臨床症状と治療
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/26 10:01 UTC 版)
溶連菌感染によって起こる病気には、溶連菌がヒトの組織を直接破壊すること、あるいは生きた溶連菌に対する免疫反応によって症状が発現する急性感染症と、溶連菌の産生する毒素によって惹き起こされる毒素性疾患がある。また、免疫異常によって起こると考えられている病気の中には、溶連菌感染が引き金になることが知られているものが少なくない。 このうち、いわゆる「溶連菌感染症」として扱われるものは急性感染症と、毒素性疾患のうち猩紅熱であるが、ここでは溶連菌によって起こされるほかの疾患にも触れる。 急性咽頭炎・急性扁桃炎 年長小児から成人に発症する、一般的な溶連菌急性感染症。A群β溶連菌(Streptococcus pyogenes)による急性咽頭炎は、小児の咽頭炎の15〜30%、成人の5〜10%を占める。主症状は発熱・咽頭痛で、その他、頭痛・腹痛・嘔気・鼻閉などを伴うことも少なくないが、咳や鼻汁などの気道症状には乏しい。咽頭は著しく発赤し、口蓋扁桃(いわゆる扁桃腺)は腫脹して黄白色の滲出物が付着することが多く、所属リンパ節である前頚部リンパ節が圧痛を伴って腫脹することが多い。問診におけるCentor's score(38度より高い発熱、圧痛を伴う前頸部リンパ節腫脹、扁桃の白苔や浸出液、咳嗽を欠く)がすべてそろえば、A群β溶連菌の可能性が75%程度になる。 治療の第一選択はペニシリン系抗菌薬(ベンジルペニシリンが理想だがアモキシシリンが一般的)の投与であり、通常は内服治療が可能。咽頭痛などのために内服が困難な場合、抗菌薬の筋注または点滴静注を行う。ペニシリンアレルギーのある患者にのみ、マクロライド系(クラリスロマイシン)の適応がある。リウマチ熱(心炎、多関節炎など)の予防のため、計10日間の服用が必要。 乳幼児では典型的な咽頭扁桃炎の症状とならずに、発熱が軽度で持続したり、全身のリンパ節の腫脹が見られたり、鼻汁を伴う場合も見られる。 伝染性膿痂疹(でんせんせいのうかしん) 一般的に「とびひ」として知られる。伝染性膿痂疹の起炎菌はそのほとんどが黄色ブドウ球菌(英: 羅: Staphylococcus aureus)である。 まれに溶連菌によるものが報告される。しかし、複数回培養により菌を確認した報告は少なく、ほとんどが単回培養による報告である。このため単に皮膚付着菌をみているだけの報告も一部混ざっていると考えられる。 黄色ブドウ球菌によるものは周囲に紅暈(こううん、皮膚が部分的に充血して赤く見えること)を伴う「黄色い膿」(膿痂)が皮膚にでき、そこを掻破した爪によって皮膚の他部位に細菌が播種され、播種された先にまた膿痂を形成する。しかし、黄色ブドウ球菌によるものでも紅暈を伴わなかったり、膿が「黄色」でないものもあり、このことで鑑別してはならない。発熱は伴わないことが多く、一般的には全身的症状はない。ただし、アトピー性皮膚炎の患児や水痘の経過中に発症した場合などには重症化する場合があり、注意が必要である。 治療はペニシリン系抗菌薬の投与が有効。 壊死性筋膜炎(えしせいきんまくえん) 溶連菌急性感染症の最も重症な病型であり、後述する毒素性ショック症候群とともに「劇症型溶連菌感染症」と呼ばれる。きわめて急速に進行する軟部組織の感染症であり、典型的な例では指先や足先など四肢の末端部から、1時間に数cmもの速さで壊死が進行する。高熱、全身状態の不良、局所の腫脹・疼痛が主症状。死亡率は30%以上と高く、一般に人食いバクテリア感染症と呼ばれることのある疾患の1つである。 「壊死性筋膜炎」も参照 その他 溶連菌はその他、化膿性リンパ節炎、蜂窩織炎、化膿性関節炎、骨髄炎、結膜炎などさまざまな感染症を来たしうる。ペニシリン系に対する感受性は常に良好であり、どの部位の感染症に対してもペニシリン系抗菌薬の投与が第一選択となる。感染症の部位により、切開排膿や掻爬などの治療をあわせて行う必要がある。 猩紅熱(しょうこうねつ) 猩紅熱(英: Scarlet fever)は、乳幼児に多い、溶連菌の産生する毒素及び菌体に対する一種の免疫アレルギー疾患である。 猩紅熱の症状は発熱のほか、体幹に始まり末梢に広がる発疹(サンドペーパー様皮疹)、舌が舌苔を失い、赤く発赤して味蕾による小さな隆起が目立つ苺舌が特徴的である。 治療はペニシリン系抗菌薬の内服が第一選択。 毒素性ショック症候群 英: Toxic Shock Syndrome, TSS。TSSの原因としてはTSS toxin-1(TSST-1)産生性の黄色ブドウ球菌がよく知られるが、溶連菌によるものもある。血流中に放出された毒素に対する免疫アレルギー反応により、急性のショック状態を発症し、多臓器不全に至る。既に毒素は血中に流れているため、抗菌薬では治療できず、ガンマグロブリン投与や血液浄化法(血漿交換、持続的血液濾過透析など)が必要となる。 リウマチ熱 英: rheumatic fever, RF 心炎、多関節炎、発疹(輪状紅斑)、皮下結節、不随意運動が主症状である。溶連菌感染症から数週間経過後に発症する。膠原病の関節リウマチとはまったく異なる疾患である。 血管性紫斑病 英: Henoch-Schonlein purpura, HSP。 アレルギー性紫斑病、アナフィラクトイド紫斑病、ヘノッホ=シェーンライン紫斑病とも呼ばれる。溶連菌感染症などの上気道感染の1~3週間後に発症することがある。先行感染は必須ではない。 特に四肢に多い皮下出血(紫斑)が主症状で、その他限局性の浮腫、腹痛・嘔吐、関節痛、腎炎などがみられる。 急性糸球体腎炎 英: Acute glomerulonephritis 溶連菌による呼吸器感染からは1 - 2週間後、皮膚感染からは3 - 6週間後に発症することがある。菌体成分または菌が産生する抗原と患者が産生する抗体とが結合した免疫複合体が、糸球体に沈着することが原因とされる。 3大症状(trias)は、血尿、浮腫、高血圧である。治療としては水分および塩分制限、安静を行い、高血圧が著しいときにはカルシウム受容体拮抗薬などの降圧薬を用いる。慢性化することはまれで予後は良好。 掌蹠膿疱症 これらの皮膚疾患は細菌アレルギーが関与して生じているという報告があり抗ストレプトリジンO(ASO)の上昇がみられる。
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