ビニール傘の歴史
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出典 1721年 江戸幕府御用達の傘問屋の武田長五郎商店が創業する。これが後に東京都台東区田原町の傘製造企業ホワイトローズ株式会社へと改組する。 1949年 ホワイトローズ9代目社長須藤三男がシベリア抑留から解かれて帰国。既に傘の販路は大手企業に抑えられていた為独自商品を模索する。 1953年5月 進駐軍のビニール製テーブルクロスの形状に着想を得て、当時色落ちに悩まされた綿張りの傘に被せるビニールクロスを350円で発売。「傘にカバーをかぶせる」という奇抜な発想だったが、当時傘布の色落ちに悩む顧客は多く、相当な人気を博した。 1953年以降 色落ちしないナイロン地の傘が増え、傘カバーの売上が急減。 1958年 ビニール傘第一号が完成。これは透明ではなく、梨地で乳白色をしていた。問屋からは布傘の競合品として扱いを拒まれ、納入予定先の大手商社との商談も不調で販路に窮し、当時のビニール傘は価格も高価だったという理由もあって、発売当初は売上を伸ばせなかった。やむなく当時の小売繁華街だった上野から傘を扱っていなかった銀座の路面店に移り、店頭委託販売営業を積極的に展開する。 1964年 東京オリンピックで来日したアメリカ人が、冬に雨が多く体を覆う傘が好まれるニューヨークで売りたいと持ちかける。須藤三男は専用の透明素材を企業に開発させて透明なビニール傘を完成させる。ニューヨークでは飛ぶように売れた。 1964年以降 週刊誌やキー局のテレビ番組が「銀座では中が透ける傘が流行しているらしい」と紹介し、その知名度は全国区となった。 2000年の日本映画『バトル・ロワイアル』が外国で上映される。北野武演じる「キタノ」が雨の中、ビニール傘をさして登場するシーンで観客からどよめきが起こる。欧米や欧州では布製の傘が主流であるため、透明なビニール傘は斬新でスタイリッシュに映った。その後、ビニール傘を自国で販売したいとの問い合わせがメーカー各社に多数あったという。 知名度が向上した後はホワイトローズに留まらず、最盛期には約50社の傘メーカーで大量生産が行われた。低廉化が図られるとビニール傘は「便利で安価な傘」と認識され、特に1970年代から1980年代以降には著しい需要の拡大を見せた。それでも1980年代前半の国内の洋傘総生産量は4000万本程度で、ビニール傘の割合もこの内の20%程度だった。関税がかからないという理由でアメリカ向けのビニール傘の組み立て拠点としていた台湾国内に技術が流出すると、台湾企業にアメリカ市場が奪われ、次いで日本市場も蚕食されてゆき、1987年には輸入品が国産品を逆転した。 バブル崩壊を受け、安価な製品の需要がさらに高まり、2000年代になると、仕入れ価格の優位性から、ビニール傘製品の95%以上を中国製の輸入品が占めるようになり、日本国内でさらに安価な小売価格で販売されるようになることで年々需要が逓増し、日本国内におけるビニール傘製品の販売数は2004年に4000万本、2006年に6000万本を超え、以後は毎年6000 - 7000万本と横ばいとなって現在に至っている。日本国内における傘製品の年間総販売本数は、長年1億 - 1億3000万本で推移しており傘製品全体の需要はさほど伸びていないが、その中で現代の中国製ビニール傘は、傘製品内の内訳50 - 60%を誇る分野となっている。 近年では、納入先である日本側の各社の低価格品要求が厳しくなるにつれ、受注する中国企業側も、人件費・用地や設備維持費などが上昇してきた中国沿岸部の能力の高い工場から、人件費・維持費が非常に安価だが製造技術や運営状況が充分とはいえない内陸部の工場へ発注せざるを得なくなった。このため、最近の日本国内で100円程度で販売されているビニール傘は非常に品質信頼性が低いとされている。現在では中国沿岸部の工場は、中棒や傘布がしっかりとした製品や、ビニール傘でも厚手のビニール材を用いた65 - 75cm径の大型製品などの製造に特化しており、こちらは日本国内でも600円から数千円程度で販売されている。いずれにしても、現代日本の傘市場においては、2006年の国内生産量は159万本にすぎず以降も横ばいで、2008年の洋傘輸入量が1億2900万本に達しその99%を占める中国製品に比較すると圧倒的に劣勢であり、現状はビニール傘にとどまらず、傘製品のほとんどを中国製品の輸入に頼らざるを得ない状況となっている。 2011年現在自社工場を持つ唯一の国内企業であるホワイトローズ社は高級路線に特化し、上皇后美智子も使用した女性専用傘や、雨天時に読経する僧侶専用の大型傘、他には純度が高く透明性の高い厚手ビニール材を用い、中棒・各骨に細かい加工を施し、手元に精巧なフェイクバンブーを用いた、親骨10本組み65cm径の高級ビニール傘(商標名「カテール(「勝てる」をイメージして命名」)等を製造している。これは4000円程度と高価なビニール傘であるにもかかわらず、選挙運動の際の雨よけを目的とする縁起物として、候補者の議員秘書や運動員が選挙のたびにホワイトローズ社まで買付けに訪れるなど、開発当初から一定の需要を持つ。
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