地方・風とは? わかりやすく解説

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ちほう‐ふう〔チハウ‐〕【地方風】

読み方:ちほうふう

局地風(きょくちふう)


局地風

(地方・風 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/01/28 15:51 UTC 版)

局地風(きょくちふう、英語: local wind)とは、特定の地域に限って吹く[1][2]、大抵は地形の影響を受けている[2]。地方風(ちほうふう)[注釈 1]、局所風という場合もある。

局地風の多くは、ある季節に吹きやすく、風向風の強さに特徴がある。気温湿度の急な変化、降水)や乾燥地からの砂塵を伴う風も多い[1][2]。そして、それぞれの地域で名前が付けられているものが多い[2]。別の言い方をすれば、特定の地域に吹く強い風、暖かい、冷たい、乾いた風などには名前が付けられ注意が払われてきた[6]

局地風の発生機構と類型

局地風の主な成因は、場所による温度分布の違い(熱的な強制)と、山脈のような起伏による気流の制限(力学的な強制)の2つである[1][2][7]。被害が出るような強い局地風は多くが力学的な強制によるもの[2]。力学的な強制によるものはさらに、を越えるおろし風と、を吹き抜ける地峡風(だし風)に二分される[1][2]

地形は大きな因子となる。気象要因としては特定の気圧配置、強い気圧傾度前線の通過、大気安定度冷気の移動も挙げられる[1][8]

またおろし風の多くには、少し移動しただけで風向や風速が急変したり[注釈 2]、それが時刻と共に変化する特徴がみられる。これは山越え気流における跳ね水(跳水、ハイドロリックジャンプ)に伴うものと考えられる[9]

日本の局地風では、やまじ風広戸風清川だしの3つが「日本三大悪風」や「日本三大局地風」と呼ばれている。広戸風はおろし風、清川だしは地峡風の代表的な例である[8]。やまじ風はおろし風とされるが地峡風の性質ももつ[2][8]。これら3つは風速の大きい強風だが、同じくらいの強さがある風としてほかに井波風なども挙げられる[8]

局地風のほとんどはおよそ10km以上の広がりをもって分布する地域的な風。ただし、もっと局地的な風もある[2]。例えば井波風は数kmほどの規模しかない[9]

おろし風

おろし風[2][8] (fall wind[10][11], 特に強いものはdownslope wind storms[10])[注釈 3]は、山を越えて麓に吹き下ろし風速を増す風。上空に強風または安定層があるなどの条件下で起こる[8][10][11]

研究の進展に伴い、山越え気流における跳ね水(跳水)の発生や山岳波砕波などが、風下の強風の形成に重要な役割を果たしていることが明らかになってきている[9][12]

日下 (2018)[8]によれば、1,000m以上の山脈、特に鞍部をもつか風下に急斜面をもつ山脈において、次のいずれかの条件を満たしたときにおろし風が発生しやすい。

  1. 山脈の上空に強風が吹いている場合
  2. 上空に安定層や臨界層(広い弱風域)がある場合
  3. 山の高さ、風速、安定度の3つがある条件を満たした場合
    • 逆転層や臨界層がなくても、山岳波の砕波が臨界層を生じさせるため。

山脈の上の大気に逆転層[13]や安定成層があるとき、その下で山を越える際に気流は加速されるとともに気圧を減じ(ベンチュリ効果)、風下を加速して降りる気流は山裾に押し付けられるように流れる[10][11]。基本的に、山のすぐ風下には逆向きの風があり、その風下に吹き下ろす強風がある[13]。また、山の傾斜が急でかつ風の乱れが小さいとき、剥離流の性質をもつ流れが生じる[13]

山越えのおろし風が臨界層や逆転層の下を通ると風の層は薄くなり、平地に出てから地表で跳ね上がり、もとの気流の高さに戻る跳水(跳ね水)が発生することがある[8]。跳水が起こると、しばしば山の斜面または風下の山麓に近い平野の付近に強風域が現れる[8]

おろし風、さらに地峡風にも関係するが、山越えの風をモデル化して l2 = N2/U2 と置くことができる。ここでlスカラー数のパラメータ、Nブラント・ヴァイサラ振動数英語版Uは風速である[2][14]Nが大きいと風は山を迂回し谷を通る傾向があり、Uが大きいと山を超えやすくなる傾向がある。また、hN/Uhは山の高さ)の値が小さいと山を超えやすく、大きいと山を迂回しやすい傾向がある。降水がないフェーン風はlの値が大きい傾向がある[14]

フェーン型とボラ型

山から吹き下ろすおろし風は、風の吹き出しに伴う気温変化の違いによって、高温になるフェーン型と低温になるボラ型に分けられる[15]

フェーン型は単にフェーン[8] (foehn[10])とも呼ばれるが、山越えの熱力学的・力学的効果により高温・乾燥となった風[10][8]。もともとオーストリアドイツスイスアルプス山脈を吹き下ろす局地風の名前だが、局地風の類型としても使われるようになった[10]

フェーンの昇温の機構は、山に沿い流れることによる加熱(降水を伴わない)のパターンと、風上で潜熱による湿潤断熱的冷却と降水、風下で乾燥断熱的加熱を受けるパターンの2つが主に知られ、ほかに乱流による逆転層上の暖気層の混合なども挙げられる[10]

ボラ型は単にボラ[8] (bora[10])、ボーラ、またボラ型おろし風[8][15]とも呼ばれるが、山の背後に控える寒気団から吹き出す冷涼・寒冷な風[2][10][8]。もともとクロアチアボスニアアドリア海沿岸で吹く局地風の名前だが、局地風の類型としても使われるようになった[10]

ボラ型は気圧勾配に駆動され上空にも強風が吹くもので、同じ下方への冷涼な風でも、地域的な熱構造に駆動され総観スケールの気圧勾配は緩い滑降風とは異なる[10]

チヌークはフェーン型、空っ風はボラ型[2]

地峡風

地峡風[8]は、海峡風[8]、だし風[2]、ギャップ風[8] (gap wind[16])ともいい、山地の隙間となっている谷間や海峡に気流が集まり、谷の中や出口などに吹く風。冷気層の効果や、谷の向きと気圧傾度、風速、大気安定度などの条件により起こる[8][2][16]

谷や海峡において風上側に冷気層(逆転層)があることで生じる局地的な気圧勾配、また天気図に現れるようなスケールが大きな気圧勾配が生じていて[8]、気圧勾配の向きが谷筋・海峡軸に平行するときに、風が集まり加速される。谷間や海峡の片側に高気圧寒冷前線が迫るときに強風を生じやすい[16]

日下 (2018)[8]によれば、冷気層による局地的な気圧勾配の場合、谷の幅、風速、安定度の3つがある条件を満たすとき、特に谷の出口で強く地峡風が吹く。平地へ吹き出した冷気層は次第に厚みが減少し、風下へ行くほど風速も低下してくる。

一方スケールが大きな気圧勾配の場合、谷から平地へ出た風が水平方向に発散する(拡がる)ことによって、上空から大きな運動量が下りてきて地上も強風となるしくみ。この作用により、山の高さ、風速、安定度の3つがある条件を満たす場合は、谷の中で風があまり強くなくとも谷の出口で風が強まる[8]

アルプス山脈のブレンナー峠の出口、北アメリカ大陸西海岸のファンデフカ海峡は、地峡風(海峡風)の吹く場所の代表的な例[8]

その他の類型

  • 海陸風山谷風滑降風(カタバティック風)、ヒートアイランドによる風などが作用する局地風もある[1][17]
  • チャネリング風 (wind channelling) - 大気が安定成層のときに、大きなスケールの風が谷の中では谷に並行に向きを変えるもの。大気下層で冷たい風が力学的に捕捉され生じる。日本の伊那谷北上盆地、ドイツのライン渓谷の例が知られる。冬の伊那谷では、周辺に北西の季節風が吹くときでも強い南風になることがある。このとき風は地衡風に近く等圧線は北西-南東方向・気圧傾度力は北東向きのため、北向き成分が谷筋に沿い流れることで南風となる。北上盆地は伊那谷より谷が浅く、西風が強すぎるとチャネリングが崩されて西風が直接谷へ入る[18]

影響と対策・恩恵

局地風の影響する地域では、家屋には次のような工夫がみられる。屋根は補強をしたり重しを乗せたりし、屋根の高さを低くしたり、軒先を延ばし例えば地上1mまで覆うなどすることがある。風上側のは小さかったり少なかったりする。家の周囲に石垣土塁防風林を設けることもある。家屋の外観は、石垣や防風林に隠れていたり、屋根が風上と風下で非対称だったりする。また新しく建てる家は、構造を改めレンガ造コンクリート造などにすることもある[19]

農地でも、風に強い作物を栽培したり、防風林を設けたりする。フェーン風のある地域では、暖かさが耕作に有利に働く例もある[19]

濃尾平野では伊吹颪を利用した切り干し大根の生産が盛んで、風が弱いと3日必要な乾燥期間が、風が強いときは1日で済むという[20]茨城県で生産が盛んな干し芋空っ風・那須颪を利用している[21]

吉野正敏によれば、強風がいつも吹くような地域と時折局地風が吹く地域は、居住形態はあまり変わらない。しかし、前者は広い面積に及ぶものが多いこともあって、経済的発展が遅れたり土地利用の高度化が進まなかったりする一方、局地風の影響地域は狭く、常に強風が吹くわけではないこと、周辺地域との経済的繋がりがみられることもあって、多少無理をしてでも対策を取りながら居住が行われる傾向があるという[19]

局地風が発生する範囲や気象条件は研究され、その地域では比較的知られて対策が取られていることが多い[22]。そして、しばしば新しい住民や地域住民以外の者が思いがけず被害を受ける点も注意が必要[22]

代表的な局地風

日本

颪とだし
」(おろし)[注釈 3]や「だし」の名がついた局地風はいくつもみられる[2][8]。颪は、山から吹き下りる風[23][8]で、原義は吹き下す意のオロシとする説、「尾ろ」(尾は山や峰を指し、ろは接尾語)が「山風(オロシ)」に転じたとする説がある[24]。だしは、陸から沖へ海岸と直角方向に吹くような、船を“出す”のに適した風の意味と考えられる[23][8]。颪は山から太平洋側に向かう風、だしは山から日本海側に向かう風が多い[2]。「〇〇颪」には大抵、風上の山の名前が付けられることが多いものの、赤城颪、榛名颪、筑波颪などその山から直接吹きおろすとは言えない颪もみられる[2][8][25]。また、だしは東北から北陸の日本海側に多くこれらは東風だが、山陰では南風であるなど、地域により風向は異なる[23]
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脚注

注釈

  1. ^ 古い書籍では局地風に相当する用語を「地方風」とするものがある[3](同時期にも「局地風」とする書籍はある[4])。また、「局地風」に含まれる概念として、地形の影響が強い風に対し、気圧配置による風でメソスケールの広がりをもつものを「地方風」とする書籍もあった[5]。一方、新しい書籍の「局地風」の項にはこのような記載はない[1][2]
  2. ^ 例えばやまじ風では、地図上に風向・風速が急変する「やまじ風前線」を見出すことができる[9]
  3. ^ a b 本項目では、局地風を成因分類した型のひとつを「おろし風」、日本各地の颪(おろし)と名の付く風の総称を「颪」として呼び分けた。

出典

  1. ^ a b c d e f g 真木 2022a, p. 52.
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s 気象科学事典 1998, pp. 164–166「局地風」(著者:斉藤和雄)
  3. ^ 天然社気象辞典編集部 編「ちほう-ふう[地方風, Local winds]」『気象辞典 増補版』天然社、1957年、221頁。全国書誌番号:57007822NDLJP:1376407 
  4. ^ 斉藤錬一 ほか 編「風>〔局地風〕」『日本の気候』東京堂、1958年、12頁。全国書誌番号:58012212NDLJP:1377113 
  5. ^ 吉野正敏 ほか 編「局地風」『気候学・気象学辞典』二宮書店、1985年10月、143頁。ISBN 4-8176-0064-0NDLJP:9585674 
  6. ^ 福井英一郎 ほか 編「局地風」『日本・世界の気候図』東京堂出版、1985.7-07、123頁。全国書誌番号:85062714NDLJP:9672735 
  7. ^ 山岸 2002, pp. 178–179.
  8. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa 日本気候百科 2018, pp. 477–480(著者:日下博幸)
  9. ^ a b c d 斉藤 1998.
  10. ^ a b c d e f g h i j k l Stull 2022.
  11. ^ a b c AMSa.
  12. ^ 日下 & 髙根 2017.
  13. ^ a b c 真木 2022a, p. 54.
  14. ^ a b 山岸 2002, pp. 7–8.
  15. ^ a b 山岸 2002, p. 20.
  16. ^ a b c AMSb.
  17. ^ 山岸 2002, p. 178.
  18. ^ 気象ハンドブック 2005, p. 226(著者:木村富士男)
  19. ^ a b c 吉野 1992, pp. 9–12.
  20. ^ 環境気候学, 2003 & (著者:福岡義隆), pp. 303–307.
  21. ^ a b 図説日本の風 2022, p. 98「44 那須おろし」(著者:真木太一)
  22. ^ a b 気象ハンドブック 2005, p. 565「局地風」(著者:高瀬邦夫)
  23. ^ a b c 山岸 2002, p. 50.
  24. ^ 吉野 1992, pp. 12–13.
  25. ^ 環境気候学 2003, p. 303.
  26. ^ a b c d e f g h i j k l m 真木 2022a, pp. 53, 55.
  27. ^ 気象科学事典 1998, p. 510 「やませ」(著者:新野宏
  28. ^ 山岸 2002, p. 39.
  29. ^ 図説日本の風 2022, pp. 100–102「45 赤城・榛名・筑波おろし」(著者:真木太一)
  30. ^ 気象科学事典 1998, p. 106 「空っ風」(著者:藤部文昭)
  31. ^ 日本気候百科 2018, pp. 355–356(著者:森脇亮)

参考文献

関連項目

外部リンク



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