子どもの貧困に関する概要
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「子どもの貧困」の記事における「子どもの貧困に関する概要」の解説
政府の貧困に関する統計「低消費水準世帯」の推計は、1965年を最後に打ち切られていた。その後長年にわたり貧困の定義と測定を持っていなかったとの指摘がある。なお、政府統計うち相対的貧困率を算出している調査としては、総務省「全国消費実態調査」と厚生労働省「国民生活基礎調査」があり、調査対象、手法等が異なっている。この結果、両調査の相対的貧困率を世帯主年齢別、世帯類型別に比較すると、ほとんど全ての区分で国民生活基礎調査の相対的貧困率が全国消費実態調査に比べて高くなっている。阿部彩によると、相対的貧困率については、貧困線より高い所得者は考慮しないため「格差」の問題ではなく、また国や地方団体の政策によって変動するため所得差があっても相対的貧困率は減らせないものではないとされている。なお、山形大准教授の戸室健作は「就業構造基本調査」のデータなどを分析し、都道府県別の「子どもの貧困率」を独自に算定した。日本財団においても都道府県別の率を独自算定し、公表した。 内閣府は平成21年度年次経済財政報告で「我が国の所得再分配は高齢者層に対してしか働いておらず、若年から中年といった現役世代においてはほとんど再分配が行われていないことが分かる」「所得再分配の効果が高齢者に偏っていることとあわせ、所得再分配機能が働く範囲が限定的になっている可能性がある」と言及している。現在の日本では、子どもの貧困増と教育支出が低下する一方で、年金や医療が手厚くなっているプレストン効果が現れている可能性がある。この効果は子どもの利益を代弁する「子を持つ親」よりも、高齢者の人口のほうが相対的に多いことと関係があるという。 『Social ExpenditureDatabase 2007』(OECD)によれば、我が国の家族関係支出は対GDP 比0.75%であり、スウェーデン3.54%、フランス3.02%と比べると非常に少ない。また、社会保障給付費に占める割合を見ても、高齢者関係支出の46.7%に比べ家族関係支出は4.0%にすぎないという指摘もある。教育費を見ると、oecd「図表でみる教育:OECD インディケータ」日本のカントリーノートでは、在学者1人当たりの公財政支出・私費負担はOECD平均を上回っているが、(公的・私的財源からの)教育支出の対GDP比は依然としてOECD平均を下回っているとされる。また、日本では2008年から2012年の間に初等教育から高等教育に対する公財政教育支出が増加したが、公財政支出総額がさらに大幅に増加したので、教育支出が公財政支出総額に占める割合は若干(3%)減少している。OECD加盟国平均で、初等教育機関から高等教育機関に至るまで教育機関に対する支出の83%が公財政支出で賄われている。日本は公財政教育支出の割合(70%)が最も低い国の一つであるが、これは主に高等教育の私費負担(高額の授業料)の割合が高いことによる(OECD加盟国平均30.3%に対し、日本は65.7%)と分析されている。文部科学省によると、日本の公財政教育支出の対GDP比は、機関補助と個人補助を合わせて3.8%であり、データの存在するOECD加盟国の中で最下位となっている(2011年)。また、教育段階別で比較しても、全ての教育段階でOECD平均を下回り、特に、就学前教育段階と高等教育段階では、OECD加盟国の中で最下位となっている。しかしながら、在学者1人当たりの公財政教育支出の対1人当たりGDP比では、就学前教育段階と高等教育段階では、OECD加盟国の平均を下回るが、初等中等教育段階では他のOECD加盟国と同様の水準となっている。これら、教育費用や家族費用については、日本は世界全域の年少人口割合(国連推計)は、26.6%であるが、我が国の総人口に占める年少人口の割合は、12.9%と世界的にみても最も小さくなっている。2013年(平成25年)総務省「人口推計(平成25年10月1日現在)」によると、年少人口(0 - 14歳)は1,639万人、総人口に占める割合は12.9%となっている。これに対して生産年齢人口(15 - 64歳)は7,901万人(対総人口比62.1%)、高齢者人口(65歳以上)は3,189万8千人(同25.1%)となっているため、総人口に占める年少人口の母数の差によって家族関係や教育関係の支出比率が他国と異なっている可能性もある。 地方自治体で保護者負担を軽減することもあり、東京都杉並区では2億以上かけて、所得水準にかかわらず小学校教材費および中学校修学旅行経費の一部を助成している。平成28年度より、大阪市では4月から、5歳児の教育費を所得制限なしで無料にする方針を固めた。まず、学校教育法で「学校」として扱われる幼稚園は、保育料を全額無料にする。一方、保育所は機能が「教育」と「養護」に分けられるため、幼稚園の保育料と比較して教育費とみなされる部分を無料化する。これにより、保育料は現行の5-6割減となる計算である。 阿部彩の子どもにおける政府移転の貧困削減に対する再分配効果分析によると、子どもの年齢別に貧困率(再分配後)を見ると、年齢が高いほど貧困率が上昇している。また、父・母親の学歴別分析では小・中卒の親を持つ子どもの貧困率が特に高くなっている。日本財団が2015年に行った試算では、子どもの貧困を放置した場合、わずか1学年(現在15歳の子ども(約120万人)のうち生活保護世帯、児童養護施設、ひとり親家庭の子ども(約18万人)) あたりでも経済損失は約2.9兆円に達し、政府の財政負担は1.1兆円増加するという推計結果が得られたとしている。なお、同財団では「家も学校でもない第三の居場所」を設け今後100カ所設置することを目標としている。第一号拠点は 2016年11月(予定)に埼玉県・戸田市に設置するとしている。 箕面市で行っている「子ども成長見守りシステム」では市の保有する子供の家庭・経済・福祉受給状況などの環境要因と学力や生活習慣のデータを複合的に利用して市内の学齢期の子供を分析している。これにより、生活困窮度の高い家庭の子どもほど学力調査の偏差値が低く、また非認知能力と呼ばれる「問題解決力」などと家庭の経済状況・養育状況の関係が非常に密接に関連していることも明らかになった。日本財団はこのデータを分析し、貧困状態の子どもの学力は10歳を境に急激に低下し、年齢があがるにつれその差は拡大するとしている。基本的な非認知能力は、困窮世帯と他は低学年時点から差が大きいが、貧困下でも学力の高い子どもは、非認知能力が高く、基礎的信頼や生活習慣などの非認知能力育成が重要と結論づけている。
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