創傷 自然治癒のメカニズム

創傷

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/03/07 08:51 UTC 版)

自然治癒のメカニズム

傷はどのように自然治癒するかについて説明する。

  1. 血小板の凝集、血管収縮による止血。マクロファージによる壊死組織のとりこみ。
  2. 繊維芽細胞が分泌するコラーゲンを主とした肉芽組織(にくげそしき・granulation tissue)による収縮。
  3. 肉芽組織の瘢痕組織への変化。それによる創の安定。

赤色の修復や炎症の反応が生じ、上皮や表皮が再生される[1]

第一期・炎症反応期

血液の凝固因子の活性化。活性は連鎖的に強まり破壊部位の血流をとめる。受傷後約4〜5日。

反応

腫脹
浸出液で腫れ上がること。
発赤
毛細血管の拡張で赤くなること。
発熱
組織反応で熱を発すること。
疼痛
末梢神経の刺激による痛みのこと。

第二期・増殖期(肉芽形成期)

マクロファージの放出する物質により繊維芽細胞が呼び出され修復の主たる成分、コラーゲンが産生される。創傷治癒過程の初期には、まず血小板擬集能に優れるIII型コラーゲンが、産生蓄積され、やがてI型コラーゲンに置き換えられて、いずれは太く密なコラーゲン線維となる。これにより組織は安定し血管新生、毛細血管発達がみられる。

管理

創傷からの回復を促すために創傷環境調整 (wound bed preparation) が提唱されており、壊死組織の除去(デブリードマン)、感染や炎症への対処、乾燥の防止、滲出液の管理などがある[1]

傷は消毒させて乾燥させるという常識のもと、従来は傷の表面を乾燥させガーゼで覆ったが、傷を湿潤させるという新たな考え方が見られるようになった[1]。湿潤環境は乾燥に比較して、表皮の回復や血管の新生、また痛みの管理にも有利である[1]

ガーゼ以外の湿潤環境を得るための創傷被覆材(ドレッシング材)では、ハイドロコロイドにのみ治癒促進効果が確認されているというシステマティック・レビューがある[1]

傷は、適度な温度の水道水、生理食塩水などによって洗浄され、細菌や残留物が洗い流される[1]。異物などの除去は必要だが、過剰な洗浄は治癒を促進するサイトカインなども洗い流してしまう[1]

浅い傷では洗浄で十分であり消毒は不要で、感染しつつある段階から消毒が考慮される[1]。上皮化がまだで肉芽を形成している時期に無用な消毒を行うことは、肉芽の形成を遅らせてしまう[1]。熱感、うみ、発火、疼痛、発熱など感染による症状を呈した場合には、壊死組織の除去、消毒、抗生物質などが用いられ、感染が制御でき次第中止する[1]。深い傷では、感染が管理され、壊死組織を除去することで創傷環境を整え、湿潤療法を目指すが、毎日の洗浄は必須ではない[1]

外用薬を用いる場合、2週間をめどにその効果を検討すべきであり、漫然と使用しない[1]。浅い傷では、アズレン軟膏、抗生物質を含む軟膏、白色ワセリンなどが使用されるが、抗生物質は耐性菌の出現の懸念のため2週間以上の使用は推奨できない[1]。深い傷では、壊死組織の自己融解を促進させたり、さらなる除去を容易にするために組織を軟化させる成分を含む外用薬も選択肢となる[1]

ドレッシング材は、傷を閉塞させ湿潤環境をつくることで、細菌への抵抗力を持つ滲出液や細胞増殖因子を保持し、壊死組織の自己融解を促し、汚染を防止し、痛みを緩和し、従来からのガーゼと比較して感染率が低くなる[1]。感染の可能性がある場合には、湿潤環境は細菌を増殖させることもあるので傷口の監視が必要である[1]。ドレッシング材としては以下があり吸収力が異なるため、滲出液の多さ・少なさによって、適切な湿潤環境を整えるためのドレッシング材が選択される[1]

  • ポリウレタンフィルム
  • ハイドロコロイド
  • ハイドロジェル
  • キチン
  • アルギン酸塩
  • ハイドロファイバー
  • ハイドロポリマー
  • ポリウレタンフォーム

浅い傷には、ポリウレタンフィルム、薄いハイドロコロイドや薄いポリウレタンフォームが使用される[1]

日本皮膚科学会のガイドラインは、抗菌作用のある銀を含有するドレッシング材については、使用するための証拠は不足しているが用いてもよい[1]。英国国立医療技術評価機構 (NICE) の評価では、感染創傷に対して、銀含有ドレッシング材および銀クリームを使用するための証拠は不十分である[4]

痛みの管理にはその原因を鑑別し、また世界保健機関による3段階除痛の考え方に従う。つまり、軽度の痛みには非ステロイド性抗炎症薬 (NSAID) が用いられ、効果不十分では他の薬剤が考慮されていく。

ほか

ヘパリン類似物質(商品名アットノン)は、水分保持作用があり、傷痕を薄くする一般医薬品として2011年より小林製薬が販売している[5]

ビタミンKクリームは、挫傷の治療や色素沈着の抑制に使われてきており、血管外の血液の除去を容易にする[6]

耐性菌の問題も抗生物質の過剰な使用や誤った使用によって急増している[7]。耐性菌に対応するため耐性菌の問題を生じにくい精油、ハチミツ、銀や金など金属のナノ粒子を使ったものが研究され創傷被覆材に組み込まれるようになった[7]。2007年までのレビューで、創傷治癒に対する精油を利用したヒトでの研究は少なく、カモミールラベンダーを利用したものがあった[8]。5人のごく小規模の試験は、3か月程度の慢性創傷に対するラベンダーとカモミールオイルを1:1で6%溶液にしたものをガーゼにたらし、比較群より有効とした[9]。14人での二重盲検試験にてカモミールオイルは、タトゥーによる切り傷からの滲出範囲を減少させ、乾燥傾向があった[10]。精油の抗炎症作用、抗菌作用は文献で示されているものであり、2018年のシステマティックレビューでも動物研究だがより早い創傷の閉鎖、コラーゲンの形成が見られており、2010年代にはフィルムやナノ繊維などの創傷被覆材と組み合わせた研究が存在している[11]

オリーブオイル、グレープシードオイル、ココナッツオイル、アルガンオイル、アボカドオイル、ホホバオイルといった化粧品などに用いられる植物油の創傷治癒に対する研究は、動物研究など基礎的なものが実施されている[12]

ほかに治癒期間を遅くする要因は、タンパク質、ビタミンやミネラルなど栄養欠乏また、年齢(老化)である[13]




  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u 日本皮膚科学会 2017.
  2. ^ a b c 保崎清人『臨床医学概論―生活習慣病を中心として』ヘルスシステム研究所;、2008年、第3版、26頁。ISBN 978-4902527575
  3. ^ 保崎清人『臨床医学概論―生活習慣病を中心として』ヘルスシステム研究所;、2008年、第3版。ISBN 978-4902527575
  4. ^ 英国国立医療技術評価機構 (2016年3月). “Chronic wounds: advanced wound dressings and antimicrobial dressings”. National Institute for Health and Care Excellence. 2018年6月10日閲覧。
  5. ^ 内山リカ「「傷跡」よ、さらば! 目立たなくする治療法やセルフケア続々登場」2014年5月9日。
  6. ^ Hemmati AA, Houshmand G, Ghorbanzadeh B, Nemati M, Behmanesh MA (2014). “Topical vitamin K1 promotes repair of full thickness wound in rat”. Indian J Pharmacol (4): 409–12. doi:10.4103/0253-7613.135953. PMC: 4118534. PMID 25097279. http://www.ijp-online.com/article.asp?issn=0253-7613;year=2014;volume=46;issue=4;spage=409;epage=412;aulast=Hemmati. 
  7. ^ a b Negut I, Grumezescu V, Grumezescu AM (September 2018). “Treatment Strategies for Infected Wounds”. Molecules (9). doi:10.3390/molecules23092392. PMC: 6225154. PMID 30231567. https://www.mdpi.com/1420-3049/23/9/2392/htm. 
  8. ^ Woollard AC, Tatham KC, Barker S (June 2007). “The influence of essential oils on the process of wound healing: a review of the current evidence”. J Wound Care (6): 255–7. doi:10.12968/jowc.2007.16.6.27064. PMID 17722522. 
  9. ^ Hartman D, Coetzee JC (September 2002). “Two US practitioners' experience of using essential oils for wound care”. J Wound Care (8): 317–20. doi:10.12968/jowc.2002.11.8.26432. PMID 12360766. 
  10. ^ Glowania HJ, Raulin C, Swoboda M (September 1987). “[Effect of chamomile on wound healing--a clinical double-blind study]” (German). Z. Hautkr. 62 (17): 1262, 1267–71. PMID 3318194. 
  11. ^ Pérez-Recalde M, Ruiz Arias IE, Hermida ÉB (January 2018). “Could essential oils enhance biopolymers performance for wound healing? A systematic review”. Phytomedicine: 57–65. doi:10.1016/j.phymed.2017.09.024. PMID 29425655. 
  12. ^ Lin TK, Zhong L, Santiago JL (December 2017). “Anti-Inflammatory and Skin Barrier Repair Effects of Topical Application of Some Plant Oils”. Int J Mol Sci (1). doi:10.3390/ijms19010070. PMC: 5796020. PMID 29280987. http://www.mdpi.com/1422-0067/19/1/70/htm. 
  13. ^ Dhivya S, Padma VV, Santhini E (December 2015). “Wound dressings - a review”. Biomedicine (Taipei) (4): 22. doi:10.7603/s40681-015-0022-9. PMC: 4662938. PMID 26615539. https://www.globalsciencejournals.com/article/10.7603/s40681-015-0022-9/fulltext.html. 


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