アルジュナ アルジュナとクリシュナの関係

アルジュナ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/05 14:15 UTC 版)

アルジュナとクリシュナの関係

クリシュナとアルジュナは古の双子の聖仙ナラとナーラーヤナの生まれ変わりであるとされ、前世からの緊密な一対の関係である。

 バガヴァッド・ギーター』においては、アルジュナの求めに応じてクリシュナはヴィシュヌ神としての姿を見せる。

 「あなたが見たこの私の姿は、非常に見られがたいものだ。神々ですら、この姿を非常に見たいと望んでいる。ヴェーダ、苦行、布施、祭祀によっても、あなたが見たような私を見ることはできない。しかし、ひたむきな信愛(バクティ)により、このような私を真に知り、見て、私に入ることができる。アルジュナよ。私のために行為をし、私に専念し、執着を離れ、すべてのものに対して敵意のない人は、まさに私に至る。アルジュナよ」[49]

このようにアルジュナの信愛にクリシュナは応えて見せ、アルジュナの迷いを払拭する。

 クルクシェートラの戦いにおいては、アルジュナを狙った武器の投擲からクリシュナが身を挺して守ったり[50]、カルナとの戦いでは戦車を沈ませてアルジュナを助けたりなど[51]、様々な場面でアルジュナはクリシュナに救われている。

 また、クルクシェートラの戦いで多くの戦士たちを失ったクルの王国が落ち着いたころ、アルジュナとクリシュナは平和をもたらしたことを心から喜び、しばらくの間王国内を回って心身を癒す[52]。クリシュナがドヴァーラカーへ帰還することを切り出すと、アルジュナは『バガヴァッド・ギーター』の内容を忘れたと言い、クリシュナに再度話をしてくれるように望む。クリシュナはこれに対し、『アヌギーター』と呼ばれる一連の教えを説いた。

 クリシュナが自らの一族と共に滅んだ際には、アルジュナは直ちにドヴァーラカーへ向かうが、残された一万六千のクリシュナの妻の嘆きを見て、アルジュナ自身も深い悲しみに沈む。死の間際、クリシュナは自らの父ヴァスデーヴァに「私はアルジュナであり、アルジュナは私です。彼は女、子供たちを守り、あなたの葬儀も行ってくれるでしょう」と語っており、これをヴァスデーヴァから来たアルジュナは声を詰まらせ、その日の夜は悲しみのあまり意識を失う[53]。 二人の関係の深さは単語にも表れ、クリシュナとアルジュナは度々「クリシュナウ(二人のクリシュナ)」と呼ばれる。サンスクリット語の名詞では、単数形・複数形以外に「二つのもの」を表す「両数形(双数形)」が存在し、不可分の緊密な一対のものを指す。「クリシュナウ」はこの両数形であり、一対の関係であることが強調されている[54]


  1. ^ 上村勝彦『原典訳マハーバーラタ』1巻(ちくま学芸文庫、2002年)1巻117章、以下、脚注ではこのシリーズを上村版として表記する。
  2. ^ 上村版1巻122章
  3. ^ 山際素男『マハーバーラタ』第1巻第1巻、以下、脚注ではこのシリーズを山際版として表記する。ガングリ版1巻134章、プーナ版1巻123章、上村版では省略されている。
  4. ^ 上村版4巻、4巻44章、ガングリ版4巻49章では、アルジュナを倒すと息まくカルナに対し、「無謀なことをするな、我々六人でアルジュナに対抗しよう」と述べている。
  5. ^ 上村版1巻、1巻122章
  6. ^ カルナが乱入してきた時点で、アルジュナは「カルナよ、お前は私に殺されて、招待されていないのに闖入して喋る者たちのいる世界へ堕ちるであろう」と言い、アルジュナ自身がカルナの身分を理由に一騎打ちを拒否したわけではない。御前試合はクルの王子達すなわちカウラヴァ及びパーンダヴァの武芸の披露の場として催されたものであり、クルの王子でないカルナには参加資格がないと考えるのが自然である。上村版1巻、1巻124~127章、山際版第1巻、第1巻
  7. ^ 山際版第1巻、第1巻、上村版1巻、1巻128章、ガングリ版1巻140章
  8. ^ 上村版1巻、1巻129~136章
  9. ^ 上村版2巻、1巻174~179章
  10. ^ 上村版2巻、1巻182章
  11. ^ 上村版2巻、1巻186章
  12. ^ 上村版2巻、1巻199章 山際版1巻、第1巻
  13. ^ jayaなど一部のバージョンでは一年間とされているものもあるが、同本の監訳注にサンスクリット語の原典マハーバーラタでは十二年とある。山際版、上村版、ガングリ版においても十二年とされている。
  14. ^ 上村版2巻、1巻205章
  15. ^ 上村版2巻、1巻206章 山際版1巻第1巻
  16. ^ 上村版2巻、1巻207章 山際版1巻、第1巻
  17. ^ 上村版2巻、2巻210~212章
  18. ^ 上村版2巻、1巻213章 山際版1巻第1巻
  19. ^ アルジュナにガーンディーヴァを授けるのはアグニ神であるが、ガーンディーヴァはヴァルナ神の武器である。ヴァルナ神からアグニ神へ、それからアルジュナへ与えられる。上村版2巻、1巻214~225章 山際版1巻、第1巻
  20. ^ 上村版3巻、3巻38章 山際版2巻、第3巻
  21. ^ シヴァ神愛用の武器だが、具体的にどのような武器か詳細不明。名前は牛飼いの杖という意味。(山際版第4巻、第7巻)ここでアルジュナはシヴァ神からその武器の秘法と回収方法を授かる。なおアルジュナはクルクシェートラの戦いの最中にも、夢の中でシヴァ神からパーシュパタを授かっているが、使用した明確な場面は山際版、上村版では確認できない。
  22. ^ 上村版3巻、3巻40~48章
  23. ^ 上村版3巻、3巻165~172 山際版2巻、第3巻
  24. ^ 上村版4巻、4巻1章
  25. ^ 山際版第2巻、第3巻 ガングリ版3巻46章 上村版ではウルヴァシーの話は存在しない
  26. ^ 上村版4巻、4巻21章
  27. ^ 上村版4巻、4巻29
  28. ^ C・ラージャーゴーパーラーチャリ、奈良毅・田中嫺玉訳『マハーバーラタ(中)』(第三文明社、2017年)
  29. ^ 上村版4巻、4巻30章
  30. ^ 上村版4巻、4巻33~66章
  31. ^ 上村版5巻、5巻5~94、122~148章
  32. ^ 上村版5巻、5巻5~197章 第5巻の努力の巻は、戦争前の準備や戦争回避に努めているという内容である。
  33. ^ 上村版5巻、5巻7章
  34. ^ 上村版6巻、6巻23~40章
  35. ^ 上村版6巻、6巻55章
  36. ^ 実際に二人は別の戦車に乗っており、またビーシュマの攻撃がアルジュナに向けられている描写があるため、シカンディンを盾に、アルジュナが攻撃した訳では無い。
  37. ^ 上村版6巻、6巻114章
  38. ^ 上村版7巻、7巻51章
  39. ^ 山際版第4巻、第7巻 ガングリ版7巻145章 上村版(プーナ版)にクリシュナが日没を偽装する描写はない。
  40. ^ 上村版7巻、7巻121章
  41. ^ 上村版7巻、7巻165章
  42. ^ ガングリ版8巻71章、山際版第5巻第8巻
  43. ^ ガングリ版8巻66章 山際版第5巻、第8巻
  44. ^ プーナ版9巻1章、山際版第6巻第10巻
  45. ^ 山際版第9巻、第14巻
  46. ^ 山際版第9巻第16巻
  47. ^ 山際版第9巻、第17巻
  48. ^ プーナ版18巻3章
  49. ^ 上村版6巻33章
  50. ^ プーナ版7巻28章 ガングリ版7巻27章
  51. ^ プーナ版8巻66章 ガングリ版8巻90章
  52. ^ 山際版第9巻第14巻、プーナ版14巻15章、ガングリ版14巻15章
  53. ^ 山際版第9巻、第16巻 ガングリ版16巻8章
  54. ^ 沖田瑞穂『マハーバーラタ入門 インド神話の世界』(勉誠出版、2019年)p158、






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