解読された原因
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/09/09 08:51 UTC 版)
加藤正隆(本名 釜賀一夫、陸軍参謀本部第十一課暗号班)のコメント 当初規約更新期間が長かった(後では手遅れ)。 変更輪開始位置の選定が不良であった。 一通の長さが長すぎた(分割して送るべきだ)。 不用意に対照平文を与えた。 Frank B. Rowlett(米陸軍情報部)のコメント 一通の暗号文の長さに制限がなかった。 長文の場合は「分割転置」を実施してはいたがワンパターンだった。例えば半分に分割して後半+前半の順で送信していた。分割転置 文頭や文末の特徴を解読に利用されないように1通を複数のブロックに分け、順番をランダムに入れ替えて送信すること 格式を重んじる役所のためか冒頭部が紋切り型である。SISは冒頭から50 - 60字、場合によっては150字近いクリブが利用できた。 特定の鍵を偏って使用していた。 仲野好雄(陸軍参謀本部通信課長)のコメント 暗号強化に対する各官庁の協力が欠けていた。昭和18年(1943年)には陸海軍・外務省・大東亜省の暗号担当者が月1回の会合を開いていたが、単なる儀礼的懇親会であった。その後「当時の某(釜賀一夫)が外務省最強暗号を眼前で解読して見せた」こともあったが、依然として面子の問題から改革はできなかった。 学理的研究は、ほとんど省みられなかった。 暗号機は凡て配線固定式で配線差替え式の機械は一種も遂に作らなかった。 外務省歴代の電信課長には暗号に関してほとんど素人の一般外交官がなり、電信官や暗号官が就くことはなかった。 Genevieve Grotjan(米陸軍情報部)のコメント ブレイクスルーとなった発見当時の状況を「(なぜ私が発見したのか?)たぶん運が良かったのでしょう、肝心の資料を握ってましたから。それに(同僚の)Albert Smallよりも少々辛抱強かったかも。Bob Fernerでも発見できた筈ですが、彼は別の資料と取り組んでました。」と述べている。 Cipher A. Deavours, Louis Kruh(暗号学者)のコメント 米陸軍と海軍の協力関係が良好だった。 暗号機が(設計能力を最大限に活かされていない)小出し状態で運用開始され、徐々に「改良」されていった。 鍵の運用に大きな欠陥があり、それが安全性を低下させた。 日本では、暗号設計者と数少ない暗号解読者との技術ギャップが大きすぎた。 David Kahn(暗号学者)のコメント 一般論ではあるが「現行システムが判明していると、次世代システムの解読は一から始めるよりもずっと簡単である」とTVインタビューで述べている。 長田順行(暗号学者)のコメント 「特に終戦までのわが国の暗号戦争敗因は、常に最高価値を指す秤で自国の暗号を量ったところにあるように思える。・・・暗号の強度判定は経験的な科学だということである。暗号保全の破綻は、みずから考え出した方式と運用法を、結局はみずからつくった秤にかけてよしとするところから生じる」 その他の考察 レッド(暗号機A型)と同様に6字と20字に分離して換字した。つまり6字側からの解析を許してしまった。 さらに6字側のロータリーラインスイッチは1段しかないので、その周期はわずか25字である。なぜ3段にできなかったのかは不明であるが、輸送や机上の取り回しの都合上で暗号機本体の寸法や重量の増加を嫌ったとも考えられる。 レッドが既に解読されている事を知らずにパープルが開発、評価された。 米解読陣を結果的に悩ませたロータリーラインスイッチは、レッドの接点トラブルに悩んでいた海軍技術研究所が電話交換機用としての信頼性に注目して導入した。 ロータリーラインスイッチの配線はスパゲッティのように複雑膨大になり、各大使館ではスイッチ(多表)を更新することができなかった(エニグマの様に新規ロータの配付交換もできない)。 句読点や数詞などをコード化する暗号書を米国に盗写された。 ドイツ軍と同様に、プラグボードに対して過剰な安心感をもった。同世代の米国暗号機、SIGABA(英語)にはプラグボードが見当たらないのが興味深い。 外務省、大使館はパープルが解読されているか否かに関するデリケートな連絡をパープルで送信した。 軍隊や商社と比べて、外務省は暗号に関するメンタリティーが異なる可能性もある。「いずれは公知になる事、他国が当然予想付く内容」の漏洩では当事者の生死には影響しない。 安全性についての評価と責任所在が曖昧だった。外務省電信課は海軍の評価を信じるしかなく、海軍は数学者である高木貞治の評価が全てであった。その高木は規約種類数を概算しただけである。 海軍はロンドン軍縮会議の後、『ただ遺憾なりしは時日その他の関係により、製作し得たる暗号機械は僅かに九台にして、全権二台、海軍側随員二台、全権同予備一台、外務省海軍局各二台とし、関係国たる米仏伊大使館に供用せしめ得ざりし点なり。従ってこの方面に対する関係電報は普通の暗号に依る外なきを以って、之が写しを自然入手し得る英米等に対し不安を感ずる次第にして、殊に今回の如く外務大臣と全権間の電報の大部が在米大使に転電せられたる事実に鑑み一層この感を深くせざるを得ず』と反省したが、同じ過ち(レッドとパープルの併用)が繰り返された。 レッド暗号とオレンジ暗号の解読の経験も踏まえ、パープル暗号の解読はコーラルやジェイドについて米国側に次のヒントを与えた可能性がある。恐らく海軍暗号機もロータリーラインスイッチを使用しているだろう。 恐らく海軍は欧文のコーラルについては母音と子音の分離はしないだろう。
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