三式戦闘機二型における発動機供給問題
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「五式戦闘機」の記事における「三式戦闘機二型における発動機供給問題」の解説
「三式戦闘機」、「三式戦闘機#ハ40の故障と整備」、「三式戦闘機#二型(キ61-II改)」、および「ハ40」も参照 五式戦闘機は、前面投影量が少なく空気抵抗の少ない液冷エンジンを搭載した三式戦闘機二型の機体に、本来搭載の予定されていなかった直径の大きな空冷星型エンジンを緊急に取り付けて戦力化したものである。 三式戦闘機は元々、ドイツ製液冷倒立12気筒エンジンDB601を国産化し川崎がライセンス生産していたハ40(離昇出力1175馬力)を搭載していた。初期型の三式戦一型甲/乙型は12.7mm機関砲4門、または12.7mm機関砲2門と7.7mm機関銃2門の武装を備えて590km/hを発揮した。登場時期においては相応に優秀な機体であり、戦局は有利に運ばなかったものの、1943年から1945年にかけ、ニューギニアとフィリピンで連合国の機体を相手として善く戦った。 ただし液冷式航空エンジンの生産は、当時の日本の機械加工技術では手に余った。多気筒直/並列エンジンは構造上クランクシャフトやカムシャフトが星形より長くなるが、当時の日本では、長い部材に必要な精度と強度を持たせる加工が困難であった。また一部合金の制限などを受けながら生産したという事情もあり多くの不具合が生じた。また前線の整備兵も液冷エンジンの取り扱いには不慣れであった。原因としてマニュアルの不備、教育の不徹底、整備方法の拙劣さが挙げられる。これらは三式戦闘機の稼働率と直結し、直接の戦闘力はともかく、信頼性と戦力定数を揃える上でかなりの不満があるものであり、川崎内部でも以前より空冷化案が出ては立ち消えていたという。 後期型の三式戦一型丁は12.7mm機関砲2門に20mm機関砲2門と武装を強化し、また相応の防弾性能を持たせたが、改造による重量増で速度が560km/hに落ち、上昇力が低下するなど飛行性能は悪化した。三式戦闘機のこれ以上の性能改善にはより強力な新型エンジンが必要な状況であった。特に過給器など高空性能を支持するエンジン技術には不足が多く、高度10,000m付近では水平飛行を維持する、もしくは浮かんでいるのがやっとの状態であり、この高度を巡航するB-29の迎撃はおぼつかなかった。従ってB-29の邀撃には待ち伏せして一撃をかけるのが精一杯であった。この高空性能の不足は最後まで改善を見ず、三式戦闘機においては機銃の一部や防弾装甲などを外してなんとか戦闘空域まで上昇し、体当たり攻撃が行われたほどであった。 1942年春、ハ40の基本的な構造はそのままとし、1500馬力級液冷倒立V12気筒エンジンハ140の開発が行われた。この新型エンジンは吸気圧を上げてエンジン回転数を2,500rpmから2,750rpmとし、離昇出力を1175馬力から1500馬力に高め、大型化した過給器の冷却のために水メタノール噴射装置を導入したものである。しかしながらこのエンジンの生産は非常に難航した。このエンジンを搭載した最初の型式であるキ61-IIは、1943年9月から1944年1月までに8機の試作で中止され、9機目からはキ61-II改、三式戦闘機二型として生産されたが、1944年8月までに30機の増加試作を経ても、未だにエンジンであるハ140の生産が安定するには至らなかった。明石工場に通いトラブルの調査を行っていた審査部の名取智男大尉も、ハ140には見込みが無く、整備屋としてこれに乗って飛んでくれとはとても言えないと考えていた。 エンジンの生産数を見るならば、44年7月に20台納入の予定が8台、8月は40台納入予定がわずかに5台、9月に至っては1台であった。一説にはこの時海軍のアツタを調達して装備することが検討されたとも言われるが、両エンジンの仕様の違いなどから実現しなかった。1944年8月には三式戦二型の実戦化に見切りが付けられた。機体の生産の削減が行われ、代わりに四式重爆撃機の生産が指示される。削減後にも工場内において低調な生産が続けられ、1944年12月から1945年2月の時期には三式戦二型の首無し機体が常時200機程度、川崎の工場内に滞るという異常事態が起きた。航空戦力として全く期待ができない状況であった。 最終的に三式戦闘機二型の生産は100機程度で一旦打ちきられることとなった。しかし、アメリカ軍の爆撃により完成機の一部が破壊され、陸軍に納入されたのは60機程度であった。なお、1945年6月から8月の整備計画には三式戦闘機が残されていることから、ハ140の生産が安定すれば生産が再開された可能性がある。
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