賛成・肯定論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/31 00:13 UTC 版)
義務投票とは、統治している諸代表の民主的な選挙は、諸市民に憲法上、与えられた、諸代表を指名する権利ではなく、諸市民の責任である、というひとつの一般的な見解である。これら民主国家において投票するということは、被課税、陪審員としての義務、義務教育、あるいは兵役といった、同様の市民的諸責任と同類視されて、国連の『世界人権宣言』内で言及されている「社会に対する義務」("duties to community")(第二九条)の一つであると見なされている。この見解の主張によれば、民主国家によって統治されている全市民は、投票の義務を導入することによって、民主的な選挙で任命された政府の責任を分かち合うことになる。実際は、これは、より高い安定性、正当性、そして真正な統治の負託をおびた政府を生み出しているように見えるし、こんどはこれが、たとえ各投票者の選好した候補者・政党が政権を握っていなくても、全個人に利益をもたらす。 この概念が特に強化されるのはつぎのような場合である、すなわち、男女両性が投票を要求され、そして全有資格投票者の名簿登録を要求する法の勤勉な執行によってさらに支持される(成人と見なされ、そして住民のいかなる重要なコミュニティーをも排除することはない)場合である。 義務投票は結果としては高度の政治的正当性に終わる、という考えは、高い投票率に基づいている。オーストラリアでの経験を振り返れば、1924年以前の自発的投票は、有資格投票者の投票率の 47% ないし 78% にのぼった。1924年に義務連邦投票が導入されるや、この数字は 91% ないし 96% に跳ね上がり、有資格投票者のうちただ5%のみが名簿未登録として計上された。 ベネズエラとオランダは、義務投票から自発的参加に移行した国々である。オランダとベネズエラの最後の義務投票選挙は、それぞれ1967年と1993年であった。オランダでのその後の全国投票の投票率は、約20%減少した 英語版[要出典]。ベネズエラでは、ひとたび1993年に義務が取り除かれると、投票率(attendance)が30%減少した 英語版[要出典]。 義務投票の支持者らはまた、投票が投票のパラドックス(paradox of voting)を語っているとも主張しているが、これは、合理的で利己的な投票者にとっては、投票のコストは通常は、期待される利益を上回るというものである。このパラドックスは、社会的に恵まれない人々に不相応に影響を及ぼし、投票コストが高くなりがちな傾向がある。オーストラリアの学者で義務投票の支持者リサ・ヒル(Lisa Hill)は、囚人のジレンマ状況が、周辺に追いやられた市民の自発的なシステムの下で、生じていると主張している――投票を棄権することが、彼らの状況にある他者もまたそうしているという仮定の下では、限られた資源を節約するという目的のためには、彼らにとって、合理的であるようにおもわれる。しかしながら、これらは代表行為の明白な必要がある人々なのだから、この決定は非合理的である。ヒルは、義務投票の導入がこのジレンマを取り除くと主張している。 義務投票の支持者らはまた、秘密投票は、選挙の投票を投票者に強制することで投票所へのアクセスの干渉を取り除き、天候、輸送機関、制限的な雇用主といった外部要因が及ぼすようなインパクトを軽減し、実際に投じられる投票への干渉を防ぐように設計されているとも主張している。もし全員が投票する必要があるならば、投票の制限が特定され、それらを削除する手順が実行される。 テクノロジーのインパクトと最近の社会的トレンドは、前投票に対する、投票者の高まっている選好を示している。その場合は、投票者は、指定された投票日に責任からの解放を手配するのではなく、投票日前に自分の都合でより多くの義務を果たす。 義務投票に対するその他の認識されている利点は、一種の市民教育と政治的刺激として、より広い利益政治の刺激であり、これは、より博識な住民を作り出すが、ただし義務投票が長い間、存在したベルギーやオーストラリアの住民のほうが、投票が義務化されたことのまったくないニュージーランド、フランス、カナダ、スカンジナビア諸国の住民よりも博識で、政治的意識が高いということを立証する研究は行われていない。 英語版[要出典]また、投票者を集める運動資金は必要ないため、政治における金銭の役割は減少するとも主張されている。そのうえ、運動資金が、投票者に政策を説明することに向けられることもありえる。英語版[要出典]非義務投票では、政治機械の、支持者から票を引き出す能力が結果に影響するかもしれない。英語版[要出典]高度な参加は、危機あるいはカリスマ的なしかし部分的に焦点を合わせたデマゴーグによって作られた、政治的不安定のリスクを減少させる。 2005年の米州開発銀行のワーキングペーパーは、厳密に執行されたときの義務投票と、ジニ係数で測定される改善された所得分配と、住民の底部所得五分位数.との間に相関関係があることを示していると称されている。しかしながら、世界の所得の不平等に関するより最近のカナダの会議委員会(Conference Board of Canada)の研究ージニ指数にも依存しているーが示すところでは、所得の不平等は、義務投票が存在したことがないスカンジナビア諸国で最低で、いっぽう義務投票法を厳格に施行しているオーストラリア、およびそれほどではないがベルギーは、義務投票が存在しないカナダ、フランス、ドイツ、スイス、オランダのような他の多くの西洋諸国よりも高い所得不平等レベルを持っている。 モナシュ大学の政治学者ウォリード・アリ(Waleed Aly)の主張によれば、義務投票が右を支持するか左を支持するかは的外れで、なぜならば義務投票の最も有利な相は、選挙に立候補する個人の度量と、彼らが下す決定の質を向上させることである:「義務選挙では、他のすべての投票者を排除してベースを活性化することは引き合いません。選挙は投票率で決定しえないので、それらは浮動投票者によって決定され、中央で勝ちます...これが、極右のオーストラリア版が、なにかヨーロッパあるいはアメリカの対応物のようなものを欠いている一つの理由です。オーストラリアにはいくつかの悪い政府がありましたが、本当に極端なものはありませんでしたし、デマゴーグに対してもそれほどまったく脆弱ではありません」("In a compulsory election, it does not pay to energize your base to the exclusion of all other voters.Since elections cannot be determined by turnout, they are decided by swing voters and won in the center...That is one reason Australia’s version of the far right lacks anything like the power of its European or American counterparts.Australia has had some bad governments, but it hasn’t had any truly extreme ones and it isn’t nearly as vulnerable to demagogues.")
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