貧困と虐待
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/15 23:58 UTC 版)
経済状況と虐待とも関連が深く、虐待のために児童養護施設に入所した100例を調査したうち、親の精神障害、ひとり親家庭、生活保護家庭が3割以上を占めており、無所得も2割あった。 厚生労働省科学研究H20~21年度「子ども虐待問題と被虐待児の自立過程における複合的困難の構造と社会的支援のあり方に関する実証的研究」(研究代表松本伊智朗)では、A県の児童相談所において、5歳、10歳、14~15歳の平成15年度虐待受理ケース129の記録を研究メンバーが児童票より転記し、個人情報の保護が可能な119例を整理した上で分析した。その結果、虐待事例において、障害をもつ子どもの比率と、養育者自身が障害を有している割合が高いことが判明した。具体的には、本調査の119事例の中で、56例が当該児童に障害があり、48例はきょうだいに障害があり、当該児童ときょうだいの両方に障害がある事例は33例、きょうだいにのみ障害があるのは15例にのぼった。さらに、養育者が知的障害、発達障害、その他の疾病・障害がある(精神障害を除く)事例は40例に上り、子どもの障害とも重複していた。すなわち、家族に障害児者がいない事例は119例中26例に留まり、児童の障害の偏在化が明らかとなった。 平成15年に行われた3都道府県での児童相談所の調査では、重度の虐待の保護ケースにおいて、生活保護世帯が19.4%に上り、非課税世帯と合わせると26%に上る。特に母子家庭の生活保護率は45.9%、父子家庭の生活保護率は20.8%と、ひとり親家庭において生活保護率が高くなっている。また虐待問題を抱える家庭において、ひとり親家庭の割合はきわめて高い。虐待種別ではひとり親家庭でのネグレクトが多い傾向が出ている。 東京都虐待分析によると、ひとり親家庭において経済的困難、孤立、不安定就労下で虐待を行っていた事例が最多だった。都内の全家庭に占める母子家庭・生活保護世帯の比率は各2%、1%であるにも関わらず、虐待相談は全家庭に占める比率が各約2割となっており、更に保護施設入所措置となった比率では6割前後と多数を占めている。北海道内の児童相談所の虐待相談では、離婚、子の知的障害、親の精神疾患・知的障害が多く、また1つの家庭に複合的に見られた。 そもそも、子ども虐待の後遺症として生じる反応性愛着障害の諸症状には発達障害の示す臨床像に極似のものが含まれる[要出典]。またさらに子ども虐待は脳の器質的機能的異常が生じるので、発達障害と言わざるを得ない臨床像を呈する[要出典]。発達障害と子ども虐待とが複雑に絡み合っている。 虐待家庭において父が精神疾患や性格の問題から経済問題を生じ、そのような父が知的障害のある母を伴侶としているという指摘もある。3県の児童相談所虐待分析では、母の学歴が半数以上中学校卒業でしかないことがわかり、一時保護まで必要な深刻ケースでは学歴の低さが特に目立つという。 埼玉県朝霞市では2012年7月に生活保護の母子世帯で妊娠5ヶ月の母(23)が、交際相手(23)と共に5歳の長男を虐待死させている。2007年には苫小牧市で生活保護受給の母子世帯の母(21)が2児を自室に1ヶ月置き去りにして1歳の弟が死亡し、3歳の兄はかろうじて生き延びたという事件も起こっている。なお当事件でも被告は妊娠中で、公判中に第4児を出産している。 2008年には秋田県藤里町で生活保護母子家庭の母(34)が娘(9)を橋から落として殺害し、近所の男子(7)も絞殺した事件があった。本件では事件前に育児放棄が認識されていて、学校・町・児童主任が関わっていたが、リスクはそれほど高くないと考えられていた。 2008年には蕨市で生活保護世帯において4歳児が虐待死している。 2012年6月には大津市において生活保護の母子世帯の母(29)がチャットに夢中で1歳7ヶ月の子が肺炎なのを放置し、死亡させた。2008年ごろ離婚し、大阪市から大津市に転居。2009年ごろから無職で、生活保護で暮らしていた。2008年4月に生後間もない男児を心臓疾患で亡くし、2009年9月には長男(当時4歳)が自宅5階のベランダから転落死していた。捜査関係者によると、「長男を亡くして、育児も家事もやる気が起きないことがあった。チャットに癒やしを求めた」と供述したという。この家庭には通園する園の保育士は毎日迎えに来ていたというが、生活保護世帯で福祉事務所ケースワーカーや保育園の見守りがあってもネグレクトを含む虐待死を全て防げるわけではない。 2013年9月に東京都江東区では、生活保護を受ける父子家庭の父が5歳の長男を都営住宅の自宅で全身を殴る蹴るなどの暴行を加え、死亡させた。 2008年11月、神奈川県川崎市在住の3歳女児が、交際相手の男性(24歳)と実母(21歳)からの虐待により死亡した。実母は生活保護を受けて児童扶養手当も受給していたが、交際相手の男性と同居しており、殴る蹴るの暴行を行い、水風呂に長時間つけたり、ひもで縛ってカーテンレールに吊るしたりするなどの虐待行為を行っていた。実母は交際男性の子供を妊娠していて不就労だった。 2014年1月、東京都葛飾区では2歳児が暴行が原因で死亡し、父が逮捕された。両親は生活保護を受けており、別の男性との子供は児童養護施設や親類宅に預けられている。当該児童も児童相談所の見守り対象となっていた。 2012年7月には福岡県福岡市において、2世代以上に渡る母子同居生活保護世帯で20歳の母が1歳8ヶ月の子を虐待死させた。検証報告では、祖母と母がともに10代で出産、母の自殺未遂歴、離婚、生活保護受給で不安定で混沌とした家族関係で虐待リスクが高かったのに対応できなかった分析がなされている。このように家族との同居がかえって状況を悪化させる場合もある。 足立区では、2015年4月、2年前から行方不明になっている男児を虐待し死亡させたなどとして警視庁捜査1課はいずれも無職で父親(31歳)と妻(28歳)を監禁致死と死体遺棄容疑で逮捕した。約3カ月間、次男(当時3歳)をうさぎ用のかごで監禁。13年3月に口にタオルをまくなどの暴行を加えて窒息死させ、遺体を段ボール箱に入れて同区千住の荒川に捨てたとしている。夫婦には他に未就学児4人も含めて現在6人の子がいた。次男死亡を隠し児童手当や生活保護費計約43万円をだまし取ったとして詐欺容疑で逮捕されている。 また、兄弟間で虐待が発生する場合もあり、2010年9月大阪府門真市では22歳の姉が交際相手と共に17歳の妹を金銭的肉体的に虐待し、死に至らせた。姉は妹の収入申告をせず保護費を不正受給をしたことで市から告訴されている。 生活保護受給世帯の中学卒業未就職者である兄姉が就労就学せず世帯分離され、暴力団の予備軍となったり、家族の保護費を当てにすることもある。
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