ヨーロッパにおける発展
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/02 02:53 UTC 版)
ヨーロッパでは、12世紀から13世紀ごろにアラビアの薬学書や化学書が錬金術師によってギリシア語やラテン語に翻訳され、その火薬の知識が伝えられた。とりわけ1248年から1254年に行われたヨーロッパ人による第7回十字軍の際にアラビア軍が「突火槍」に近い構造の「ローマンキャンドル」や「手銃」を広範に使用して反撃を行ったことが大きな影響を与えた。当時のローマンキャンドルや手銃では至近距離以外での命中はほとんど望めず、当たったとしてもプレートアーマーを貫通することはできなかったが、発射音や煙で軍馬や兵士を混乱させる効果が大きく、しばしばアラビア軍側に有利に働いた。この戦闘で火砲の威力を知ったヨーロッパ諸国は14世紀から火砲の製造に乗り出すようになった。 ヨーロッパで最初に製作された火砲は、ローマンキャンドルと似たキャノンロックだった。キャノンロックは、鉄板を丸めて筒状にし、周囲に多くの鉄製バンドを巻き付けて強化し、後端には柄があった。金属の丸い弾丸だけでなく丸い石や鉄製の矢なども発射した。大きさは様々であり、1人で運搬して射撃できる小さい口径の物から、数人で操作する大口径の物もあった。前者が後の小銃の原型となり、後者が大砲の原型となった。一体構造で強度がある鉄製の筒が製造できるようになるとキャノンロックの小型化は進んだ。 15世紀に入ると、鋼鉄製品の鍛造加工技術に優れるドイツにおいて、次々と革新的な銃砲のメカニズムが開発された。15世紀初頭には片手で銃を持ち、もう片方の手で火縄を持って点火孔に押しつけて発射した従来のタッチホールロックではなく、引き金を引くと自動的に火縄が点火孔に押しつけられるマッチロック式(火縄式)が開発された(マッチロックはそれ以前の1375年頃にベルギーのリエージュで発明されたとする説もある)。マッチロック式の開発によって銃を両手で保持して照準できるようになった。従来は棒状であった柄も握りやすいよう湾曲した形状になり、頬や肩に密着させて正確な照準が可能となる銃床へと進化し、また銃身の上面に照準器が取り付けられるようになった。 このヨーロッパで発明されたマッチロック式(火縄式)が、1543年に日本の種子島に漂流したポルトガル人によって日本に伝えられたものである。戦国時代だったため、各大名の新兵器に対する需要は高く、火縄銃は急速に日本各地に広がったが、徳川幕府が成立すると、幕府は火縄銃の普及を恐れて様々な制限を加えるようになり、また鎖国のためにヨーロッパの最新情報が手に入らなくなって日本における銃の発展や改良は再度ヨーロッパから銃を輸入するようになる幕末まで完全に停滞することとなった。 ヨーロッパでは16世紀になると、騎兵向けの軽量銃器として拳銃(ピストレット)や騎兵銃(カービン銃)など用途に適した形式の銃も出現するようになった。しかしマッチロックは火のついた火縄を持ち歩く必要があり、火縄の臭いで敵に気づかれたり、雨や雪で火が消えるなど欠点が多かった。これらの欠点の克服のため、1525年頃にドイツもしくはオランダで誕生したスナップハンス式に代表される火打石と鋼のやすりを擦り合わせて発火させる方式が開発されるようになった。 17世紀初頭にはフランスでスナップハンス式を改良したフリントロック式が開発されて、やすりの下端が点火孔の外側に装填された補助点火火薬を保護する蓋を兼用するようになった。これによりもはや火縄を持ち歩く必要は無くなり、天候に左右されにくくなった。ヨーロッパ各国は競ってフリントロック銃を軍用銃とした。フリントロック式は信頼性が高く、2世紀もの間使用され続け、その間様々な改良や試作が行われた。またフリントロック式の軍用銃には、歩兵用の長いマスケット銃、それよりやや短く軽量のドラグーン、騎兵用の短いカービン銃、片手で射撃できる小型のピストルなど用途別に様々なものが使用された。 19世紀初頭にヨーロッパでパーカッションロック式(管打式・雷管式撃発装置)の発火方式が、フリントロックに代わるものとして開発された。これは水銀系の雷汞という火薬を発火に使用するものだった。フリントロックと違って、補助点火火薬の装填の必要もなく、発射後再装填がすばやく行え、空気中の湿気の銃身内の火薬の保護にも優れていた。18世紀中頃以降には、ヨーロッパ諸国は従来のフリントロックを改造した物か、パーカッションロック式を軍用銃として採用するようになった。 金属加工技術に優れるドイツでは、古くから銃身内に螺旋溝(ライフリング)を刻み、弾丸に回転を加えて命中精度を高めた「イェーガー・ブクセ(狩猟銃)」が狙撃兵に支給されていた。他のヨーロッパ諸国もパーカッションロック銃の時代になると、銃身内に螺旋溝を刻むようになり、命中精度が向上した。英語でマスケットと呼ばれていた歩兵用小銃がライフルと呼び変えられた語源はこれである。一方、騎兵用の短い銃は、単発銃の時代に発射後にフックで吊るして戦闘を続けたため、ドイツ語でフックを意味する「カラビナー」から英語でカービンと呼ばれるようになった。
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