離着陸時の事故
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/14 03:34 UTC 版)
「コメット連続墜落事故」の記事における「離着陸時の事故」の解説
世界初のジェット旅客機として就航したコメットは好調な営業成績を上げ、受注も本格化し始めた。しかし、従来のプロペラ機から移行したばかりのパイロットは、後退翼ジェット機特有の挙動に対する知見不足が露呈し、離着陸時の事故も多発した。 1952年10月26日の雨の夕方、ロンドン発ヨハネスブルグ行の BOAC(英国海外航空) コメット9番機(G-ALYZ、Mk.I 最終号機)が、経由地のローマからカイロに向かう際、夜間雨のチャンピーノ空港を離陸滑走中に対気速度75-80ノット (kt) (139 - 148 km/h) の時点で機首が上がり始めた。その後112 kt (207 km/h) で機体の浮揚を感じ降着装置を格納しかけたが、実際には失速速度を超えておらず再接地したため、驚いた機長が離陸断念したものの止まり切れず、滑走路を逸脱し土盛り部分で停止した。主翼から燃料が漏出したが、自動カットオフ装置と自動消火装置が正常に作動して発火には至らず、また胴体の損傷が殆どなく迅速に脱出できたため、乗員乗客43名中、軽傷者2名だけで済んだ。性急な機首上げのために空気抵抗が増大し、最大荷重に近い状態では十分に加速できなかったことが事故原因として指摘された。同機は就航後僅か26日で抹消処分になった。 1953年3月3日、カナダ太平洋航空 (CP Air) へ引き渡しで移動中の Mk.IA 2号機「エンプレス・オブ・ハワイ」(CF-CUN) が、途中カンタス航空へのデモフライトでシドニーに向かうため、パキスタン・カラチのジンナー空港に給油で立ち寄った。現地時間午前3時35分に、次の経由地のビルマのラングーン(現ミャンマーのヤンゴン)に向けて離陸滑走を開始したが、燃料を満載した過荷重状態にも関わらず機首上げを急いだために、エンジンへの空気流量が減少して出力低下したことも重なって、失速速度を超えられなかった。尾部バンパーの接地で過誤に気付いた機長は機首下げ操作を行い、速度は回復したが時既に遅く 2,400m の滑走路端で、その後僅かに浮上したものの、空港外にあった橋梁に主輪が引っ掛かり、川の土手に激突し爆発炎上した。乗員5名と、同乗していたデ・ハビランド社の技術者6名全員が犠牲になった。ジェット機に不慣れな機長が長距離飛行で疲労していたことも一因に挙げられたが、もう 1.5m 上昇していれば遭難は回避できたと見られた。BOAC は代償として自社機 Mk.IA 1号機 G-ANAV を CP Air に譲渡した (CF-CUM)。 1953年6月25日、フランスのUAT航空の Mk.IA (F-BGSC、通算19番機)が、セネガルのダカール空港への着陸進入に失敗して滑走路を逸脱し、外溝に飛び込み車輪をもぎ取られた。各安全装置が正常に作動したため乗員7名乗客10名は全員無事だった。保険が下りたため事故機は現地で放棄された。就航から7週間であった。 何れの事故も操縦ミスが事故原因とされたが、原理的に失速特性に難がある後退翼と、応答性が緩慢なエンジン、アンダーパワーで加速力不足な機体特性、地面効果とが相俟って、離陸時の機首上げが早いと失速からオーバーランを招く傾向がコメットには強いことが改めて指摘された。この難点は開発中から認識されており、試作機では離陸用に補助ロケットエンジンをテストしたこともあったが、出力向上型の軍用「ゴースト」の民生転用が許可されたため、量産機では採用されていなかった。 デ・ハビランド社は主翼前縁を離陸時に失速しにくい形状に変更し、スラット(翼前縁に設ける引込式の揚力増大装置)を新設した。この教訓から、後に開発されたジェット旅客機の殆どはスラットを標準装備するようになったが、高速化目的で敢えてスラットを除外したコンベア CV880は、初期型コメット同様の事故を反復し失敗作に終わっている。 それまで単純なものでしかなかった失速速度も、積載重量と気象条件毎に細かく決められたことに伴い、離陸方法も改訂された。「定められた速度」(満載時 120 kt = 222 km/h)に達するまで前輪を接地させ続けなければならず、その間の機首上げ操作は禁止された。このローテーション速度 (VR) は、その後の総てのジェット旅客機で条件毎にフライトマニュアルで細かく規定され、厳守が求められている。 またコメットに装着されていた、自機の姿勢を示す人工水平儀(ホライズン)は、内蔵ジャイロの精度が従来の劣速なレシプロ機のそれから大きく進歩したものではなく、離陸に失敗した2機のコメットは、何れも夜間だったため地表の対象物が視認できず、機首上げ異常の認識が遅れたと指摘された。そのため、その後の人工水平儀は問題を補えるよう精度向上が図られている。
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