りゅうすいがた‐ダム〔リウスイがた‐〕【流水型ダム】
流水型ダム
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/04/05 09:47 UTC 版)
流水型ダム(別名は穴あきダム)は、その名が示すとおり、ダム下腹部に常用洪水吐きに相当する穴が開いているダムの通称である。治水ダムの中でも洪水調節のみに目的を特化した治水専用ダムで盛んに採用される工法である。平常時は全く貯水を行わず、河水はダムが無い場合と同様に普通に流下していく。このため、通常時のダム湖は水が貯まっておらず、ただ川が流れている状態である(写真)。この穴から放流できる水量の上限は決まっており、それを上回る大量の水がダムに押し寄せる洪水時には、流入量の一部が放流され、残りがダムに貯水され、ダム湖の水位は上昇する。洪水の沈静化とともにダム流入量は低下、それに伴い貯水量は減少し水位は低下、やがて元の通常の状態に戻っていく。 穴の大きさは計画された洪水カット量を基準に算出し、設計される。従ってゲートが無くても一定量が放流される構造となる。また、ゲートレスであり、河床(川の底)の高さもダムの上流と下流とでほぼ同じあるため魚類の往来に支障が少なく、通常のダムで見られるような魚道などは必要ない。また、常用洪水吐きである穴が流木など上流からの漂流・漂着ごみでふさがれないように、ダムのすぐ上流部に柵(さく)などを設ける。 流水型ダムでは貯水容量の全てを洪水調節容量に使用できるため、水量調節の必要性が全くない。このためゲートが不要であり工費削減に貢献が可能である。また通常は自然な河水の流下を妨げず、魚類の往来に支障がないほか、ダムの宿命ともいえる堆砂(ダム湖に堆積した土砂)の除去が極めて簡便であるため、維持管理がし易いといった利点がある。ただし貯水を全く行わないので、利水には不適当である。 日本では1950年代より採用されており、農地防災ため池を中心に小規模なものが多く建設されている。「戦後最大の多目的ダム計画」である沼田ダム計画(利根川)の原点は、流水型ダム方式の治水ダムであった。なお、元長野県知事で脱ダム宣言を発表した田中康夫が発案した「河道内遊水地」というものは、「河道内に高さ30メートルから40メートルの堰堤(えんてい)を建設し、洪水時に貯水を行う」という趣旨のものであったが、これは流水型ダムの構造そのものであり、特に目新しいものではない。 ダム反対派の中には、「流木によるゲートの閉塞によってダムの機能が喪失する」、または、「急激な貯水によって地すべりなどを誘発する」、として流水型ダムに対しても否定的な意見がある。静岡県の大代川農地防災ダム(大代川)や原野谷川ダム(原野谷川)、和歌山県の小匠防災ダム(小匠川)などでは完成以後40年近く経過しているが、大きな問題もなく稼働しており、現状としては反対派が主張するような懸念は発生していない。しかし、既設の流水型ダムはいずれも小規模なものであり、足羽川ダムなど大規模な流水型ダムについては周辺の影響が未知数であるため、完成後も注意深い観察が必要であるとも考えられている。 所在地水系一次支川 (本川)二次支川三次支川ダム堤高 (m)総貯水容量 (千m3)管理主体状態福井県 九頭竜川 日野川 足羽川 部子川 足羽川ダム 96.0 28,700 国土交通省 建設中 熊本県 白川 白川 — — 立野ダム 87.0 10,100 国土交通省 建設中 熊本県 球磨川 川辺川 — — 五木ダム 61.0 3,500 熊本県 計画中 北海道 石狩川 幾春別川 奔別川 — 三笠ぽんべつダム 53.0 8,620 国土交通省 建設中 長野県 信濃川 浅川 — — 浅川ダム 53.0 1,100 長野県 運用中 滋賀県 淀川 芹川 水谷川 — 芹谷ダム 52.0 5,560 滋賀県 中止 大分県 大野川 玉来川 — — 玉来ダム 52.0 3,950 大分県 建設中 石川県 犀川 犀川 — — 辰巳ダム 51.0 6,000 石川県 建設中 岩手県 気仙川 大股川 — — 津付ダム 48.6 5,600 岩手県 中止 島根県 益田川 益田川 — — 益田川ダム 48.0 6,750 島根県 運用中 山形県 最上川 最上小国川 — — 最上小国川ダム 46.0 2,600 山形県 運用中
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