アルジュナ アルジュナの修行

アルジュナ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/05 14:15 UTC 版)

アルジュナの修行

森で生まれたアルジュナたちは、父・パーンドゥの死をきっかけに、一家でハスティナープラへ移る。[1]そこで、王子たちの武芸の師として雇われたバラモンのドローナに教えを受ける。[2]ドローナはパーンダヴァ五兄弟とカウラヴァ百王子(ドリタラーシュトラの息子達、アルジュナから見て従兄)の両方の王子を指導していたが、その才能から、特にアルジュナに目を掛けるようになった。

ある時、ドローナは弟子を一人ずつ呼び、遠くの木に止まっている鳥を指差しで「何が見えるか」と問うた。ユディシュティラを初めとする他の弟子たちが木や鳥、枝などを答えたのに対し、アルジュナだけが「鳥の目が見えます。他には何も見えません」と答え、見事鳥を射抜いた事に深く満足をした。 ドローナは息子のアシュヴァッターマンを溺愛していたため、水を汲む修行において、息子に一人だけ口の広い壺を持たせた。しかしながら、アルジュナは弓の技巧を用いて工夫したことで、アシュヴァッターマンと同等の成果を出した。 また、ドローナが「アルジュナに暗闇で食事をさせるな」と秘密裏に周りに言い、アルジュナは暗闇で食事をしているうちに、習慣であれば暗闇でも行えることを悟り、夜に弓の鍛錬に励んだ。これをドローナはたいそう喜んだ[3]

ドローナと共にハスティナープラで師事したのは、ドローナと同じバラモンで軍師のクリパである。ドローナほどではないが、クリパも同様にアルジュナを常に高く評価していた[4]

ドローナは、武術を習得した弟子たちの修行の成果を披露しようと、クル王・ドリタラーシュトラ(アルジュナの伯父、パーンドゥの兄)に御前試合を提案する。そこでパーンダヴァ、カウラヴァの両王子達は見事な武芸の腕を披露する。その場に闖入してきたのが、アルジュナ同様に弓術に長けたカルナであった。彼もまた、ドローナのもとで武術を学んでいたが、常々アルジュナに強い競争心を抱き、カウラヴァのドゥルヨーダナ(ドリタラーシュトラの息子、アルジュナの従兄)を後ろ盾にして敵対していた[5]。 カルナの挑発を受けたアルジュナは師匠らの許可を得て、カルナと対峙する。しかし一騎打ちの作法に詳しいクリパの「戦いを申し込む場合は身分を明らかにすべきである。それを知ってから、アルジュナは汝と戦うか否か決めるだろう」という言葉に、御者の息子であるカルナは返答ができなかった。これに対しドゥルヨーダナが「アルジュナが王族でないものとは戦わないというのであれば、カルナをアンガ王の地位につける。」と宣言するも、日没により御前試合は解散し、カルナとアルジュナの一騎打ちは行われなかった[6]

ドローナはその後、弟子から師匠への伝統的謝礼(グル・ダクシナ)を要求した。ドローナの要求は因縁あるドルパダ王の捕縛であった。先に出発したカウラヴァ百王子やカルナなどの弟子たちが返り討ちにあった後、パーンダヴァはアルジュナを中心にドルパダ王の捕縛に成功する。このアルジュナの働きにドローナは益々アルジュナへの愛情を深めた[7]


  1. ^ 上村勝彦『原典訳マハーバーラタ』1巻(ちくま学芸文庫、2002年)1巻117章、以下、脚注ではこのシリーズを上村版として表記する。
  2. ^ 上村版1巻122章
  3. ^ 山際素男『マハーバーラタ』第1巻第1巻、以下、脚注ではこのシリーズを山際版として表記する。ガングリ版1巻134章、プーナ版1巻123章、上村版では省略されている。
  4. ^ 上村版4巻、4巻44章、ガングリ版4巻49章では、アルジュナを倒すと息まくカルナに対し、「無謀なことをするな、我々六人でアルジュナに対抗しよう」と述べている。
  5. ^ 上村版1巻、1巻122章
  6. ^ カルナが乱入してきた時点で、アルジュナは「カルナよ、お前は私に殺されて、招待されていないのに闖入して喋る者たちのいる世界へ堕ちるであろう」と言い、アルジュナ自身がカルナの身分を理由に一騎打ちを拒否したわけではない。御前試合はクルの王子達すなわちカウラヴァ及びパーンダヴァの武芸の披露の場として催されたものであり、クルの王子でないカルナには参加資格がないと考えるのが自然である。上村版1巻、1巻124~127章、山際版第1巻、第1巻
  7. ^ 山際版第1巻、第1巻、上村版1巻、1巻128章、ガングリ版1巻140章
  8. ^ 上村版1巻、1巻129~136章
  9. ^ 上村版2巻、1巻174~179章
  10. ^ 上村版2巻、1巻182章
  11. ^ 上村版2巻、1巻186章
  12. ^ 上村版2巻、1巻199章 山際版1巻、第1巻
  13. ^ jayaなど一部のバージョンでは一年間とされているものもあるが、同本の監訳注にサンスクリット語の原典マハーバーラタでは十二年とある。山際版、上村版、ガングリ版においても十二年とされている。
  14. ^ 上村版2巻、1巻205章
  15. ^ 上村版2巻、1巻206章 山際版1巻第1巻
  16. ^ 上村版2巻、1巻207章 山際版1巻、第1巻
  17. ^ 上村版2巻、2巻210~212章
  18. ^ 上村版2巻、1巻213章 山際版1巻第1巻
  19. ^ アルジュナにガーンディーヴァを授けるのはアグニ神であるが、ガーンディーヴァはヴァルナ神の武器である。ヴァルナ神からアグニ神へ、それからアルジュナへ与えられる。上村版2巻、1巻214~225章 山際版1巻、第1巻
  20. ^ 上村版3巻、3巻38章 山際版2巻、第3巻
  21. ^ シヴァ神愛用の武器だが、具体的にどのような武器か詳細不明。名前は牛飼いの杖という意味。(山際版第4巻、第7巻)ここでアルジュナはシヴァ神からその武器の秘法と回収方法を授かる。なおアルジュナはクルクシェートラの戦いの最中にも、夢の中でシヴァ神からパーシュパタを授かっているが、使用した明確な場面は山際版、上村版では確認できない。
  22. ^ 上村版3巻、3巻40~48章
  23. ^ 上村版3巻、3巻165~172 山際版2巻、第3巻
  24. ^ 上村版4巻、4巻1章
  25. ^ 山際版第2巻、第3巻 ガングリ版3巻46章 上村版ではウルヴァシーの話は存在しない
  26. ^ 上村版4巻、4巻21章
  27. ^ 上村版4巻、4巻29
  28. ^ C・ラージャーゴーパーラーチャリ、奈良毅・田中嫺玉訳『マハーバーラタ(中)』(第三文明社、2017年)
  29. ^ 上村版4巻、4巻30章
  30. ^ 上村版4巻、4巻33~66章
  31. ^ 上村版5巻、5巻5~94、122~148章
  32. ^ 上村版5巻、5巻5~197章 第5巻の努力の巻は、戦争前の準備や戦争回避に努めているという内容である。
  33. ^ 上村版5巻、5巻7章
  34. ^ 上村版6巻、6巻23~40章
  35. ^ 上村版6巻、6巻55章
  36. ^ 実際に二人は別の戦車に乗っており、またビーシュマの攻撃がアルジュナに向けられている描写があるため、シカンディンを盾に、アルジュナが攻撃した訳では無い。
  37. ^ 上村版6巻、6巻114章
  38. ^ 上村版7巻、7巻51章
  39. ^ 山際版第4巻、第7巻 ガングリ版7巻145章 上村版(プーナ版)にクリシュナが日没を偽装する描写はない。
  40. ^ 上村版7巻、7巻121章
  41. ^ 上村版7巻、7巻165章
  42. ^ ガングリ版8巻71章、山際版第5巻第8巻
  43. ^ ガングリ版8巻66章 山際版第5巻、第8巻
  44. ^ プーナ版9巻1章、山際版第6巻第10巻
  45. ^ 山際版第9巻、第14巻
  46. ^ 山際版第9巻第16巻
  47. ^ 山際版第9巻、第17巻
  48. ^ プーナ版18巻3章
  49. ^ 上村版6巻33章
  50. ^ プーナ版7巻28章 ガングリ版7巻27章
  51. ^ プーナ版8巻66章 ガングリ版8巻90章
  52. ^ 山際版第9巻第14巻、プーナ版14巻15章、ガングリ版14巻15章
  53. ^ 山際版第9巻、第16巻 ガングリ版16巻8章
  54. ^ 沖田瑞穂『マハーバーラタ入門 インド神話の世界』(勉誠出版、2019年)p158、






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