米大統領選共和党指名争い
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「ティーパーティー運動」の記事における「米大統領選共和党指名争い」の解説
2012年の大統領選に向けた選挙運動が始まる時期になっても、保守候補乱立の傾向があったためにティーパーティーの出足は鈍かった。ティーパーティーの支持は分裂し、一つの候補者に絞りきることができなかったからである。しかし第1回共和党候補者討論会でまず注目を集めたのは、後日正式に大統領選に立候補したミシェル・バックマン下院議員であった。彼女は6月25日に行われた地元のデモイン・レジスターの世論調査で、支持率でトップを走るロムニー候補にアイオワ州で1%差と肉薄するなど、ティーパーティーの支持を集めて急浮上した。バックマンは当初は4番手以下の泡沫候補であったが、相次ぐ辞退表明もあって本命不在とされる中で、初の全国デビューとなったテレビ討論会で視聴者に好印象を与えて頭角を現した。これまではサラ・ペイリンの"クローン"あるいは”コピー”などと評されていたが、スター性を兼ね備え、ペイリンよりもはっきりと分かりやすく話すことからポピュリストに好評で、単純明快な主張(オバマケア廃止、「オバマは1期限りの大統領」など)が一般受けしたことで、支持を伸ばした。バックマン氏は、簡単に税金を使って、貧しい人を救うという考えは、社会主義のイデオロギーそのものであり、オバマ大統領の政治がそれであるとし、赤字を増やし国を壊してしまうと主張した。ただし髪の色やスタイルばかりではなく、失言癖までペイリンそっくりで、立候補表明の翌日の6月28日、FOXテレビのインタビューで俳優ジョン・ウェインと殺人鬼ジョン・ウェイン・ゲイシーを取り違えて発言し、「彼と私は同じ精神を共有している」と言って周囲を驚かせた。2番手に躍進すると報道も過熱し、夫が経営するクリニックで同性愛者を異性愛者にする矯正治療が行われたとする疑惑や、彼女の強い片頭痛という健康面の不安もリークされた。 バックマンは、イメージが低下したペイリンに代わる存在と評価され、世論調査でも実際にペイリン票を吸収したとみられることから、前述のストップ・ロムニー運動の行方と合わせて、ティーパーティー運動が再燃するための核になれるか、期待が集まったが、模擬投票での勝者は本投票では勝てないのジンクス通り、政策面で支持は伸び悩み、その後、テキサス州知事リック・ペリー(新保守系)が立候補すると右派の票を奪われてバックマンは3位以下に後退し、最終的には翌年のアイオワ州党員集会で宗教保守のリック・サントラム候補に右派の票が大挙して流れたことから、バックマンは敗北して選挙戦から撤退した。 一方、それに前後して別のティーパーティー候補が台頭した。9月24日、フロリダ州で行われた共和党大統領候補の模擬投票でペリー候補に勝利した元企業経営者のハーマン・ケイン候補である。この頃に突如として各種の世論調査で支持率トップに躍り出たが、黒人のケイン候補は、ティーパーティーに支持されており、独自の「9-9-9」という連邦所得税、法人税、消費税を全て9%としようという減税プランを公約とした。これが新鮮な候補者を探していた世論を捉え、メディアの注目も集めて旋風を巻き起こした。ロムニー候補に対する有力な対抗馬と見られたが、対立候補(ケイン自身はペリーを名指した)からの強烈なネガティブキャンペーンを受け、セクハラ疑惑に続いて不倫問題が相次いで報じられると、連日、各メディアで過熱報道されて、支持率は急速に低下。疑惑を解消できぬまま、12月3日に選挙戦からの撤退を表明した。 次々と候補者が撤退していくなかで、反ロムニーを次第に鮮明にするティーパーティーの支持は揺れ動いた。保守の三候補、ティーパーティーの生みの親同然であるポール、ティーパーティーが中間選挙で掲げた公約のモデルを提供したギングリッチ、宗教保守のサントラム、そのどれにも決め手を欠いたからだ。 ロン・ポールは、代表的なリバタリアンの政治家で、熱心な若い支持者を持つことでも知られるが、その支持層はあまり広がりをもっていないことが彼の弱点であった。その理由は政策主張があまりに教条的であり、死刑制度撤廃、所得税廃止、アメリカ外交を孤立主義に戻そうなどというオープンな主張では、幅広く賛同を得るのは難しく、共和党主流派からも社会的保守派からも離れているからであった。彼の支持者の多くはポールだけを支持し、彼がもし候補者レースで敗れたら共和党には投票しないとも言っている人が多いと報道され、その支持拡大は諸刃の剣であった。また彼はすでに大統領選に二度挑戦して失敗し、三度目で最後の挑戦であることから、無党派層にとっては新鮮味にも欠けた。本選で勝てる候補であるか疑問を持たれていて、党員集会でそれを示す必要があったが、一部の支持に留まった。しかし指名獲得が困難な情勢が明らかになっても、ポールは選挙運動を続け、慣例である勝者ロムニー候補への支持表明も拒否した。 ニュート・ギングリッチは、保守派の著名な政治家で、早くからティーパーティー運動への支持を表明していた1人として、有力候補と見られていたが、共和党候補指名レースの冒頭での失言で躓き、窮地にたったほか、支持が伸び悩んでいた。その後、保守派候補の相次ぐ脱落があったが、公約として「21世紀のアメリカとの契約」を掲げるギングリッチは、穏健派ロムニー候補への対抗馬として一部のティーパーティーから根強い支持を受けていた。政策通の評判と知名度により、徐々に支持率は回復してカンバックするが、世論調査の支持率でトップを争うようになると、早速、対立候補によるネガティブキャンペーンの集中攻撃を受けた。不倫や離婚歴などによって個人的な信頼性に疑問符がもたれることになり、候補者の道徳的価値を強く意識する社会的保守派を糾合できず、アイオワ州とニューハンプシャー州では後塵を拝した。彼のようなインサイダーに対してのポピュリストの支持は熱心さに欠け、二番目の元妻による「倫理に欠く」との告発などもあって、支持率は乱高下したが、納税申告書公開問題でロムニーを追及して再び支持率を回復。ロムニーに勝てる候補を望むティーパーティーが1月21日のサウスカロライナ州予備選では結集して、彼を圧勝させた。ところが、トップに立つと再びネガティブキャンペーンの集中砲火を浴び、フロリダ州で敗れて以後、支持率は低下。社会的保守派の票はサントラムに流れ、3番手に後退。結局、そのままギングリッチは2012年5月2日、共和党候補指名争いからの撤退を表明した。
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