙げられるのが、職業上の家系である。例えば「あの家は代々、学者・教育者の家系」などの言い回しを使うように、特定の血族集団が一定の職業に就いているか、親族で類似した職業選択が行われている場合、その傾向を指して使われる。日本の歴史では、これを「家業」という。 有史以前、人々の暮らしが狩猟生活から農耕生活に変わると人々の活躍の場が広がった。また農業には、農閑期があり、農作業のない時期に様々な人々が試行錯誤を繰り返して知識や技術を身に着け、次第に職人や商人、神官、軍人になり、自分は食料生産に加わらず、共同体から報酬を貰って特定の仕事に専従するようになった。まだ教育制度のなかった時代、これらの専門知識などは親から子へ継承され、職業としての家系に繋がった。 例えば日本において、あらゆる職業は家系により世襲されてきた。まず公家は、日記などで政務や日々の行事を子孫に伝え、職務のノウハウ、その伝統を繋いできた。武士の場合、軍事知識や戦闘技術を家流として継承させた。これが現代でいう流派である。一方で家系が独占する知識を他に漏らさないことで自分たちの優位性を維持しようと考えた。 本来、階級と職業は、異なる役割を指す言葉だが、少ない危険と労働で大きな収入と社会的影響力を得る職業は、社会的役割では上位の階級の家系が占め、逆に下位に位置づけられる階層の家系に長時間働かなければならない職業が押し付けられた。ここから職業が、そのまま身分を現す称号にも使われるようになっている。しかし同じ職業の中でもさらに階層があり、必ずしも一致している訳ではない。 今日では、職業選択の自由が保障されており、求人に民主的な公平公正さが求められる時代であることから、職業を世襲するということは一般的通念ではなくなったといってよい。しかし一部では未だ家業が残っており、さらに伝統芸能の分野において宗家・家元制度をとるものについては、ほぼ同一の家系により家業となっていることがほとんどである。今でも職業の世襲が可能な背景としては、特定の職業に就く上で、必要となる教養を身に着けなければならず、そうした教育を施す環境や経済力が必要となる場合がある。例えば、医師や教師、弁護士、司法書士、税理士、公認会計士、いわゆる一族経営など、能楽や歌舞伎、茶道、華道、あるいは礼法の分野でも特定の家系による伝統の継承が見受けられる。また二世タレントというように、特別な教育や伝統芸能に依らない俳優や歌手、タレントなどの芸能人にも二世、三世が登場するようになり、あたかも職業上の家系のように見受けられる傾向もある。これらは学ぶ場所が少なく、その職業や分野に精通した親族が多い場合、職業の情報を得易い環境にあることや、経営者である親から会社を譲られることがあるからとされる。 寺社の住職、神社の神職などの宗教関係は新たに創業することが難しく、農家、漁業などの場合、農地や農場・漁船などの道具を揃えることが難しく入り口が狭いという事情がある。 取り分け政治家の場合は、選挙に立候補する場合、得票するための支持基盤や莫大な選挙費用などを負担し得るだけの経済的基盤があることが前提とされ易く、そうした基盤のない者が政治家を志すことは困難である場合が多かった。これを「地盤(後援会組織)・鞄(資産)・看板(知名度)」といった。対して、家系内に政治家がいる場合、支持基盤や経済基盤を得るのが比較的容易であり、結果として政治家の二世、三世、四世といった世襲議員が輩出されやすい傾向がある。事実、政治家の家系を見ると近遠の差はあるが、他の政治家と親類に当たる者も多い。今日、選挙の立候補において幅広い人材を議政壇上に上げようと、政党が一般市民から公募することが次第に定着している他、国民の間にも必ずしも旧来の政党や候補者にしばられない無党派層の拡大によって、世襲議員の温床である「地盤・鞄・看板」が必ずしも通用するとは限らない時代情勢となりつつあるが、世襲議員を輩出する土壌は未だ厳然と存在することも事実である。 古典芸能の分野はともかく、民主主義社会においては、職業選択の自由や機会の均等が重んじられることから、一定の職業に就く者が何らかの強制が働く場合や他者よりも圧倒的優位に立つことで機会の不平等が起きることは好ましくないとする場合も多いが、実際にはこうした家系というものが多く存在する。
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