【後退翼】(こうたいよく)
航空機の主翼形状の一種。胴体から先端に向うにつれ後方向うよう斜めに取り付けられた、後退角を持つ主翼の事。
衝撃波の発生を遅らせる効果が有り、亜音速~超音速で飛行する飛行機に主に用いられる。
但し、低速時に著しい揚力の低下をもたらし、失速速度を高めてしまう副作用を持つ。
後退翼(こうたいよく)
後退翼
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/02 00:31 UTC 版)
翼を左右にまっすぐ伸ばすのではなく、後退角を持たせることで、翼上面に超音速領域が生ずるマッハ数(臨界マッハ数)を高めることができる。後退角は翼弦長の25%をつなぐ線と機体の左右軸との後方のなす角度で定義される。 後退角をつけると、翼型に平行な方向を流れる空気の速さは、理論上、機体の速さに後退角の余弦を乗じた程度に減少させることができる。その分衝撃波の発生を遅らせることができ高亜音速-遷音速領域での抵抗減少や臨界マッハ数を上げることができる。ただし、実際の現象から経験則を導き出すと、翼型に平行な方向を流れる空気の速さは、機体の速さに後退角の余弦の平方根を乗じた程度となることが判っている。また、直線翼に比して高速時の補助翼の逆効き(エルロンリバーサル)を緩和できること、臨界マッハ数付近での縦釣り合いの変化を緩和できる(操縦性の改善効果)。また安定性の面から見ると、後退角には上反角と同様の効果があり上反角を大きくする必要はなく、高速での方向安定性や横安定性が良い。ただし直線翼と同等の上反角を大きくすると復元性が強くなりすぎるため、それを防ぐために後退翼を使用する場合は上反角を小さくするか、場合によっては下反角をつける必要がある。また、直線翼と比べてマッハ0.8までの主翼の風圧中心の変化が少なく、遷音速領域での縦安定の変化も少ない。 また、機体全体の、進行方向に垂直な断面積の、前後の変化が小さく最大断面積が小さい事も抗力を小さくする効果がある。ボーイング747は、主翼より前の胴体が2階建てで太く、翼がある部分との断面積の差が小さい事が、前期型では結果的に、後期型では意図的に抗力を減らす事に寄与した。 後退翼には以下のような欠点もある。 構造や強度の面で直線翼よりも難しくなる 同質量の翼で比較すると、後退角がつく分翼幅が短くなってアスペクト比が低下し、揚抗比も悪化する 直線翼と比べて揚力が小さくなるので、同じ揚力を得るには迎角を大きくしなければならない 主翼のフラップ効果が少ない 翼付根(主翼と胴体との結合部分)に大きなねじりモーメントが働く 速度の低い領域で翼端失速などを起こしやすくなる 翼端失速が生じた時、機体全体の揚力の着力点が前方に移動することにより縦安定性が変化し、最悪縦不安定状態になることもある また、後退翼に流れる気流は、アウト・フローと呼ばれる翼付根から翼端へ向かう流れとなるため、翼端付近では翼から気流が剝離する境界層剥離が発生して翼端失速を起こしやすくなる、そのため、前縁に境界層板を取付けるかドッグトゥースやソ・ーカットなどの溝状の形状をとらせる、テーパー比(翼付根と翼端との翼弦長の比)を小さくする、翼端にかけてねじり下げをつけるなどの対策を図っている。前述のデルタ翼やその派生平面形は、テーパー翼を後退させただけの後退翼に比べ、1. の構造や強度の点で優れている。2. の例としては、 ボーイングのジェット旅客機は727等の古い機種よりも767等の新しい機種の方が後退角が小さいことが挙げられる。これは、翼型の改良等により高速飛行中の抗力を増大させることなく後退角を減少させ、アスペクト比を増して揚抗比を上げることで効率(燃費)を向上させている。 後退翼は基本的には高亜音速・遷音速もしくは超音速飛行する機体のための翼形ではあるが、DC-3旅客機など、レシプロ機時代にも既に採用例が存在する。これは下方視界の確保のためや、翼の揚力の中心と機体重心と機体の構造の兼ね合いなど、空気力学的な観点とは別の理由によって後退翼になった。第二次世界大戦当時のドイツのMe 262ジェット戦闘機も、搭載エンジンの変更に対する機体重心の調整から後退翼が採用され、偶然にもそれが亜音速域での性能向上に役立つ事が判明した。以降ドイツで研究され、戦後は諸外国で継承され、1940年代末から本格的な採用が始まる。 また無尾翼機でも後退翼の採用例が見られる。主翼の一部でマイナスの揚力を発生し水平尾翼の代替とする場合、主翼のプラスの揚力を発生する部分とマイナスの揚力を発生する部分が前後しないと、機体のバランスは保てない。そのため後退翼形式を採用する事になる。ただしこの形式の無尾翼機は黎明期には見られたものの、前述の通りその後はデルタ翼形式が多い。
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