衆議院の再議決に関わる論点
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「衆議院の再議決」の記事における「衆議院の再議決に関わる論点」の解説
参議院の制度や権能に関わる法案の衆議院の再議決 憲法では、参議院の制度や権能に関わる法案について衆議院の再議決を制限する明白な規定はない。しかし、参議院の制度や権能に関わる法案について、参議院が示した意思に反して、衆議院の再議決を行うことは、参議院の自律権(議院独立の原則、議院規則と法律の関係など)を侵害するおそれがあるため、慎重に取り扱うべきとする意見もある。 参議院の制度や権能に関わる法律の改廃としては、以下のようなものが挙げられる。 公職選挙法改正による参議院選挙制度の変更 国会法改正による国会制度(事実上は参議院を対象として)の変更 両院同意人事規定の参議院議決の弱力化・無力化 自衛隊の防衛出動やNHK予算など両院同意案件規定の参議院議決の弱力化・無力化 議院証言法改正による国会(事実上は参議院を対象として)の証人喚問の制限・廃止 参議院議員通常選挙の直後における衆議院の再議決 参議院議員通常選挙が行われた後、衆議院議員総選挙が行われるまでの間に、衆議院の再議決が行われた例は、過去に11例(14法案)ある。このような時期に衆議院の再議決が行われる場合、「直近の民意は参議院通常選挙において示されており、参議院の議決に正当性がある」として、衆議院の再議決を批判することがある。 例えば、2007年(平成19年)7月に行われた第21回参議院議員通常選挙の結果、衆議院では与党の自民党・公明党が多数派を占め、参議院では与党が少数派となった。この後、衆議院総選挙が行われていない翌2008年(平成20年)1月、テロ特措法案の審議において、参議院は同法案を否決し、衆議院が再議決の上、同法案は成立した。このため野党は、参議院の議決(法案を否決)が国会の最終的な結論として妥当であるとして、この再議決を批判した。 両院協議会開催請求権と再議決権 法律案について衆議院と参議院の議決が異なった場合、国会法の定めるところにより、衆議院は両院協議会の開催を求めることができる。この両院協議会の開催は予算等の場合と異なり、必ずしも開催しなければならないものではない。なお、衆議院が両院協議会の開会を求めた時点で、衆議院は再議決権を放棄したとみなされるという学説もある。この見解は、規則や先例に根拠を持つものではなく、衆議院が両院協議会の開会を求めた場合の衆議院再議決権の見解について議員に問われた参議院法制局は肯定も否定もしていない。 なお、両院協議会を開催請求した後も衆議院の再議決ができるという説をとるとしても、衆議院が両院協議会を請求しておきながら、その結論を待たずに再議決する態度に出ることはよほどの理由がない限り制度の運用として望ましいことではないとする意見もある。 衆議院可決後の参議院審議中に閉会中審査となった場合 憲法第59条各項における「法律案の成否」に関する規定は、一連の行為が原則として国会の同一会期内で行われることが前提となっている(たとえば、同条第4項には「国会休会中の期間を除いて」とはあるが「国会閉会中」に関する文言はなく、これは、みなし否決の60日ルールがそもそも会期を跨いで算定するものではないことを示している)。国会法には継続審議(閉会中審査)の規定があり、複数の会期を跨いでも議案を議決することが可能とはなっているが、同法第83条の5に特則があり、先議院が可決した会期中に後議院が議決に至らず閉会中審査を経てのちの会期で議決した場合は、次のような取扱いがなされ、いずれも「3分の2以上の賛成による衆院再議決」をすることはできない(みなし否決は元より不可能)。 先議院可決案を別会期の後議院で可決又は修正議決した場合 - 後議院が事実上の新・先議院となり、新・後議院となった(本来の)先議院に議案を「送付」する。先議院で同一会期中に可決すれば成立となる。つまり、外形的には先議院は2回議決を行うことになる(再度の議決ではあるが法的根拠が異なるため「再議決」とは呼ばない)。 先議院可決案を別会期の後議院で否決した場合 - 先議院で可決したという事実経過が消滅するわけではないが、会期を跨いだことで後議院が事実上の新・先議院となったため、先議院に対して「否決」の通知をするのみとなる。この場合、元々の先議院が衆議院であったとしても第83条の2各項は適用されないため、否決した参議院から衆議院への議案の「返付」はなされずそこで廃案となり、「3分の2以上の賛成による衆院再議決」をすることはできない。 つまり、ある議案(法律案に限らない)が後議院で継続審査となった場合は、記録上先議院・後議院それぞれの審議経過・順序が消えるわけではないが、あたかも後議院が新・先議院となり、先議院が新・後議院となったかのような手順が求められることになる。この場合、後議院から先議院へ(再度)議案を移す行為には「回付」や「返付」ではなく本来は最初の移転のときのみに使う用語である「送付」を用いる。 衆議院で可決した議案(甲案)と形式的には別個の議案である対案(乙案)を参議院で可決した場合に衆議院で可決した議案(甲案)の否決とみなせるか 衆議院が甲案を可決したが、参議院では甲案の採否については議決せず、甲案の修正案としてではなく、別個の議案として甲案の対案である乙案を可決して衆議院に乙案を送付した場合に、衆議院は乙案の送付をもって、参議院において甲案の否決とみなして甲案について再議決を行うことができるかどうか問題となっている。 たとえば、第169回国会において、2008年2月29日、衆議院は2008年3月31日で期限切れとなるガソリン税の暫定税率延長やその他の特例措置の延長などを内容とする内閣提出の「所得税法等の一部を改正する法律案」(閣法第3号)を可決し、参議院に送付した。しかし、民主党は、特例措置の失効による混乱を防ぐため同日ガソリン税の暫定税率延長については規定せずその他の特例措置などの延長などを内容とした「租税特別措置法の一部を改正する法律案」(参法第3号)を参議院に提出している。そして、参議院側で閣法について同年3月31日まで議決しない場合、ガソリン税の暫定税率のみならずその他の特例措置も失効し、大きな混乱が生じることが予想されている。仮に、「租税特別措置法の一部を改正する法律案」を参議院で可決され衆議院に送付された場合において、衆議院において参法の可決をもって閣法の否決とみなして衆議院で再議決をすることができるかどうかが問題となっている。 この問題に関し、3月25日、政府は答弁を差し控える旨の答弁書を鳩山由紀夫民主党幹事長の質問主意書に対してしている。 肯定する論拠としては、甲法を修正して参議院で議決した場合は、衆議院で再議決とみなすことができるのに、乙法という形式的には別個な議案を送付した場合は否決とみなせないのは、実質的に同じような参議院の議決があるのに法案の形式でそのような取扱いの差異が生じるのはおかしいので、衆議院で乙案の可決をもって甲案の否決とみなすことが可能であるということがある。 否定する論拠としては、乙法が甲法の対案であるかは形式的には判断することはできない、参議院の審議権を奪うものである、仮に乙法が可決されたとしても参議院でさらに甲法の審議を継続して議決ができるはずである、国会法83条の2第1項は参議院で衆議院が送付した法案を否決した場合返付することを規定しているが、国会法上そのようなことを想定した規定はなく、さらに乙案の送付をもって甲案の返付とみなすことはできないなどの問題がある。
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