バーミリオン星域会戦
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「銀河英雄伝説の戦役」の記事における「バーミリオン星域会戦」の解説
宇宙暦799年/帝国暦490年4月24日~5月5日。ヤン艦隊とラインハルトが直接指揮する艦隊の戦い。当初から参加した兵力は、帝国軍が艦艇18,800隻/将兵229万5400人。同盟軍が艦艇16,420隻/将兵190万7600人。ただし帝国軍は途中からミュラー艦隊約8,000隻が参戦した。 ヤン艦隊をおびき出すため、ラインハルトは全艦隊を同盟領各地の占領のために分散させて本陣を手薄にした。ここまではヤンの読み通りだったが、ラインハルトはヤンの読みをも超えて自ら直属艦隊を率いてハイネセンに向かい、「分散させた諸艦隊が最も遠ざかった時、ラインハルト自身はハイネセンに突入している」という状況を作り出した。それによって、ヤンはそれより前に、諸艦隊が近くにいるうちにラインハルトと戦わざるを得なくなった。罠である事を承知の上でヤンはラインハルトとの「決闘場」となるバーミリオン星域に向かった。 正面から対峙した両艦隊が砲撃を開始したのは4月24日14時20分。双方とも相手の奇策に対応しようと考えていたため、結果として平凡な正面攻撃の応酬で始まった。砲戦が続くなかトゥルナイゼンが功をあせって突出、帝国軍の艦列を乱しヤン艦隊の集中砲火を浴びる事となった。一方の帝国軍も反撃し、主砲を撃ち合う消耗戦の様相を呈していく。ラインハルトもヤンも互いに予期せぬ乱戦状態のまま3日も戦い続けた。 帝国軍の援軍が到着する事を予想したヤン艦隊は、27日に艦隊の再編成を行い速攻に転じた。いち速くラインハルトの旗艦を撃破して、勝敗を決しようという作戦である。最初からこうなる事を見越していたラインハルトは、時間稼ぎを目的としてペティコートのように24段に及ぶ防御陣を敷いて対応した。そして突破された防御陣は再結集して最後尾の防御陣となり、ヤン艦隊は永遠に防御陣を突破できない物心両面から疲労と損傷を蓄積させていくという作戦である。ヤンは帝国軍の防御壁を第8陣まで突破したがラインハルトの戦術を見抜くことが出来なかった。その後ユリアンが見抜いてその見解を披露した。 その見解に基づき、ヤンは4月30日に一旦後退して小惑星帯に入る。そこで艦隊を二分し、まず帝国軍の左翼から攻勢をかける。帝国軍ではラインハルトが囮艦隊を使った作戦であることを見抜くも、この左翼に突出してきた艦隊が囮か本隊かの判断に迷う。総参謀長オーベルシュタインに促される形で、ラインハルトはこの攻勢部隊が本隊であるとし、24段の防御隊形を解除しての攻撃を命令した。しかしこの部隊は、マリノ率いる2,000隻の分艦隊と牽引した隕石で1万隻程度の艦艇に見せかけた擬似艦隊であり、完全にラインハルトは裏をかかれた。各分艦隊が囮に引き寄せられてブリュンヒルトから離れた瞬間、ヤンの本隊が小惑星帯から進発してブリュンヒルトに向った。帝国軍の各分艦隊はブリュンヒルトの方向へ引き返し、同盟軍本艦隊の縦列に側面から攻勢をかけることで分断を図った。それを予期していたヤンは本艦隊を凹型(右舷90度に会頭)に再編、囮艦隊は隕石群を帝国軍に撃ち込み、本艦隊と挟撃して完全な包囲下に収める。帝国軍分艦隊はラインハルト座乗の総旗艦ブリュンヒルトと完全に分断されてしまう。 この時、同盟軍は帝国軍の艦隊ほとんどを包囲下に置く事に成功したため、同時にヤン艦隊の一部艦隊が、わずかな護衛に伴われるのみのブリュンヒルトに接近した。だが同盟軍が砲撃を開始する寸前に、ミュラー艦隊8,000隻(OVAでは強行軍に脱落艦が相次いで当初は6割ほど)がバーミリオン星系に到着しブリュンヒルトの防御にあたる。このミュラー参戦が5月2日のことである(時刻は不明)。ミュラーが最初に反転してきたのは、占領したリューカス星域の補給基地で抵抗が起きなかったためである。ミュラーの参戦により戦線は再び膠着し、戦艦アキレウスが撃沈しモートンが戦死した。 その後、ヤンはカルナップが包囲網を突破しようとしている事に気がついてその部分の包囲網を解き、ミュラーが逆に味方を救出するため包囲網に入るように仕向けた。ミュラーとカルナップが逆方向から殺到して混乱状態になった瞬間、ヤン艦隊は一点集中砲火を仕掛けてカルナップを戦死させ、さらにミュラーの旗艦リューベックをも大破、撃沈に至らしめた。ミュラーは辛うじて脱出に成功し戦艦ノイシュタットを旗艦としたが、これも撃沈され、更に移乗した戦艦オッヘンブルクまでも撃沈される。なおも戦艦ヘルツェンに移乗し、計4度司令部を移して奮戦するものの、ヤン艦隊の進撃を完全に食い止める事は出来なかった。それでもこの抗戦で稼いだ時間が大きな意味を持つこととなり、ミュラーはこの戦いぶりから後に「鉄壁ミュラー」と勇名を讃えられることとなる。 5月5日22時40分、ヤン艦隊は再びブリュンヒルトを射程内にとらえようとしていた。しかし、事前にヒルダの策を受けたミッターマイヤー・ロイエンタールの別働隊約3万隻がハイネセン上空を制圧。自らの命が危うくなったヨブ・トリューニヒトは、日頃の大口を忘れて時間稼ぎさえせずに無条件停戦命令を下し、戦闘は終結した。足掛け12日にも及んだバーミリオンの戦いの最終的な参加将兵と損耗率は帝国軍が26,940隻/326万3100人、艦艇損傷率87.2%、死傷率72%。同盟軍が16,420隻/190万7600人、艦艇損傷率81.6%、死傷率73.7%、となっており両軍合わせて約250万もの犠牲者が出た。 なお、この戦闘に先立つ4月11日、ヤン艦隊は小惑星ルドミラの補給基地で半日休暇を取ったが、その際ヤンはフレデリカにプロポーズし受諾されている。また、フレデリカに密かな恋心を抱いていたユリアンは、二人の結婚を祝福しつつもそれを忘れるためという一面もあって、戦闘後に生き残ったら地球教の調査に向う事をキャゼルヌに伝えている。 このバーミリオン星域会戦においてどちらが勝利したかについては、作中における後世の歴史家の意見は分かれている。公正さを主張したい歴史家は「戦術では同盟の勝利。戦略では帝国の勝利」「戦場では同盟の勝利。戦場の外では帝国の勝利」などと主張している。当事者であるヤンは戦術より戦略を重視する立場から、ラインハルトは勝利を得たのでなくて譲られたという事から、ともに自らを勝利者とは認めず、互いに相手に対して劣等感を抱いていたと説明されている。なおヤン艦隊の一部幕僚は、自分たちの負けを認めず、ラインハルトに勝利を譲ってやっただけと考えていた(回廊の戦いにおけるアッテンボローの扇動より)。
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