海面や空中への威嚇射撃と船体への射撃
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/04 14:04 UTC 版)
「九州南西海域工作船事件」の記事における「海面や空中への威嚇射撃と船体への射撃」の解説
同日6時20分、奄美大島の北西240キロで西進する船影を海上保安庁のビーチ350が確認、12時48分には、まず180トン型巡視船「いなさ」(当時長崎海上保安部所属)が不審船を視認した。約20分後、「漁業法励行」のため、船尾に国旗を掲揚していない不審船に対して航空機と巡視船から最初の停船命令が発せられた。 不審船はこれを無視して逃走を続けたため、拡声器と無線による多言語、旗りゅう信号、発光信号、汽笛などによる音響信号、発炎筒による度重なる停船命令を行った。しかし、不審船はさらに逃走を続け、15時ごろにはEEZの日中中間線を超えてなおも西進を続けた。 この時点で「漁業法違反容疑(立ち入り検査忌避)」が成立したため、巡視船は「停船しなければ銃撃を行う」という意味の旗りゅう信号をマストに掲揚し、朝鮮語などの多言語で同様の射撃警告を行った後、逃走防止のため、海上保安庁法第20条1項を遵守しながら、14時36分からRFS付20mm機関砲による不審船の上空および海面への威嚇射撃を行った。以後、45分間にわたって断続的に計5回、段階的に警告度を高めつつ威嚇射撃を実施したものの、不審船はいずれも無視して逃走を続けた。 不審船側は立ち入り検査と威嚇射撃を止めさせるためか、乗組員が甲板上で中国の国旗のような赤い布を振って見せた。なお14時15分の時点で、縄野海上保安庁長官は、船体を狙った射撃も含めた威嚇射撃を許可していた。またこの間に、350トン型巡視船「あまみ」(当時名瀬海上保安部所属)、180トン型巡視船「きりしま」(当時串木野海上保安部所属)も現場に到着していた。 海上保安庁法第20条によると、危害射撃が可能な基準(海上保安官が武器を使用して相手に危害を加えた場合に免責される基準)は警察官職務執行法第7条を準用し、正当防衛、緊急避難、重大凶悪犯罪(懲役3年以上)を犯した疑いのある者等の検挙時に犯人が逃走・抵抗を図り、これを防ぐために他に採る手段がない場合のみである。また、1999年に発生した能登半島沖不審船事件を受けて改正された海上保安庁法第20条2項によると、外国の民間船舶の領海内における航行が重大凶悪犯罪を犯す準備のために行われている疑いを払拭することができず、将来繰り返し行われる蓋然性があると海上保安庁長官が認定した場合にも、危害射撃が可能であった。 しかし、本件では不審船に同条に抵触する行為の疑いがなく、日本の領海外のEEZを航海中でもあったため、危害射撃による免責の要件を満たせず、本庁は難しい判断を迫られた。最終的に本庁は「照準性能が高いRFS付き機関砲であれば、乗員に危害を加えずに船体射撃が可能」という判断を基に船体射撃を行うことを決定した。 そして、16時13分から「いなさ」が、不審船の船尾にあると推定される機関を破壊するために、警告放送の後に20mm機関砲による射撃を行った。しかし効果はなく、なおも不審船は逃走を続けた。 16時30分、180トン型巡視船「みずき」(当時福岡海上保安部所属)が追跡船隊に参入した。赤外線映像の解析により、主機は船尾ではなく前部の船倉にあることが判明した(船尾に上陸用舟艇を隠すために船首部分に機関を設置していたことが事件後に判明している)ことから、16時58分、「撃つぞ。船首を撃つから船首から離れろ」との警告の後、「みずき」搭載の20mm機関砲により、船首への射撃を行った。この際、発射された曳光弾が船首の甲板上のドラム缶に備蓄されていた予備燃料に命中、引火し火災が発生した。これにより、17時24分、不審船はようやく停船した。 しかし、乗組員によって消火器や毛布を使った消火活動が行われるとともに、延焼防止のため風上に船尾を向けて後進をかけて炎を船首に追いやることで、30分ほどで鎮火がなされ、南南西に向けて11ノットで逃走を再開した。なお巡視船に取り付けられている赤外線カメラの映像で、この火災の際に不審船の左舷側から乗組員が何らかの物体を海中に投棄したのが確認されているが、物体はすぐに海中に沈んだため、回収するには至らなかった。この物体は、暗号表や乱数表などの機密性の高いもの、あるいは覚醒剤などの違法な物品ではないかと推測されている。 この間、海上保安庁側も、急行中のヘリコプター搭載巡視船「おおすみ」に乗船した特殊警備隊(SST)の到着を待っていたことから、強攻策は行われなかった。21時00分に、「みずき」が再び船体射撃を行ったが、装填していた20mm機関砲の弾薬がなくなったため、弾薬を再装填するために一時離脱を余儀なくされた。 この射撃を受けて、21時35分には不審船は再度停船したが、2分後には再度動き出した。逃走する方向には、10キロほど離れたところに無関係の中国の漁船団が多数操業していることがわかり、不審船はここに紛れ込むことを目論んでいると判断されたことから、SSTの到着を待たずして不審船を確保する必要が生じた。
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