劇場用映画の音響フォーマット
その後、ドルビー研究所がノイズリダクション技術を駆使して雑音の除去に取り組んだが、全体を解決させるには至らず、しばらくの間映画のサウンドトラックは劣悪なものであった。
一方で「ステレオ音響化」が試みられ、1940年代にはウォルト・ディズニー映画「ファンタジア」が FANTASOUNDと名付けたマルチトラック・サウンドを発表した。現在のような「ハイファイステレオ音響」に近い方式が現れたのは1950年代であるが、ロックオペラ映画「トミー」で、実験的に「ドルビーステレオ・サラウンド(アナログ方式)」が取り入れられて公開されたのは1975年であった。
「ドルビーステレオ・サラウンド」が本格的に使用されるようになったのは、1977年に公開された「スターウォ−ズ」からで、その後「未知との遭遇」「サタデイナイト・フィーバー」「スーパーマン」「グリース」「エイリアン」「ハリケーン」「地獄の黙示録」等が続々と続き、不動のものとなっていった。以降、改良方式や新たなシステムも実現され今日に至っている。
【参】付図−10
ドルビーステレオ(Aタイプ) Dollby Stereo A-type
米国ドルビ−社が1975年に開発した、35mm劇場用映画のための「光学方式」によるサウンドシステムで、正面スクリーン裏に L(左)、 C (中央)、 R (右)、の3チャンネル、客席側左右及び背部の壁面上部に複数のスピーカーを配置するサラウンドチャンネルを1チャンネル設け、計4チャンネルの構成となっている。
上映用プリントには画像の横に3.9mm幅のサウンドトラックがモノラル音声時代から用意されているが、2分割して2チャンネルとして使用し、マスター音声の4チャンネルをマトリクス方式と呼ばれる方法によって2チャンネルに変換し収録している。
劇場での再生ではマトリクス方式により4チャンネル・ステレオサラウンド音声にて上映するシステムである。
ドルビーステレオ(Aタイプ)は、その後、同じアナログ記録の「SRタイプ」として改良され、音質が向上している。
ビデオパッケージ商品、テレビ放映等に際しては、元の2チャンネルステレオ音声として利用できる。家庭では民生用デコーダーを使用することにより、劇場並みの4チャンネル音声を復元することが可能。
【参】ドルビーステレオSR
ドルビーステレオ SRDollby Stereo Spectral Recording
米国ドルビー社が開発した35mm劇場用映画のための「光学方式」によるサウンドシステム、ドルビーステレオ(Aタイプ)を改良したもので、同じアナログ記録方式であるが、ダイナミックレンジの拡大と歪率の低下が図られ、音質が著しく向上している。1987年に日本公開された「スタートレック4」での採用が最初で、「ロボコップ」「ランボー3」「レインマン」等が続き、現在の標準となっている。邦画作品では劇場設備の関係からかしばらくの間「Aタイプ」のままであったが、1997年頃には多くの作品が「SR」の採用を始めた。
【参】ドルビーステレオ(Aタイプ),ダイナミックレンジ
ドルビーデジタル Dollby Digital
米国ドルビー社が開発した35mm劇場映画のための「光学方式」によるデジタルサウンドシステムで、1992年米国映画「バットマン・リターンズ」で初公開された。
スクリーン裏に L(左)、 C(中央)、 R(右)の3チャンネル、客席を取り囲むサラウンドチャンネルを LS(左側サラウンド)、RS(右側サラウンド)に分けて2チャンネル、更に効果用の超低音専用チャンネルを1チャンネル有し、計6チャンネル構成となっている。但し超低音チャンネルはオーディオ周波数全帯域の10%程度にあたる低音域のみを扱うため、業界では0.1チャンネルとして扱い、全体を5.1 チャンネルとして通称している。上映用プリントでは、既存のアナログサウンドトラックを残したままパーフォレーションの間にデジタル記録している。
ドルビーデジタルEX Dolby Digital Surround EX
ドルビーデジタル方式のサラウンドにバックサラウンド(センターサラウンド)チャンネルを追加したもの。ドルビーデジタルの6チャンネル構成(通称5.1チャンネル)に背面の BS(バックサラウンド)チャンネルを加え、全体を7チャンネル構成とし、6.1チャンネルと称している。
ちなみに、3つのサラウンドチャンネルは、マトリックス方式により2つのチャンネルにエンコードして記録、再生時にデコードして3つのチャンネルに復元している。
ジョージルーカス監督「スター・ウォ−ズ/エピソード1」にて始めて採用された。前方から後方へ、後方から前方への音の定位が明解になる。
【参】ドルビーデジタル
DTS Digital Theater Systems
米国デジタル・シアター・システムズ社が開発した劇場映画用の記録再生システムで、チャンネル数やスピーカーの配置はドルビーデジタルと同様の5.1チャンネルである。
音声記録をCD-ROMにおこない、映写プリントにはタイムコードを記録しておき同期再生させるシステムで、音声信号を1/4に圧縮することにより2枚のディスクに最長3時間20分の5.1チャンネルでデジタルオーディオを記録できる。
映写プリントとCD-ROMを同期運転させる不便さがある反面、音楽用CDに近い高音質が得られる。
DTS-ES
DTSシステムのサラウンドチャンネルを更に細分化したシステム。
客席を取り囲む左側壁面にLS(左側サラウンド)、左側背面にLBS(左後方サラウンド)、右側壁面にRS(右側サラウンド)、右側背面にRBS(右後方サラウンド)の4つのサラウンドチャンネルを設定して、全体を8チャンネル構成(7.1 チャンネル)とし、サラウンド音声の定位感を明解なものにしている。
ちなみに、4つのサラウンドチャンネルは、マトリックス方式により2つのチャンネルにエンコードして記録、再生時にデコードして4つのチャンネルに復元している。
ただし、多くの映画では、ドルビーデジタルEXとの互換性から背面(後方)サラウンドは、モノラル仕様となっている。
DTSアナログ
ドルビー・ステレオ(Aタイプ)及びSRタイプと互換性のある、マトリクス方式による4チャンネルシステムで、映写プリントの既存のサウンドトラックにアナログ信号による2チャンネル記録を行っている。音声収録時にDTS社のエンコーダーを使用する以外ドルビー・ステレオ方式と違いはなく、同じものと考えて良い。
SDDS Sony Dynamic Digital Sound
1993年にソニーが開発したデジタルサウンドシステムで、上映用プリントのパーフォレーション外側2箇所を使って光学的にデジタル記録をしている。
スクリーン裏にL(レフト)、LC(レフトセンター)、C(センター)、RC(ライトセンター)、R(ライト)の5チャンネル、客席を取り囲むサラウンドチャンネルをSL(左壁・左背面)、SR(右壁・右背面)に分けて2チャンネル、更に効果用の超低音専用チャンネルを1チャンネル有し、計8チャンネル構成となっている。
但し、超低音チャンネルは他のシステムと同様に0.1チャンネルとして扱い、全体を7.1チャンネルと通称している。
70mm映画以外では前面に5チャンネルを配置する必要が少ないことから、映画製作者は予め5.1チャンネル構成を選択することもできる。
逆に5.1チャンネルの音響設備しかない劇場の場合には、劇場に設置されるデコーダーにて7.1チャンネルから5.1チャンネルに変換され、興行上の問題が起こらないように考慮されている。
記録信号はMD等で用いられているATRACと呼ばれるデジタルデータの圧縮方式(約1/5圧縮)を採用している。
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