スパークプラグの構造
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/17 10:16 UTC 版)
スパークプラグの基本構造は、接地電極が溶接された外殻構造であるハウジングとイグニッションコイル等から受けた電圧を中心電極へ伝達する中心導体、およびそれらを絶縁する碍子で構成される。 ターミナル(端子) シリンダーの外に出る部分の先端には、イグニッションコイルなどで生成した電圧を受けるターミナルが設けられている。車両側のターミナルにはネジ式と嵌め込み式の2種類があり、点火プラグによっては両方の形式に対応できるように、ネジ式のターミナルに嵌め込み式ターミナルに対応するためのアダプターが付けられ、必要に応じてアダプタを取り外して使用する製品もある。 碍子 高電圧がかかった中心導体から外部への漏電を防ぐために、中心導体を覆う白い磁器製の絶縁体である。多くのスパークプラグでは碍子にリブと呼ばれる複数のくびれが設けられており、ターミナルからハウジングまでの絶縁体の表面距離を長くすることで漏電しにくくしている。 碍子脚部 ハウジング内部から燃焼室に向かって円錐状に突き出し、中心電極の根本を覆う部分の碍子は、碍子脚部と呼ばれる。耐熱性と強度が高く、高温下での熱伝導性に優れたアルミナが使用されている。 中心電極の温度を適切に保つように、ハウジングを介して熱をシリンダーヘッドへ伝達する機能を持つ。碍子脚部が短いと、火炎に晒される表面積が小さいことにより火炎からの熱を受けにくく、中心電極の熱が伝わる距離が短いことにより中心電極から放熱しやすい、すなわち中心電極が冷めやすい「冷え型」のプラグとなる。逆に碍子脚部が長いと、中心電極が冷めにくい「焼け型」のプラグとなる。こうしたプラグの特性は熱価と呼ばれ、中心電極の熱を逃がしやすい(すなわち冷え型である)ほど熱価が高い。 かつてのレシプロエンジンの航空機に用いられていた古い点火プラグでは、碍子脚部に圧縮加工された雲母を用いていた。1930年代の有鉛ガソリンの開発に伴い、プラグの自己洗浄作用にとって雲母に含まれる鉛成分が問題となったため、これを解決するべくドイツのシーメンスが酸化アルミニウム製の碍子脚部を開発した。 シール ハウジングと碍子の間に生じる隙間を密封し、燃焼室内の圧力が漏れ出さないように保つシールである。複数の箇所に施されている。 ハウジング ハウジングは金属製の円筒構造で、端部に接地電極が溶接され、内部に碍子と中心導体を保持している。接地電極をシリンダーヘッドにアース(接地)させる機能のほか、シリンダーヘッドに固定するためのネジ部と着脱時に工具のトルクを受ける機能を持つ。また、中心電極の温度を適切に保つように、碍子を介して受けた熱をシリンダーヘッドへ伝達する機能を持つ。 ガスケット ほとんどの点火プラグはシリンダーヘッドとハウジングとの間を密封するために、ハウジングのネジ部根本に金属製で中空の円環を備え、ガスケットとしている。ガスケットは中空の断面形状が変形してプラグホールの縁とハウジングの間に生じる隙間に密着して高い気密性を保つ。点火プラグをエンジンに取り付ける際には気密性を保ちながら、過度なトルクを掛けないように、プラグのネジ径に応じて推奨トルクや推奨回転角が設定されているが、ガスケットを備えたプラグにおいては再使用時の推奨回転角が小さく設定されている。 一方、ガスケットを廃してネジ部をやや先細にすることで気密性を保つテーパーシートタイプもある。 中心導体 中心導体はラジオや自動車電話などの電波通信やエンジン制御コンピュータなどの作動に影響を及ぼす点火ノイズの放出を減少させるために、セラミック抵抗体を内蔵している。 中心電極 中心電極はニクロムなどのニッケル合金で作られ、芯部に銅を用いて熱伝導性を向上させる場合や、先端部にプラチナ (Pt) やイリジウム (Ir) などのレアメタルが用いられる場合がある。かつて中心電極はニッケルクロム鋼で作られていたが、1970年代後半になると低温から高温までの幅広い温度域で機能するプラグが求められるようになり、中心電極の芯に熱伝導性の高い銅を封入した銅芯電極が英国Floform社によって実用化された。 通常、中心電極は正極として設計される。電極は細いほど火花が飛びやすく、点火直後の火炎の核が大きくなりやすい事から、点火装置の性能が十分ではない古いオートバイに適しているとされる。しかし、電極は燃焼室内の高温環境下で酸化浸食されて消耗するため、細くても十分な耐久性を保つ素材としてニッケル合金よりも融点が高いプラチナ、さらに融点が高いイリジウムが用いられるようになった。中心電極にイリジウムやプラチナを使用した製品の中には交換時期の目安が10万キロと、従前の製品よりも大幅に耐久性が向上した製品も登場するようになった。 スパークプラグの手入れ方法として、プラグメーカーではサンドブラストを用いる機材であるプラグクリーナーで清掃するか、あるいはパーツクリーナーのような有機溶剤を吹きかけてナイロンブラシ等で絶縁体に付着した汚れを落とすように推奨しており、金属製のブラシは避けるように注意喚起している。また、プラチナ製やイリジウム製の細い中心電極に用いたプラグでは、中心電極を痛める恐れがあるためブラシを当てないように注意喚起している。 中心電極に特殊な金属を用いた例では、かつてファイアストン (Firestone) がポロニウム製の中心電極を持つプラグを販売していたことがあり、2019年現在はボッシュ (Bosch) がイットリウム (Y) を用いたプラグを製造している。 形状の面では、韓国の燃費グッズメーカーであるコリア・インダストリアル・デザイン・カンパニー (KIDC) が2002年のアウトメカニカ(英語版)に「花形の中心電極を持つスパークプラグ」を出展し、後に「プラズマ・スパークプラグ」として製品化を行ったが、現在では製造を行っていない。KIDCと類似した中心電極を持つ点火プラグは、2011年にフェデラル-モーグル(英語版)がコロナ放電を利用した新型点火装置の点火プラグにて用いられた事があるが、コロナ放電点火装置は2019年現在特許出願中の段階であり、市販車両には採用されていない。 接地電極(側方電極) 接地電極はニッケル鋼によって作られ、ハウジングの端部に溶接されている。接地電極は高温になる部分である。複数の接地電極を持たせることで、電極消耗を分散したり、放電特性を改善した製品もある。接地電極が複数である程電極の汚損に対する冗長性が確保される為、航空用エンジン等で広く採用される反面、接地電極は燃焼室内で火炎核の広がりを妨げる要素にもなる為、エコカー向けには接地電極に溝を設けて火花隙間を変化させる事で電極の外端での火花生成を狙ったもの、モータースポーツ向けには非常に細い接地電極を採用したり、接地電極自体を省いた沿面点火型と呼ばれるものが採用される場合もある。
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