蒲島知事の意見表明と関係者の反応
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「川辺川ダム」の記事における「蒲島知事の意見表明と関係者の反応」の解説
このように川辺川ダムは相次ぐ共同事業者の事業撤退により、多目的ダムから治水ダムへの計画変更を余儀無くされた。だが八代市をはじめ人吉市と相良村を除く市町村はダム推進の姿勢を崩しておらず、「例え利水目的がなくなったとしても、川辺川ダムを治水ダムとして建設して欲しい」と要望している。この背景には2006年の平成18年7月豪雨による九州南部の未曾有の被害があり、球磨川流域でも市房ダムで総降水量が746ミリを記録し球磨村や八代市で浸水被害が続発、川辺川も道路損壊や農地浸水の被害が生じた。だがこの時市房ダムは洪水調節機能を発揮していることからダムの再評価も始まっている。山一つ越えた川内川流域での甚大な被害により流域住民が鶴田ダムの治水ダム化を要求しているのも背景にあった。こうしたことから国土交通省は2007年に定めた「球磨川河川整備基本方針」においても、川辺川ダムを重要な事業として引き続き推進する方針を採っている。2008年に入ると国土交通省は川辺川ダムの「穴あきダム」化にも言及した。 熊本県はこの基本方針に対し、川辺川ダムの必要性について県民への説明が不十分として説明を要求しており、2008年3月に熊本県知事に就任した蒲島郁夫は河川法に基づく基本方針への同意を判断するにあたって、川辺川ダムの費用対効果や生態系への影響を検証する有識者会議の設置を表明、半年後をめどに知事としての態度を明らかにするとした。有識者会議は8回の会議を経て「川辺川ダムに関する有識者会議報告書」 がとりまとめられたが、報告書では川辺川ダムによる治水対策について「地球温暖化を踏まえ、抜本的にはダムによる治水対策が有力な選択肢」としつつも、現行の計画の見直しの必要性に言及している。結果として賛成・反対双方の意見を取りまとめたものの、委員会として賛否を明確にしないものであった。有識者会議の意見書は国土交通省・反対派団体のどちらにも与するものではない評価であったが、反対派はこのような態度も厳しく批判し、従来通り川辺川ダム中止を求めていた。 このような状況において、2008年8月には川辺川利水事業は推進としながらも川辺川ダムへの対応を保留にしていた相良村の徳田正臣村長が「現状のダム建設には反対」とする姿勢を明らかにしており、人吉市の田中市長も「ダムは自然環境悪化につながりかねず、市民の多くが否定的だ」として反対の意思表明を行っている。 2008年9月11日の県議会において蒲島熊本県知事は、「住民のニーズに求めうる『ダムによらない治水』のための検討を極限まで追求すべき」として、現行計画を白紙撤回することを求め、球磨川河川整備基本方針への不同意の方針を表明した。この発表は、直後の世論調査で県民の85%が支持した[要出典]。 そもそも治水とは、流域住民の生命・財産を守ることを目的としています。日本三大急流のひとつ球磨川は、時として猛威をふるい、そこに住む人たちの生命・財産を脅かすことのある川です。だからこそ治水が必要となります。そして、河川管理者である国は、その責任を全うするため、計画的に河川整備に取り組んでいます。このことは、まぎれもなく政治と行政が責任をもって果たすべきものです。 しかし、守るべきものはそれだけでしょうか。私たちは、「生命・財産を守る」というとき、財産を「個人の家や持ち物、公共の建物や設備」と捉えがちです。しかし、いろいろな方々からお話を伺ううちに、人吉・球磨地域に生きる人々にとっては、球磨川そのものが、かけがえのない財産であり、守るべき「宝」なのではないかと思うに至ったのです。 — 蒲島熊本県知事、熊本県平成20年9月定例県議会 -3.私の判断 この判断について、蒲島知事は「『洪水を治める』発想から脱却し『洪水と共生する』という新たな考え方に立脚すべき」と述べており、ダム事業のみならず球磨川流域における治水事業への新たな指針を示すものであった。なお、蒲島知事は国土交通省から提示された穴あきダム案については「ダムによらない治水案を追求した結果提示されたものかどうか疑問」として、ダム事業の是非の判断材料とはしなかったとしている。 こうした人吉市・相良村の姿勢は従来「ダム推進」で一本化していた球磨川流域自治体の動向にも影響を与えた。山江村は「賛成」から「中立」へと態度を変え、あさぎり町や錦町は「人吉・相良の考えを尊重する」として同調する姿勢を見せた。推進を表明していた下流最大の受益地・八代市も2009年(平成21年)8月に行われた市長選挙で当選した福島和敏市長が「ダム建設反対」方針を明確にし、流域はダム建設に否定的になりつつある。一方で最大の水没予定地となる五木村は熊本県や人吉市・相良村の対応に猛反発し、従来どおりダム建設の推進を五木村民大会において全会一致で訴えている。この中で「仮にダム建設が中止となった場合、五木村の立村計画を県が肩代わりしてくれるのか、財政の厳しい県が行えるのか甚だ疑問だ」として蒲島知事の姿勢を厳しく批判している。その一方で国土交通省が「ダム中止となれば、村再建対策を行うことが難しくなる」と発言したことにも村民から反発の声が挙がった。また球磨村は「慢性的に水害の被害を受けており、対策としてはダムによる水位低下しかない」として人吉市などに反発。水上村も「ダム推進で長年一致してきたのに、この一ヶ月で全てが崩れるのは悲しいことだ」と懸念を示している。徳田相良村長は五木村に対し「ダム反対」の姿勢に同調するよう訴えているが五木村との溝は深く、ダム問題は地域間に新たな対立を生み出す可能性も秘めている。
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