多目的ダムから治水ダムへ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/04/05 09:47 UTC 版)
「治水ダム」の記事における「多目的ダムから治水ダムへ」の解説
治水ダムから多目的ダムへの事業変更例がある一方で、1990年代以降はバブル崩壊による不況や産業の空洞化、産業形態が重厚長大型から軽薄短小型へ移行することで工業用水需要や電力需要の増加が伸び悩み、もしくは低下した。また人口の増加もこのころ鈍化の傾向を示し、公共事業の見直しを迫る風潮も手伝って多目的ダム事業も大幅な修正を余儀なくされた。反面、地球温暖化による[要出典]極端な集中豪雨が連年全国各地を襲い、治水対策の再検討も叫ばれた。こうした中、堤防建設や川幅の拡張、あるいは家屋移転を伴う氾濫(はんらん)原の復元といったヨーロッパ型の治水手法が過密な宅地化によって行えない現状において、ダムによる洪水調節が重要視された。こうした動きの中で、多目的ダムの事業や規模を縮小して治水ダム化するという事業例が見られ始めた。 特に顕著なのが国土交通省直轄ダムである。従来は特定多目的ダム事業に特化していた国土交通省であるが、水需要の減少と集中豪雨の増加によっていくつかの多目的ダムについて治水ダムとして事業変更を行った。前者(利水目的の消滅)の理由により治水ダムとなった例として中予分水事業が中止になったことで治水ダムへ変更した愛媛県の山鳥坂ダム(河辺川)、1966年(昭和41年)の計画発表以来40年以上着工できていない熊本県の川辺川ダム(川辺川)などが挙げられる。一方後者(豪雨被害対策)による変更で代表的なものが福井県の足羽川ダムであり、当初多目的ダムであったが住民の反対で事業凍結していたものの、2004年(平成16年)の平成16年7月福井豪雨による足羽川流域の深刻な被害を機に、多目的ダムから治水ダムへの変更を行って事業再開を2006年(平成18年)より開始した。だがこうした動きに対してダム建設に反対する日本共産党や市民団体は「税金のムダ使い」であるとして連携した反対運動を繰り広げている。 また、従来は建設を行わなかった新規の治水ダム事業にも国土交通省は着手、流水型ダムとして熊本市を流れる白川上流に現在立野ダムを建設しているほか、荒川ダム再編事業として埼玉県に計画している新大洞ダム(大洞川)は高さ155メートルと、完成すれば日本で最も高い治水ダムとなる。 各地方自治体においても同様の傾向が見られ、代表的なものとして石川県の犀川に建設が予定されている辰巳ダムは多目的ダムから流水型ダム方式の治水ダムに計画が変更されている。また長野県に次いで脱ダム施策を発表した滋賀県も、嘉田由紀子知事がダムは治水に有効であると容認に方針を転換。芹谷ダム(芹川)や北川第一ダム(北川)を流水型ダムとして建設を検討していた。一方で、国土交通省が事業を一時凍結していた大戸川ダム(大戸川)や丹生ダム(高時川)について再開するという河川整備計画原案を示した時期からはダムに対して嘉田知事は再度慎重な姿勢を貫いている。ただ、芹谷ダムについては最終的な結論には至っておらず、さらに検討を進める必要があるとしている。しかしこうした動きにも賛否両論が絶えない。さらに福岡県が建設する藤波ダム(巨瀬川)は計画発表から完成まで39年を要したなど、いくつかの治水ダムは日本の長期化ダム事業に名を連ねている。 40年以上も経過して完成していないダムについては必要性への疑問が日本共産党などダム反対派や一部の流域市民などから呈されている、また大河川では治水事業の整備により洪水被害が減少した一方で、中小河川については都市部を中心に集中豪雨による被害が多発している。このためダムに頼る治水だけではなく堤防補強や河道掘削の実施、また減災対策などソフト面での対策を含めた総合的治水対策の必要性を重視する意見もある。
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