帽子
『ヴィルヘルム・テル』(シラー)第1幕第3場 オーストリア統治下のスイス。代官ゲスラーが、村の中央広場に高い竿を立て、てっぺんにオーストリアの帽子を載せて、「この帽子を敬うこと、代官を仰ぎ見るがごとくにせよ。ここを通る者は、膝を曲げ帽子をぬいで、敬礼すべし」と命ずる〔*ところが、ヴィルヘルム・テルと息子ヴァルターは、帽子を無視して通り過ぎたため、捕らえられる〕→〔弓〕1a。
『三角帽子』(アラルコン) 大きな三角帽子をかぶった初老の市長が、水車小屋の粉引きルーカスの若妻フラスキータを、手に入れたいと思う。市長は、フラスキータの甥の就職を世話することと引き換えに、彼女を口説く。しかしフラスキータは、市長の申し出をはねつける。市長夫人が夫の悪行を知り、「今後一切、私の寝室に入らないで下さい」と禁ずる。
『伊豆の踊子』(川端康成) 20歳の秋、「私」は1人で伊豆を旅した。高等学校の制帽をかぶり、紺がすりの着物に袴をはき、学生カバンを肩にかけた姿だった。天城峠で旅芸人一行と出会い、「私」は美しい踊子に心ひかれて、彼らと道連れになる。制帽はカバンに押し込み、共同湯の横で買った鳥打帽をかぶった。彼らと数日間行動をともにして下田に着き、別れる時が来た。「私」は、踊子の兄栄吉に鳥打帽を与え、カバンから制帽を取り出してかぶった。
『田楽豆腐』(森鴎外) 木村が帽子屋で麦藁帽子を買おうとすると、小僧が「パナマをお召しになってはいかがです」と勧める。家で細君にもそう言われた。しかしパナマは15円もするのだ。店の横手の腰掛に、鍔広の麦藁帽子が一山積んであったが、小僧は「それは檀那方のおかぶりなさるのではありません。労働者のかぶるのです」と言う。それでも木村はその麦藁帽子を買い、頭に載せて植物園へ行った。門番のお役人が、ぞんざいな言葉遣いで木村に応じた。
★3.帽子一つからわかること。
『青いガーネット』(ドイル) シャーロック・ホームズのもとへ、古ぼけた山高帽子が持ち込まれた。ホームズはその帽子を見ただけで、「帽子の主は知能のすぐれた人物だ」「2~3年前までは裕福だったが、今は落ちぶれている」「毎日ほとんど坐りきりの生活で運動不足」「年齢は中年で髪は半白」「奥さんに愛想をつかされた」「男の家にはガスが引いてなくて獣脂蝋燭(ろうそく)を使っている」、などのことを推理した。
★4.帽子の絵。
『星の王子さま』(サン=テグジュペリ) 「ぼく」は6歳の時、はじめて絵を描いた。うわばみが象を丸呑みした絵だ。ところが大人たちは皆、それを帽子の絵だと思った。それで「ぼく」は絵描きになることをあきらめ、飛行士になった。飛行機がサハラ砂漠に不時着し、「ぼく」は星の王子さまに出会う。星の王子さまは「ぼく」の描いた絵を見て、すぐ、うわばみが象を丸呑みした絵だ、とわかった。
★5.魔法の帽子。
『たのしいムーミン一家』(ヤンソン) ムーミンとスニフとスナフキンが、山の頂上で黒いシルクハットを見つけ、家へ持ち帰る。パパがかぶってみるが、似合わないので、くずかごとして使う。ところがそれは、飛行おにの魔法の帽子だった。ムーミンがかくれんぼ遊びをして帽子の中に隠れると、姿が変わってしまい、皆から「お前はにせものだ」と言われる。ママが蔓(つる)草を帽子の中へ捨てると、蔓はどんどん成長し、家中ジャングルになった〔*ママは帽子を、森の化け物モランばあさんに与える〕。
『ボウシ』(星新一『きまぐれロボット』) うらぶれた老奇術師が、帽子の中から兎や鳩や花や旗などを出す手品の練習をしていた。宇宙人がこれをのぞき見て、「何でも出てくる装置だ」と誤解し、帽子を奪い取る。商売道具を失った老奇術師がひどく嘆くので、宇宙人は少し気の毒に思い、別の星で拾った緑色の石ころを、老奇術師に与える。それは大きなエメラルドだった。
『大鏡』「実頼伝」 小野宮の大臣・実頼は、屋敷の南面(=表座敷)に出る時には、必ず冠や烏帽子をかぶった。南面からは稲荷神社の杉の神木があらわに見えるので、「稲荷明神がご覧になっているのに、どうして無作法な姿で出られようか」と言って、身を謹んでいたのである。しかしそれを忘れて南面へ出てしまうこともあり、その時には、袖を頭にかぶって、うろたえ騒いだ。
『弟子』(中島敦) 孔子の弟子・子路は、2人の剣士を相手に激しく闘い、斬られて倒れた。子路は、落ちた冠を拾い、正しく頭に着けて、すばやく纓(えい=冠の紐)を結ぶ。彼は最後の力をふりしぼり、「見よ! 君子は、冠を、正しゅうして、死ぬものだぞ!」と絶叫して死んだ。
★9.かぶると姿が見えなくなる帽子。
『ギリシア神話』(アポロドロス)第2巻第4章 ペルセウスは、姿を隠す帽子を3老婆(グライアイ)から得て、3人のゴルゴンのうちただ1人可死の存在であるメドゥサの首を斬り取った。残る2人のゴルゴンが犯人を捕らえようとしたが、帽子ゆえにペルセウスの姿を見ることができなかった。
★10.武将の兜。
『仮名手本忠臣蔵』大序 新田義貞が討ち死にした場所には、47の兜が落ち散らばっていた。義貞は「これが最後の戦(いくさ)」と覚悟し、後醍醐天皇よりたまわった名香蘭奢待(らんじゃたい)を兜の内側に焚きしめていたため、その香りによって、義貞の兜を特定することができた。足利尊氏は、「敵ながらも義貞は、清和源氏の嫡流であるから」と言って、鶴岡八幡宮の宝蔵に義貞の兜を奉納した。
帽子と同じ種類の言葉
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