教会音楽、カンタータ、オラトリオ
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「アントニン・ドヴォルザーク」の記事における「教会音楽、カンタータ、オラトリオ」の解説
スターバト・マーテル 作品58、B.71 ソプラノ、アルト、テノール、バス、合唱、オーケストラ 1875年9月、ドヴォルザークは長女を失う不幸に見舞われた。彼は、1876年2月にこの曲に着手し5月にはスケッチを完成させたが、他の仕事に手を取られてこの作品は棚上げにされていた。ところが、1877年8月に次女を、9月に長男を相次いで失い、彼らの冥福を祈る意味でこの作品に再び向かうと、11月13日にはオーケストレーションを完成させた。全10曲中アレグロで書かれているのは、終曲の後半のみで、あとはすべて緩徐な曲である。また、10曲中4曲が長調の曲であり、深い悲しみを克服し穏やかな平安を得ようとする真摯な祈りに満ちた作品となっている。 初演は1880年12月23日、プラハ音楽芸術家協会の定期コンサートにおいてアドルフ・チェフの指揮により行われた。 レクイエム 変ロ短調 作品89、B.165 ソプラノ、アルト、テノール、バス、合唱、オーケストラ 1890年1月から10月にかけて作曲された。この時期はドヴォルザークにとって栄誉に満ちた時期であった。前年の1889年にはチェコ人としては異例なことに鉄冠勲章をオーストリア皇帝から与えられ、1890年になるとチェコの科学芸術アカデミー会員に列せられ、カレル大学の名誉哲学博士の学位を贈られてもいる。プラハ音楽院の教授に就任したのも、この作品完成直後のことであった。イギリスのバーミンガム音楽祭のための新作依頼に応えて作曲されたもので、「スターバト・マーテル」の場合とは異なり、精神的衝動が契機となったものではないが、素朴で抒情的な美しい旋律にあふれたレクイエムであり、ブルクハウゼルは「ドヴォルザークの全作品中最も哲学的な作品」と評している。第1曲の冒頭のF - Ges - Eの音程進行は、ドヴォルザークが深く敬愛したバッハのロ短調ミサの第3曲の冒頭(Fis - G - Eis)の引用である。 1891年10月9日、バーミンガム音楽祭において作曲者自身の指揮によって初演された。 テ・デウム ト長調 作品103、B.176 ソプラノ、バス、合唱、オーケストラ 1892年、渡米直後に開かれるアメリカ発見400年祭のための作品として渡米直前に作曲された。ドヴォルザークを招いたジャネット・サーバー夫人からの依頼で、当初の予定ではアメリカの詩人ジョセフ・ロドマン・ドレイクの詩「アメリカの旗」に付曲することになっていたのだが、プラハのドヴォルザークの元にその詩が送られてこず、典礼文「テ・デウム」に付曲することにし、同年の6月25日から7月28日にかけて作曲され、1892年10月21日にニューヨークでドヴォルザークの指揮により初演された。カンタータ「アメリカの旗」(作品102、B.177)は渡米後の1893年に完成された。 渡米前の作品であるにもかかわらず、すでにいくつかの主題が五音音階で構成されていることから、ドヴォルザークが渡米前からアメリカの民俗音楽を研究していたことが示唆される作品である。 カンタータ「幽霊の花嫁」 (Svatební košile) 作品69、B.135 ソプラノ、テノール、バス、合唱、オーケストラ 1883年5月から11月の作曲。翌年3月28日、プルゼニュにおいて作曲者自身の指揮により初演された。 原作はカレル・ヤロミール・エルベンの「初夜の肌衣」 (Svatební Košile) 。序曲と3部18曲からなる。第1部「乙女の部屋」、女が恋人の亡くなったことを知らず、思い続けている。そして「恋人を帰すか、私の命を断つか」と祈る。第2部「夜の道行き」では、死んだ恋人の幽霊が現れ墓場へ誘う。第3部「墓場にて」で、女は苦しみの後に罪を悟り神に許しを乞い、救われる。 オラトリオ「聖ルドミラ」 (Svatá Ludmila) 作品71、B.144 ソプラノ、アルト、テノール、バス、合唱、オーケストラ 1885年9月から翌年5月にかけて作曲された。初演は1886年10月15日、イギリスのリーズで行われた。ドヴォルザークの創作意欲、技術、能力の最盛期を告げる作品である。 ヤロスラフ・ヴルフリツキーの台本よる作品で、9世紀後半、チェコでのキリスト教受容の歴史を描いている。聖ルドミラは、チェコの統一を成し遂げた王ボジヴォイ1世の妃(一説には娘)で、国家としてギリシャ正教を受け容れ、国民を帰依させることに貢献した。王の死後、ローマ・カトリック信者であった息子の嫁ドラホミーラによって暗殺された。このため、正教会の聖人とされた。 作品は3部45曲からなる。第1部はムニェルニーク城の中庭で、人々が女神バーバの像の建立祭に沸いているところへキリスト教の伝道僧イヴァンが現れ、雷を起こしてバーバの像を打ち砕き、唯一神への信仰を説く。人々が恐れおののく中、ルドミラはイヴァンの言葉に惹かれてゆく。第2部でルドミラはイヴァンの山の隠れ家を訪ね、キリスト教へ帰依することを誓う。そこへボジヴォイが狩の帰りに通りかかる。イヴァンは獲物であった牝鹿を生き返らせる。ボジヴォイは驚き、さらに傍らのルドミラの美しさに惹かれ、キリスト教を受け容れる。第3部はモラヴィアのヴェシフラト大聖堂での洗礼の場面。新婚のボジヴォイとルドミラが洗礼を受け、民衆はこれを祝福して、こぞってキリスト教に帰依する。
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