裁判員の不利益
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/02 15:24 UTC 版)
業務委託による情報漏洩リスク首都圏・大阪・名古屋など一部の裁判所では、裁判員候補者の氏名・住所・電話番号等の個人情報が、本人の同意なくコールセンター業務と通知書発送業務の委託名目で民間企業に渡されている。2011年に東京新聞が報道した時点では、候補者への通知発送と個人情報管理はトッパン・フォームズへ、コールセンター業務はトランスコスモスへ委託されている。 委託企業の内、トッパン・フォームズへは元最高裁判事が社外取締役に天下りしていることから、最高裁に近い立場の者への利益供与を目的とした入札が行われたのではないかとの疑義が指摘されている。最高裁は公正な入札であったと主張している。 裁判員候補者は、自らの個人情報が民間企業に渡されることを拒否できない。また、その旨の告知すらなされない。個人情報が財産権の一部として認識される中、裁判員候補者に無断で国民の個人情報を第三者に流す裁判所の姿勢が批判されている。 最高裁及び企業側は、双方が守秘義務契約を締結していることをもって安全性を主張している。しかし、コールセンター・通知発送業務の大半が、コスト削減の目的でアルバイト・派遣等の流動的雇用で運用されている現状において、漏洩問題が発生した際の流出経路特定が困難であり、民事上の守秘義務契約だけでは実効性を疑問視する見解がある。 情報漏洩行為に対し、裁判員には刑事罰が科されているにもかかわらず、委託企業には刑事罰の規定がない。個人情報保護法でも公的機関により業務委託された業者は罰則の対象外である。業務委託を念頭に置いていなかった最高裁の不手際による法整備の欠陥であるとの指摘がある。 プライバシー・個人情報保護の問題点裁判員候補者の氏名等は弁護人に通知することが規定されている(裁判員法31条)。弁護人が裁判員候補者の氏名を被告人本人に閲覧させることは禁じられておらず、むしろ裁判の必要上被告に閲覧させる必要も出てくる。したがって候補者になった時点で被告人に氏名を知られることになる(氏名が知られれば、裁判所の管轄される区域から住所を推定される恐れがある)。裁判員の氏名が被告人や他の裁判員に知られることにより、危害が加えられるおそれがある。なお、裁判員法第101条は、裁判員の氏名等、裁判員を特定する情報を公にすることを禁じている。 肉体・精神的被害裁判員は法廷で取り調べられる証拠を全て確認しなければならない。その中に遺体の写真や殺人の凶器などグロテスクな資料があった場合、重度の嫌悪感を催し、精神的な後遺症を患うおそれがある。福岡地裁では頭部の解剖写真を見せられた裁判員が体調を崩し、退職せざるを得なくなった事例が発生している。また、札幌地裁では、強盗殺人未遂事件の証拠である血溜まりの写真や、被告人の「このまま死ぬと思った」との供述調書の読み上げの後、裁判員の一人が体調を崩し倒れ、補充裁判員に交代するという事例があった。 強盗殺人事件の裁判員裁判に参加したため「急性ストレス障害(ASD)になった」として、元裁判員の福島県郡山市の女性(62)は2013年5月7日、国に慰謝料など200万円の損害賠償を求める訴訟を仙台地裁に起こした。女性側は 「裁判員制度は憲法違反」 とし、制度の見直しも訴えている。3月に行なわれた県内初の強盗殺人罪に関する裁判員裁判においては、遺体写真のみならず殺害時の録音まで提示され、この女性は吐き気や不眠症に悩み、判決後の同月下旬に病院でASDと診断された。 詳細は「裁判員#元裁判員が裁判員裁判について起した訴訟」を参照 松山地裁で行われた傷害致死事件での裁判員裁判では、同地裁が遺体の写真を提示する予定があると裁判員らに事前説明したところ、2人の裁判員が精神的・肉体的な不安を訴えて辞退を申し出、同地裁はこれを認めた。 判決を言い渡した後に誤判が判明した場合、裁判員は罪悪感に苛まれる可能性がある。 合理的理由により死刑判決に賛成した場合であっても、将来にわたり過度の罪悪感に見舞われ一般生活に支障をきたす可能性もある。 福岡地方裁判所小倉支部で行われた、暴力団関係者による殺人未遂事件の裁判員裁判で、被告人の知人の男性2人が、裁判員に対し「顔は覚えとる」などの声掛けを行なった。福岡県警察は、声掛けを行なった元工藤会系暴力団員2人を裁判員法違反容疑で逮捕した。この後の報道によると、裁判員に危害が及ぶ可能性があるような事件では「除外規定」が認められているが、逮捕された元暴力団員が裁判員に声をかけた事件の影響を受け、裁判官のみ審理が急増した可能性があり、意見が出されている。 人権・人道上の問題点裁判員候補者が選任手続きの中で宗教や前科などプライバシーに踏み込んだ質問を受けた場合、候補者本人に不利益な質問であっても、被告人に対しては認められている陳述拒否権が裁判員候補者には認められておらず、回答を拒否した場合は過料の制裁を課せられることが、制度導入以前から問題と指摘されている。逆に、制度導入後、一部の裁判所が、裁判員候補者に思想信条についての意見を陳述させるのは問題であること等を理由に、辞退事由以外の個別質問を認めていないことに対し、弁護士から批判的な報告がなされているが、全ての裁判所で同様の対応がなされているかは不明である。 制裁の執行状況裁判員制度開始から2021年6月現在に至るまで、裁判員もしくは裁判員候補者またはそれらであった者が、裁判員法に基づき罰則を適用されたことはない。
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