領土・権益問題
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/02 03:10 UTC 版)
南シナ海の領海 南シナ海の領海問題青破線; 各国の排他的経済水域赤破線; 中国が主張する領海黄緑色; 領有権問題となっている諸島、中国とベトナムの排他的経済水域の境界にあるのが西沙諸島、ボルネオ島の北西に位置するのがスプラトリー諸島 スプラトリー諸島の占有状況。中国、台湾、ベトナム、フィリピン、マレーシアの5か国が入り乱れて実効支配している 1935年に、中華民国の中国国民党がブルネイ近海のジェームズ礁を「曾母」(現行の中国名では曾母暗沙)と命名したが、国内の混乱や海軍力の不足により実効支配は出来なかった。1939年4月に、日本海軍はスプラトリー諸島の最も大きな島である太平島を占拠して「長島」と命名した。1945年12月に、日本の敗戦に伴い中華民国政府は「南沙管理処」を広東省に設置した。1947年に、中華民国の国府政権は「11段線」を発表した。その後、中華人民共和国は、東南アジア諸国の本土領海線ギリギリまでを自国の管轄とする「九段線」(または「U字線」「牛舌線」ともいう)を宣言した。しかし、「九段線」の法的解釈が島嶼帰属の線か、歴史的な権利の範囲か、歴史的な水域線か、それとも伝統疆界線かということはまだ中国政府に公式的に発表されていない。 中国・海南島の南方にある西沙諸島(パラセル諸島)については、中華人民共和国、中華民国(台湾)、ベトナムの3か国が領有権を主張している。中国政府は1974年の西沙諸島の戦いで南ベトナム軍を攻撃して、島々を占領。中国人を移住させたり、中国人民解放軍を駐屯させたりして、支配を強化している。 南沙諸島(スプラトリー諸島)などをめぐっては6か国が領有権を主張し合っている。中華人民共和国、中華民国(台湾)は全体の領有を主張し、ベトナム、マレーシア、フィリピン、ブルネイの4か国は一部分の領有を主張している。各国は資源開発を独自に行ったり、協力したりする一方で、軍の配置や島の基地化、国際司法裁判所への提訴などによる権益確保も進めている。先述のとおり、利害が衝突する国の間で南シナ海の呼称が異なっているのには、こうした背景が存在する。 このほか中国とベトナムはトンキン湾、マレーシアとベトナムはタイ湾、マレーシアとフィリピンは東ボルネオ沖を巡って、排他的経済水域の主張が重複・対立している。 2010年7月23日、ハノイで開かれた東南アジア諸国連合 (ASEAN) 地域フォーラム (ARF) は、南シナ海問題を重要な議題の一つとして議論した。2002年の「南シナ海行動宣言」を効果的に実施し、法的拘束力のある「南シナ海行動規範」へと発展させることへの支持を確認した。 2011年11月4日・5日、ハノイで南シナ海の安全保障と協力をテーマに国際会議が開かれた。閉会式でセベリーノ(ASEAN元事務局長)は南シナ海の紛争を平和的に解決することを期待するとともに、領有権問題の解決は当事国間の交渉でしか解決できないと述べた。 2014年6月1日、シンガポールで開催中のアジア安全保障会議 (シャングリラ対話) において、中国側代表の王冠中・人民解放軍副総参謀長 (当時) は、南シナ海の島々は2,000年以上前の漢代に中国が発見して管理してきたという旨の発言をした。また王は、名指しを避けながら中国に自制を求めた日本の安倍晋三首相 (当時) に対して、「安倍総理大臣は、遠回しに中国を攻撃し、ヘーゲル長官は率直に非難した。ヘーゲル長官のほうがましだ」と述べ、これに対して小野寺防衛相 (当時) は、「中国の反応は理解できない」と反論した。 アメリカのCSIS(戦略国際問題研究所)は2016年1月にまとめた報告書において、中国が複数の空母打撃群を保有する可能性を指摘すると同時に、「2030年までに南シナ海が事実上中国の湖となる」と警鐘を鳴らし、オバマ政権の対中国・北朝鮮政策が不十分であると指摘した。 NHKによれば、2016年7月まで国際司法裁判所で行われている仲裁裁判に対して、中国政府は外交交渉を通じた解決も検討していた。 2016年7月12日、常設仲裁裁判所は提訴したフィリピン側の主張を全面的に認め、南沙諸島とスカボロー礁にあるすべてのリーフは法的には排他的経済水域および大陸棚を生成しない「岩」とする南シナ海判決が結論された。 中国は南シナ海判決を受けて従来消極的だった「南シナ海行動規範」の草案作成に動いて大枠合意され、2017年8月のフィリピンでのASEAN外相会議で当事者同士の合意形成による幕引きを図る中国に有利な形で承認され、同年11月に中国ASEAN首脳会議は大枠合意の内容で詳細を詰める交渉を開始することで合意し、ASEAN議長声明ではそれまで掲載されてきた南シナ海問題への「懸念」の文言が消えて「中国とASEANの関係改善」への評価が盛り込まれた。ASEAN首脳会議で対中関係改善のために習近平国家主席(党総書記)や李克強国務院総理(首相)といった中国の首脳と異例の2回連続の会談を行った日本の安倍首相もASEANと中国のこういった動きを歓迎すると述べた。 2020年10月19日、菅義偉内閣総理大臣は就任後初の外遊先としてベトナムを訪問し、ベトナムの大学生に対して「日本は南シナ海の緊張を高めるいかなる行動にも強く反対している。日本は、南シナ海の法による支配の保全を一貫して支持してきた」と演説したが、これは南シナ海で人工島を積極的に建設している中国に対する批判であり、また中国がここ数ヶ月、南シナ海でベトナムに多大な圧力をかけていることへの牽制であった。
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