連続上告
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「福山市独居老婦人殺害事件」の記事における「連続上告」の解説
また、検察当局はこの上告以降、1998年1月までに、死刑求刑に対し控訴審で言い渡された無期懲役判決4件に対し、相次いで上告した。この一連の検察による死刑を求めた5事件への上告については「連続上告」と呼称される場合がある。 同年3月18日には札幌両親強盗殺人事件(1991年11月に発生:被害者2人)の被告人に対し、札幌高等裁判所が無期懲役を言い渡した第一審を支持し、検察官・被告人双方からの控訴を棄却する判決(検察官の求刑:死刑)を言い渡したが、札幌高等検察庁は同月28日に死刑適用を求めて上告していた。また、同年5月12日には国立市主婦殺害事件(1992年10月発生)の被告人に対し、東京高等裁判所第11刑事部(中山善房裁判長)が第一審の死刑判決を破棄(自判)し、被告人を無期懲役とする判決を言い渡していたが、東京高等検察庁は同判決について同年5月26日、「連続射殺事件の判決(永山基準)で示した死刑適用の要件に照らしても、死刑をもって処断すべき事案だ」として、判例違反および量刑不当を理由に最高裁へ上告した。 検察当局はその後も1998年(平成10年)1月までに、高裁が無期懲役判決を言い渡した2件の強盗殺人事件について、相次いで最高裁へ上告した。 「連続上告」の対象となった5事件(罪状はいずれも強盗殺人など)事件名被害者数事件発生年月発生地第一審判決高裁控訴審判決宣告年月控訴審判決主文小法廷裁判形式上告審備考本事件 1人 1992年3月 広島県福山市 無期懲役 広島 (差戻前)1997年2月 (差戻前)控訴棄却 第二 判決 破棄差戻 強盗殺人の前科あり(仮釈放中の再犯)。共犯の男は無期懲役判決(求刑:同)を受け、確定。 (差戻後)2004年4月 (差戻後)破棄自判死刑 第三 上告棄却死刑確定 札幌両親強盗殺人事件(北海道職員夫婦殺害事件) 2人 1991年11月 北海道札幌市 札幌 1997年3月 控訴棄却 第一 決定 上告棄却無期懲役確定 共犯の少女(被害者夫婦の娘・当時19歳)も無期懲役が確定。 国立市主婦殺害事件 1人 1992年10月 東京都国立市 死刑 東京 1997年5月 破棄自判無期懲役 第二 判決 5事件では唯一、第一審で死刑が言い渡されていた。 岸和田市銀行員殺害事件 1人 1994年10月 大阪府岸和田市 無期懲役 大阪 1997年11月 控訴棄却 第一 決定 倉敷市両親殺害事件 2人 1993年12月 岡山県倉敷市 岡山 1998年1月 第三 5事件の被害者はいずれも1人 - 2人で、死刑と無期懲役を分けるボーダーラインとされていたが、検察当局は当時、下級審が死刑適用を回避する傾向を疑問視し、「近年の裁判所の量刑は軽すぎ、国民感情からかけ離れている」と訴えた。このような検察当局の動向は当時、「検察当局は死刑選択基準の揺らぎに釘を刺す狙いがある」と受け取られたが、法務・検察幹部の中からは「最高裁に下駄を預けることで『永山基準』が再確認される可能性もあるが、死刑回避の方向に見直されるなど、上告が逆効果になる恐れもある」という声も上がっていた。 一方、日本弁護士連合会(日弁連)人権擁護委員会で、死刑問題調査研究委員会の委員を務めていた小川原優之弁護士は、各事件の弁護人との意見交換を行い、5事件全体を統一する形で最高裁に提出する書面の作成を検討したほか、1998年11月には私見として「死刑と無期懲役の境界」をまとめて公開し、「検察側の求刑・量刑の基準は混乱している。死刑と無期懲役の境界は客観的に存在せず、裁判官の価値観によるところが大きい」と指摘していた。また、市民団体「死刑廃止フォーラム90」は1998年2月に「暴走する検察庁 5件連続検察上告を考える」というシンポジウムを開いたが、このシンポジウムでは「被害者1人の強盗殺人事件で死刑判決は珍しい」「最高裁の新判断を得るのが目的ではなく、判決を上級裁判所に晒し、下級審の寛刑傾向を止める狙いがある。裁判官に大きな圧力を与えるだろう」などと、検察側の姿勢に反発する声が上がった。 結局、国立事件については本事件とともに最高裁第二小法廷が口頭弁論を開いたが、同小法廷(福田博裁判長)は1999年11月29日に「死刑を選択した第一審判決も首肯し得ないものではないが、犯行は計画性が高いとは言い難く、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するとまでは認められない」として控訴審判決を支持し、検察官の上告を棄却する判決を言い渡した。しかし、その一方で「永山基準」を示した1983年7月の最高裁判決を引用して「殺害された被害者が1名の事案でも、極刑がやむを得ないと認められる場合がある」と判示した。他3件についても、後に相次いで上告棄却の決定が出されたが、一連の「連続上告」を決断した堀口は「(連続上告により)それまでの裁判官の判断を抑圧してきた、極刑に慎重な流れのようなものを取り払った意味は大きかった」と回顧している。
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