批判的・否定的評価
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/18 01:35 UTC 版)
「ハーバート・ビックス」の記事における「批判的・否定的評価」の解説
ビックスの書物が海外で肯定的に評価される一方で、日本ではビックスが一橋大学に在籍していた時の同僚の中村政則や吉田裕(日本語版監修者)を除くと、批判的評価が多い。 ジャーナリストの長谷川煕は、資料の扱いがいい加減で、いまも真相が不明なことを根拠も示すこともなく断定する箇所が頻々とでてくるとした。 政治史学者御厨貴は「思い込みによる断罪」で、すでに天皇は断罪されていると指摘した。 日本政治思想史研究の原武史は性急さが目立ち、ビックスは単純化しているとした。 ハワイ大学のジョージ・アキタ教授は同書は学問的論考というより小説的であると主張し、ビックス自身も一部認めている。 ビックスの昭和天皇論は、オリジナルではなく山田朗と吉田裕の研究を下敷きにした焼き直しという主張がある。例えば伊藤之雄は、古川隆久が著書『昭和天皇-「理性の君主」の孤独な生涯』(中公新書、2011年)において、ビッグスを事実関係の不備が目立つとする一方で、山田朗と吉田裕を「水準が高い」「優れている」と述べていることについて、ビッグスを批判していながら「ビッグスが拠った山田朗と吉田裕の研究」を評価しており視座が定まらない、と述べている。同じく秦郁彦も、ビックスの『昭和天皇』は、山田朗と吉田裕の著作が種本と評している。 歴史学者秦郁彦は、盧溝橋事件に関して「天皇も初めから参謀本部の不拡大方針に反対する決定を支持してきた」とビックスは書くが、典拠とされた江口圭一論文にはそのような記述はなく、また江口は秦の『盧溝橋事件の研究』での盧溝橋事件の第一発は中国第29軍兵士のよる偶発的射撃とする指摘を支持しており、明らかに誤読であると批判した。 坂野潤治は、天皇は立憲主義者として自己主張を抑制したから戦争責任はないとする擁護論や、国家元首かつ大元帥だった天皇は、満州事変も日中戦争も太平洋戦争も止められたはずだとう単純な批判論と比較すると一歩進んでいるとしつつも、ビックス『昭和天皇』は、天皇は初めから悪玉と決められており、天皇の戦争回避のための努力は意図的に戦争推進のためと読み変えており、具体的には、天皇と牧野伸顕が昭和8年1月〜2月に関東軍を封じて国連脱退回避の努力を行ったかは牧野伸顕日記を読めば一目瞭然だが、日記の一部分だけ引用して、「天皇や側近が、陸軍の大陸政策に代案を示すことで連盟脱退を回避しようとしたことを示す文書は存在しない。・・・手に負えなくなった陸軍と良い関係を維持することは、当時の天皇にとって国際親善よりも重要だった」(上巻、p231-p232)と断定していることを挙げている。 ルードヴィヒスハーフェン経済大学東アジアセンター教授の歴史学者ピーター・ウェッツェラーは、マルクス主義の階級理論では、権力の分配、社会的評価、生活様式、イデオロギー、社会における態度はすべて、生産・配給手段に対する階級関係によって決定されるが、ビックスもこの立場をとっている。ビックスやジョン・ダワーらの世代は、「アメリカ人学者によくみられる自己中心性から免れていない。(中略)ビックスは右ではなく左から来ているが、結果は同じ「不寛容」に至る。彼もまた自分と同じ見方をしない者を切り捨てるか無視する傾向にある」「ビックスのようなマルクス主義学者のなかには、自分勝手な真理に基づいて、人の著作や活動を曲解している者が少なくない。彼らが研究の対象とする人びとは、自身の思考と行動の真の理由がわかっておらず、自分の意図を明確に述べる能力がないという前提があって書いていることをうかがわせる。いわば学者の俗物根性であるが、それがまさしくビックス著の特徴である。」と指摘している。 翻訳家の森山尚美は「間違いが多いということ自体よりも、何度も訂正の機会があったにもかかわらず、(中略)訳が全面的に見直されていないし、多くの間違いが見過ごされている」と指摘している 伊藤之雄は、ビックスが当時の手紙・日記・書類など一次資料を用いて考察せず、近代日本の立憲君主制解釈或いは明治憲法の運用慣行それ自体について誤った理解をしていると述べている。ビックスの『昭和天皇』については、ウィリアム・ウェブ裁判長から提出された、事実を過度に単純化して天皇に戦争責任があるという論理を追認しているだけで、研究文献や史料の中において自らの論理に都合が良いもの或いは都合の良い一部分だけを使用しているに過ぎず、さらに、近年論じられるようになった被害者を守るための商取引で使われる企業側の説明責任を安易に応用しているが、欠陥商品による事故は企業に責任があるのに対して、戦争は関わった関係国に何がしかの原因があるため教訓になりえない、と批判している。
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